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フランス人ジャーナリストのエロティック比較文化論
気鋭の女性フランス人カウンターカルチャー専門ジャーナリスト、アニエス・ジアールが、「奇妙で豊穣な性文化」について日本の様々な文化的側面から掘り下げていくユニークな比較文化論。この世界はどのようにして創られたのか……。今回は神道とキリスト教における創世記の違いから日本特有の世界観を分かりやすく露にしていきます。
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「ママ、僕はどこから来たの?」。日本とフランスの創世記の違いを比べてみよう。耳からか、もしくはセックスからか?

京都の哲学の道にある最初の神社は、旅する人、主に熊野古道に出発する人のために建てられている。
だから歩き始めるにあたっては、最初に神社に寄って、良い旅路を祈願せねばならない。たとえそれが小さな旅であったとしても。

その神社の名は、熊野若王子神社という。






この神社は日本におけるもっとも重要なラブストーリーに捧げられているといってよいだろう、イザナミ、イザナギの愛の物語だ。

これがそのお話だ(忘れている人のためにね)。
イザナギ(招く男性)とイザナミ(招く女性)は黄泉国(よみつくに:暗闇の国)に送られる。伝説によると、二人は天浮橋(あめのうきはし)に立って、混沌とした海(大きな象徴的ヴァギナ)を天沼(あまの)矛(ぬぼこ)(大きな象徴的ペニス)でかき混ぜる。彼らがその宝石のついた矛を持ちあげると、水面にしたたり落ちたしずく(象徴的精液?)は最初の島を形成した。その島はオノゴロ島と呼ばれている。イザナギとイザナミはその島に送られ、彼らは背の高い聖なる柱(象徴的金精様)を建てる。イザナギはその柱を一方から周り、イザナギは反対側から周った。そうして二人は出会うと、結婚した(性交した)。最初の子供は不具であった。他の神々によると、それは結婚の儀にあたってイザナミが夫よりも先に喋ったからだいう。二人は再度、今回は正しく儀式を行なった。イザナミはすぐに可愛い赤ちゃんを8人産み、それが日本の島々となった。また二人は山や谷、滝、川、風などあらゆる日本の自然美を表象する神々や女神たちを産んだ。

この物語は日本の最古の書物二冊に記されている(紀元前700年)、古事記と日本紀(※註1)である。

ここからはこの物語に対する私の解釈である。
聖書(キリスト教の創世記)では、世界は"創られ"た。世界は、セックスなしに一人の神の連綿とした抽象的な言葉によって紡がれたのである。キリスト教においては、神は邪悪な身体から逃れえた"穢れなき"ものである。
古事記や日本記(日本人にとっての創世記)では、世界はもうけられたものだ。世界は男(イザナギ)と女(イザナミ)の間の性的なそして愛ある関係性によってできたものなのだ。
これが意味するところは、日本人にとって、セックスとは、つまり愛とは聖なる行為であるということだ。それは神と似た姿をした人類を創りだす行為なのだ。
日本人にとって、セックス、愛とは命やエネルギー、力、幸福を創りだす手段である。全ての肯定的な喜びやダイナミックな興奮、誘惑する欲望、より深い喜びから我々は生まれてくるべきなのだ。

キリスト教徒にとって、セックスとはタブー、悪である。そして身体は危険分子だ、なぜなら人間は自身の欲望をコントロールできないからである。人はみな精神と言葉から生まれなければならない、つまり抽象的な脳の操作によって生み出されるというわけだ。聖アンブローズのように何人かのキリスト教者は、イエス・キリストは耳から生まれたといったものだ。天使が彼女に告げたからマリアは妊娠したとね。"Maria per aurem impregnata est(マリアは耳から妊娠した)"である。これが19世紀まで母親が子供たちに「ママ、僕はどこからきたの?」と聞かれると、「ある晩のこと、お父さんがとっても素敵なことを囁いたの、とても優しい秘密よ、とても低い声でね。だからお母さんはお父さんの口に耳を近づけたの、とっても近くに。そうしたらあなたを妊娠したの」と答えたものだ。これは言霊に通じる話しではあるけれど、神道というわけではないわね?


熊野の若王子神社には、"完璧な形"をした梛(なぎ)の木がある。その葉は完全な左右対称で、バランスよく、対になっている。
だから、多くの恋人たちはこの小さな梛の枝を求めてこの神社にやってくる。

ある僧侶は若王子神社の梛は伊勢神宮でも使われていると言っていた、"完璧すぎますからね"と 。
葉はまるで鳥の羽根のようにさえ見える。

入口には聖なる梛の木がある。




イザナギの名が梛の木の漢字にあてられるのは興味深いことだ。
イザナギとはどんな意味なのかと聞いてみた。

熊野の誰かが教えてくれた。イザナギのイザナの一つの解釈は、招くとか誘惑という意味であり、ギとは男を意味しえる、一方でイザとは"出かける(聖なる世界から)"、もしくは"成就"、"慈善の心"を意味し、ナギは"平和"を暗示しているともとれる。

日本で最も重要な梛の木は熊野速玉大社にある。でもこのことについてはまた別の機会にね!

文=アニエス・ジアール
翻訳=前田マナ

※註1  『古事記』ではイザナギノミコトは、伊邪那岐命、『日本紀』では、伊弉諾神と表記される。


"through the ear", or "through the sex" ?

"Mummy, where do I come from?" ―let's compare Genesis in Japan and in France
Through the ear or through the sex?

The first "jinja" on the Tetsugaku no michi, in Kyoto, is dedicated to the people who start a trip (mainly for Kumano Kodo).
So, when you start walking, first, you have to go to this "jinja", in order to pray for good trip. Even if it's a little trip!


The "jjinja"'s name is Kumano Nyakuo-ji 若王子神社.
It is dedicated to one of the most important love-story in Japan :the love-story of Izanagi et Izanami.

Here is this love-story (for those who forgot):
Izanagi (The Male Who Invites) and Izanami (The Female Who Invites) descended to Yomitsu Kuni, land of darkness. According to legend, they stood on the floating bridge of heaven and stirred the primeval ocean (a huge metaphorical vagina) with a jeweled spear (a big metaphorical penis). When they lifted the spear, the drops (metaphorical sperm???) that fell back into the water formed the first solid land, an island called Onogoro. Izanagi and Izanami descended to the island and they built a tall, sacred column (a metaphorical "konsei-sama"). Izanagi circled the column in one direction, Izanami went in the other. When they met face to face, they married (they had sex). Their first child was deformed, and the other gods said it was because Izanami spoke before her husband at their marriage ceremony. The couple performed another wedding ceremony, this time correctly. Izanami soon gave birth to eight lovely children, who became the islands of Japan. Izanagi and Izanami then created many gods and goddesses to represent the mountains, valleys, waterfalls, streams, winds, and other natural beauties of Japan.
This story is told in the 2 oldest books of Japan (700 after JC): the "Kojiki" (Records of Ancient Matters) and the "Nihongi" (Chronicles of Japan).

Now here is my analysis of this story:
In the Bible (Genesis for Christian people), the world is "created". It's created through abstract process of language by one God who has no sex. In Christianism, God is "pure" from evil body.
In the "Kojiki"-"Nihongi" (Genesis for Japanese people), the world is "procreated". The world comes from sexual and love relationship between one male (Izanagi) and one female (Izanami).
It means that, for Japanese people, sex-love is sacred act. It's the act that makes humankind similar to God.
For Japanese people, sex-love is a way to create life, energy, power, happiness. Everything we do must come from positive pleasure, dynamic excitement, desire to seduce and to get more pleasure.
For Christian people, sex is something taboo, evil. Body is dangerous, because we can not control our appetite. Everything we do must come from the mind, the words, very abstract operations of the brain. Some Christian people -like Saint Ambroise- used to say that Jesus-Christ had been made "by the ear". The angel talked to her, and then she became pregnant: "Maria per aurem impregnata est". This is why, until the XIXe century, mothers used to tell the children who asked "Mummy, where do I come from ?" : "One night, your father said something very nice to me, like a tender secret, with a very low voice, so I had to put my ear very close to his mouth… and then I got pregnant".
It's very similar to Kotodama. But it's not very "Shinto", ne ?


In Kumano Nyakuo-ji jinja 若王子神社, there are "nagi" with "perfect shape". The leaves are perfectly symmetrical, and in balance. They go by pair.
This is why many lovers come here to get a little branch of "nagi".

The priest says that the "nagi" from Nyakuo-ji jinja is also used in Ise jingu, "because it's so perfect".
The leaves look like bird wings!

In the entrance, there is a sacred "nagi".
It's very interesting the name of Izanagi is written with the "kanji" for "nagi tree".
I asked someone what does "Izanagi" mean?


Someone from Kumano told me: "One of the interpretations is that Izana of Izanagi could mean invitation or temptation and "gi" implies man, whereas one theory claims that Iza could mean "start off (out of the sacred world)" or could mean "achievement" or "charity" and "nagi" connotes "peace."

In Japan, one of the most important for "nagi" is Kumano Hayatama. But I will talk about it another time.

text=AGNES GIARD

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アニエス・ジアール - AGNES GIARD - 1969年生まれ。仏リベラシオン紙のジャーナリストであり、主にカウンターカルチャーや性に関する記事の専門家。日本のエロティシズムについて言及した著作 『エロティック・ジャポン』(仮)、『図解 ビザール・セックス全書』(仮)がそれぞれ河出書房新社と作品社より近日刊行予定。現在は京都の関西日仏交流会館ヴィラ九条山に滞在しており、日本における様々な恋愛物語についての本を準備中。

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前田マナ 英国ランカスター大学演劇学部修士修了。専門は現代演劇やコンテンポラリーダンス。 ライターとしてウェブや雑誌等に雑文なども寄稿。
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