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第12章 指導者・レイヤ【8】

PTWの指導者であるレイヤ・キヴィマキが潜伏先のアパートで消息を絶って、すでに一週間が過ぎていた。一緒にいたエリカと晶も共に姿を消している。

警察に逮捕されたという報道はないが、秘密裏に拘束されてしまっているのかもしれない。

「どこにいるの、レイヤ……」

レイヤの片腕として行動を共にしてきたターヤは、頭を抱える。PTWの創始者であるロッタ・キヴィマキの娘であるレイヤは、PTWにとって、いや全世界の女性権利運動のシンボル的存在だ。性の商品化を憎み、その根絶を願う人間にとって、レイヤは若きカリスマであり、その行動は常に注目を集めていた。いわれのない罪によって国際指名手配され、姿を潜めている間も、そのメッセージは常に伝えられ、活動に関わる者全てを勇気づけていた。

もし、彼女が行方不明になっていることが明らかになれば、PTWも、そして世界中の女性権利運動は大きなダメージを受けることになるだろう。

ターヤは、なんとかその事実を隠していたが、いつまでも隠し続けられるものではない。PTW暫定本部ともいうべき、この隠れ家で、ターヤたちは情報を必死に収集するしかなかった。

「ターヤ!」

隣のデスクでノートパソコンのキーボードを叩いていたグレイスが叫んだ。彼女もターヤと同じくアフリカ系移民の漆黒の肌を持った女性だった。売春宿に売り飛ばされそうになったところをPTWのメンバーに救われ、それ以来レイヤに心酔している。

「レイヤに関する告知が、ネットのあちこちに突然ばらまかれてるわ。なに、これ?」
「え?」

ターヤもあわてて、モニターを覗き込む。グレイスに教えられたURLにアクセスする。そこは誰もが匿名で書き込みが出来る巨大な掲示板だ。そこにレイヤの顔写真とURLが貼られていた。

「あなたの知らないレイヤ・キヴィマキの真の姿」

そして今から30分後の時刻を示す数字とリアルビジョンのURL。一緒に貼られているレイアの顔写真は、ターヤも見たことのないものだった。最近撮られたものかもしれない。こわばったような無表情だが、端正な彼女の美貌がはっきりとわかる。

「リアルビジョンで中継でもするというのかしら」

ターヤはつぶやく。リアルビジョンは2年ほど前から急速に広がったインターネットの中継サービスだ。誰でも手軽に映像を発信できるということで人気を集め、現在では世界中の国で愛用されている。

「一体誰がこれを? あらゆる掲示板にこの告知が書きこまれてるみたい。それも、色々な言語で世界中にばらまかれてるわ。ちょっとした悪戯とは思えない規模よ」

ターヤは貼られているURLにアクセスしてみると、画面には「レイヤ・キヴィマキ」という文字が映し出されているだけだった。まだ中継は始まっていないのだろう。

「レイヤがこれをやってるのかしら。でも、私たちに何の相談もなくやるはずはないわ」

リアルビジョンの「レイヤ・キヴィマキ」画面に表示されるアクセス数がどんどん増加している。すでに50万を超えている。このペースでいけば、あっという間に100万を超えるだろう。あの告知を知った世界中の人間が、この中継を見るためにアクセスして来ているのだ。

ターヤとグレイスは、PTWのメンバーたちに次々と連絡を取るが、誰もこの中継に関しての情報は持っていなかった。

そして、やがて、告知された時刻がやってきた。


画面いっぱいの「レイヤ・キヴィマキ」の文字が消えると、奇妙な部屋が映し出された。床も壁も真っ赤に塗られている。その壁にはいくつもの道具がかけられ、そして大きな器具も床におかれている。わかっている者が見れば、それが拷問やSMプレイに使われる道具であることがわかるだろう。

その部屋の中央に、レイヤ・キヴィマキが立っていた。その淫靡な部屋には不釣合いな青いフォーマルなドレス姿だった。胸元が大きく開いたドレスを着て、しっかりとメイクをしたレイヤは、まるでハリウッドスターのように美しかった。いつもは、あまり化粧っ気がないレイヤだが、こうしてメイクアップされると、その美貌は群を抜いていることがわかる。

しかし、その表情は固くこわばっていた。何かに怯えているようにも見える。

画面がレイヤの顔をアップに映しだす。画面の外から声がした。

「ちゃんとカメラを見るんだ、レイヤ」

目を伏せていたレイヤが、顔を上げる。目が潤んでいるようだった。唇が細かく震えている。

「みなさんに伝えることがあるんじゃないのか?」

画面の外の声に、レイヤは小さく頷く。

「こ、これから、リアルビジョンをご覧のみなさんに、レイヤ・キヴィマキの本当の姿を、お、お見せします」

その声は弱々しく、画面の外にいる男に、無理矢理言わされていることは明らかだった。

画面は再び、レイヤの全身を映しだした。レイヤは両手を腰の前で組んだまま、動かない。何かをしなければいけないのに、踏み出せないようだ。

「早くするんだ、レイヤ。みなさんがお待ちかねだぞ」

画面の外の男に怒鳴られると、レイヤは悲しい決意をしたようだった。おずおずと、手が首の後ろに伸びた。

ホックを外す。そして、青いドレスからゆっくりと肩を抜いた。真っ白な肌が現われる。ドレスが床に落ちると、レイヤは下着姿になっていた。ドレスと同じ、淡い青のブラジャーとショーツ。胸はそれほど大きくはないが、形よく盛り上がっていることは下着の上からでもはっきりとわかる。そして無駄な肉はないが、女らしい優美な曲線を描いた体つきと、白く滑らかな肌。前かがみになり、両腕で胸と股間を隠すようにしているが、それでも、その肉体が素晴らしいものであることは、誰の目にも明らかだった。

「もう100万人以上の人がお前の下着姿を見てるぞ。ふふふ、うれしいか?」
「あ、ああ……」

レイヤは頬を真っ赤に染めて、さらに身体を隠そうと小さくする。世界中の男女に、あられもない下着姿を晒している。もうまともに立っていられないほどの羞恥にレイヤは襲われていた。

しかし、これから彼女が体験しなければならない羞恥は、こんなものではないのだ。

「それじゃあ、まず上から取ってもらおうか」

画面の外の男の言葉に、レイヤは唇を噛む。目をつぶり、しばらく何事か考えていたが、やがて諦めたように両手を背中に回した。

レイヤは腕でしっかりと乳房を隠しながら、ブラジャーを外した。両腕を前で交差させて、すこしでもその膨らみをカメラの視線から避けようとしている。

「それじゃあ、見えないじゃないか。両腕を頭の後ろに組んで、みなさんにおまえのおっぱいを、しっかりとお見せするんだ」
「は、はい……」

今にも泣き出してしまいそうな表情で、レイヤは腕を上にあげた。乳房が露になる。それほど大きくはないものの、張りのある美しい形状の膨らみだった。可愛らしい乳首と乳輪は淡いピンク色である。

男に言われたとおりに両腕を上に上げて頭の後ろで組むと、乳房はひっぱられ平らになるものだが、張りのあるレイヤのそれは、しっかりとした盛り上がりを崩さない。

「ほら、ちゃんとみなさんに見てもらいたいんだろ。これがレイヤ・キヴィマキのおっぱいですとカメラに向かって言ってみろ」

レイヤは震える声で従う。

「ああ……。こ、これがレイヤ・キヴィマキの、お、おっぱいです」
「あまり大きくなくて申し訳ありませんが、感度は十分です、だ」
「あまり大きくなくて、も、申し訳ありませんが、感度は、じゅ、十分です……」
「ようし、調べてやろうな」

男がそう言うと、画面の中に一人の少女が現われた。深緑色のチャイナドレスを着ている。そこから突き出した腕や、スリットから見える脚は、白く細く、可憐な印象を与える。

レイヤは彼女の顔を見ると、少し怯え、そして何かを諦めたかのような吐息を漏らした。

少女はレイヤの背後に回り、腕を前に回した。レイヤより背が低いので、彼女の腕だけが画面に写っている。

細いその指がレイヤの乳首に触れた。

「あっ……」

レイヤの身体がビクンと反応した。少女の指先は、乳首をつまみ、軽くひねった。

「ん、んんっ……」

さっきよりも甘い声が漏れる。みるみるうちに乳首が固く勃起した。

「あ、あんっ、だめ……」

少女の指の動きは巧妙だった。指が動く度に、レイヤの官能が高まっていくのがわかる。レイヤの白い肌がほの紅く染まりはじめ、汗がにじむ。息が荒くなる。目が潤む。

それは、あの女性権利運動のカリスマとして凛とした姿を見せていたレイヤ・キヴィマキと同一人物とは思えない姿だった。


「な、なんなのこれは!」

ターヤがモニターの前で叫んだ。そこに映し出されているのは、信じられない光景だった。

「レイヤが、なんでこんな……」
「誰かに脅されて、無理矢理やらされているに決まってるわ。これは犯罪よ。こんなものが世界に中継されてるなんて。リアルビジョンに連絡しないと!」

美しい女性が可憐な少女に愛撫されている痴態が実況中継されている。その情報は、たちまちネット中に広がっていった。世界中からリアルビジョンにアクセスが殺到する。その大半は、女性権利運動家レイヤ・キヴィマキの存在を知らず、単なる美女としてしか認識していなかったが、やがて彼女のプロフィールをまとめたものも、一緒に流れるようになった。

いったい、なぜこんな映像が中継されているのか、誰にもわからない。しかし、誰も目を離すことが出来なかった。

画面の中では、乳房を愛撫されて、今にも崩れ落ちてしまいそうに感じてしまっているレイヤが、身体をくねらせながら喘いでいる。感じてはいけないと必死に耐えているようにも見えるが、それは無駄な抵抗というもののようだ。

その証拠に、彼女のなめらかな下半身を包むブルーのショーツに、染みが広がっていた。カメラはその変化を見逃すことなく、時折アップで映し出す。ショーツを濡らしながら、くねくねと悩ましげに揺れる下半身は、とてつもなくエロティックだった。

「ずいぶんと感じてしまっているみたいだな、レイヤ。世界中の人が見てるというのに、なんていやらしい女なんだ。そんな顔を見られてもいいのか?」

画面の外からの声が、意地悪くレイヤを責める。レイヤは自分が置かれている状況を改めて思い知らされ、羞恥に身をよじった。しかし、恥ずかしいと思えば思うほど、身体の奥で燃え上がっている官能の炎は激しくなっていく。

「それじゃあ、そのビショビショになったおまんこを、世界中のみなさんに見てもらうことにするかな」

男の声が宣告する。

「ああ、お願いします。それだけは許して下さい……」

思わずレイヤは許しを乞うた。無駄だとわかっていても、言わずにはいられない。そんなところまで世界中に見られてしまうなんて。

しかし、男は冷酷に言い放つ。

「早くレイヤ・キヴィマキのおまんこを、世界中に公開するんだ」

レイヤの目の前が真っ白になった。

(続く)

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11.09.26更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |