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第5章 公務奴隷・真紀【6】

「ひいっ! いやぁっ!」

悲痛な叫び声が聞こえた。真紀は恐怖に身をすくめる。ドア越しにもしっかりと聞こえるほどの悲鳴だった。

同時にピシっという鋭い音、そしてさらに悲鳴が続く。

「覗いてみろ」

所長に命令されて、真紀は恐る恐るドアの小さな覗き窓から中を見た。

「ひっ!」

今度は真紀が悲鳴を上げた。赤い淫猥な照明の部屋の中で、全裸の女が天井から吊るされていた。そして両腕を鎖で吊られ、引き伸ばされた肉体には、無数の傷跡がつけられていた。赤く腫れ上がり、血が滲んでいる。

その隣には、鞭を持った男がいた。狂気じみた笑顔を浮かべ、涎までたらしていた。下着一枚の姿だが、その股間は布地越しにでもはっきりわかるほど勃起している。

「ほら、もっと叫べよ、ほら!」

そう言いながら男は、女の肌へ向けて鞭を振るった。肉の裂ける鋭い音、そして女の悲鳴が上がる。男はその声を聞くと、満足そうに笑う。恐ろしい表情だった。

真紀は思わず目を背ける。

「こいつは重度のサディストでな。普通のセックスでは全く興奮しないというんだ。女が苦痛に呻く姿にしか欲望を感じられないというんだから、こいつを満足させるには、こういう方法しかないわけだ」
「そ、そんな……。でも、奉仕者の体に傷をつけることは禁じられているはずです」

真紀は気丈にも、所長に反論した。所長は少し驚いたような顔をする。

「ほう、さすがはジャーナリスト様だ。しかし、大丈夫だよ。法律で定められているのは、治療不可能な傷を負わせることだ。当収容所の医療スタッフは優秀でな。少しの傷も残さないように治療してくれる。治ったら、また相手をしてもらうかもしれんがな」

それではまるで、切り裂かれも生き返り、また切り裂かれるという等活地獄ではないか。

「この特別奉仕室は、こうした特殊な性癖を持った者の欲求不満を解消させるのが主な目的だ。だからマゾヒストを満足させるために、逆に女王様役をやってもらうこともあるし、もっとマニアックな趣味の者の相手をしてもらうこともある。ふふふ」

所長は不気味に笑い、その異常さに真紀は震え上がった。所長の言う「マニアックな趣味」が、どんなことを指すのか理解は出来なかったが、何か背徳的な行為であることは感じられた。

「もちろん、いくら特殊な性癖を持っていようと、よほどのことがない限りこの特別奉仕室を利用することは出来ない。ここを使えるのは、いわば選ばれた者だけだ」
「選ばれた、者?」
「ふふふ、お前にもそのうちわかる。とりあえず真紀、お前はしばらくはここで奉仕生活を送ることになるのだ」

この収容所において、公務奉仕者=奴隷には安らげる場所などない。自分たちは性の奴隷として2年間を過ごさねばならないのだ。真紀は自分の堕とされた状況の恐ろしさを改めて認識した。



「宮本隆だな」
「はい」

自分の前のソファにどっかと座っている初老の男が、この収容所の名誉顧問の北尾事務次官であることは宮本にもわかった。ついさっき、彼が新しい美形の公務奴隷を責めるところを見させられたばかりだからだ。そのお偉いさんが、おれに何の用があるのか。宮本には全く思い当たる節はなかった。

「奉仕者だった女教師を、その時期の動画をネタに脅迫し、自分の個人奴隷として調教した……。ガキの癖にずいぶん恐ろしいことをしでかしたんだな、お前は」
「……」

自分がこの収容所に送り込まれた理由を、北尾は知っているようだ。

「しかし、面白いよ。その年でそれだけのことが出来たというのは、ある種の才能があるってことだろう。実は、ワシも同じような趣味があってな」

知ってるよ。さっき、あんたのプレイは見せてもらったからな……と宮本は心の中で呟いた。

「ところで、お前はコンピュータ、特にネットにはかなり詳しいそうじゃないか」

いきなり話題を変えられて、宮本はドキリとする。そもそも女教師の弱みを握ることが出来たのも、ネットのアングラ仲間の情報がきっかけだった。宮本は中学生にして、いっぱしのハッカーを気取れるだけのスキルを身につけていた。

「ちょっと我々の仕事を手伝ってもらえないだろうか?」

北尾はそう言ってジロリと宮本を見た。友好的な笑顔を浮かべてはいるが、目は笑っていない。海千山千の官僚の世界を渡り歩いてきた男の底知れぬ怖さがその眼差しからは感じられて、宮本はゾッとした。おそらくこの男は自分に、表沙汰には出来ない作業を頼もうとしているのだろう。

北尾の迫力に飲まれてたまるかという反発心から、わざとぶっきらぼうに答える。

「どうせ、おれには拒否権はないんでしょ? この中にいる限り」
「はははは、そうひねくれたことを言うな。タダでとはいわんよ。ちゃんとやってくれれば、ご褒美もやろう。たぶん、お前が一番喜ぶような」

北尾の言葉に、彼に責められていた美女の姿が浮かんだ。奉仕室でのつまらない女とのつまらないセックスなら勘弁だが、あれくらいの美女を責めることが出来たら……。宮本は一瞬だけそんな妄想を描いた。

「何をすればいいんですか?」
「ふふふ、手伝ってくれるか。言うまでもないが、この仕事は一切他人には漏らしてはならないぞ。もし、万が一のことがあれば」

北尾の目がまっすぐ宮本を見た。何もかも見透かしてしまうのではないかと思うほど、強烈な眼力だった。宮本が今まで出会った大人の中で、こんな恐ろしさを感じさせる人間はいなかった。

「ここよりも、もっと楽しいところに行くことになるよ、宮本君」

宮本は息を飲んだ。答える声が震えた。

「は、はい。わかっています」



それから宮本は今まで生活していた宿舎から、特別奉仕室のある建物の地下に隠されたエリアへと居を移すことになった。かつて所属していた班の人間には、他の収容所へ移送されることになったと伝えられたが、実は何か大変なことをやらかして処分されてしまったという噂が広まっていた。あの影の薄い男が一体何をやってのかと、興味深げに話す者もいたが、すぐに誰もが宮本のことを忘れてしまった。それよりも、一般奉仕の順番がいつ回ってくるか、どの奴隷に当たるかといったことのほうが彼らにとっては重要だった。

宮本が北尾から命じられたのは、様々なハッキング作業だった。民間企業や、北尾の属する奉仕庁以外の省庁、そして時には海外の機関など。ただ、それほど重要な部分へのハッキングは命じられなかったため、宮本にとってそれほど難しい仕事ではなかった。それよりも、世間はこれほどまでにセキリュティに対して甘い考えなのかと、驚くことが多かった。重要なデータベースへのパスワードがあまりにも単純だったり、同じものを使い回していたり。これではハッキングしてくれと言わんばかりだ。

自分のやっていることが、どれくらい北尾にとってメリットになっているのか、実際のところ宮本にはよくわからなかったが、とりあえずは満足してもらっているようだった。生活する部屋も、これまでの荷物扱いのような就寝室とは比べ物にならないほど立派だった。

そして何よりも宮本を喜ばせたのは週に一日ほど与えられる奴隷との時間だった。

宮本がこの作業に従事して5日後に、所長が部屋を訪れた。

「よくやってくれているようだな、宮本。事務次官も大変お喜びだよ」

北尾の顔色をうかがうことが最も重要な仕事である所長にとっては、宮本の活躍は何よりも喜ばしいことだった。

「そこで、お前にボーナスをやろう」

所長が宮本の部屋に連れてきたのは、宮本と年の変わらないくらいの少女だった。恐らく奴隷となる最低年齢の15歳か16歳くらいだろうが、華奢な体つきなので、もっと幼く見えた。もちろん全裸に赤い首輪。所長の後ろで、少女は体を縮こませながら、胸と股間を隠していた。

「公務奉仕者の真弓だ。これから3時間ほど、お前にくれてやる。好きに楽しむがいい」

そう言って所長は真弓を置いて去っていった。後に残された真弓は所在なげに佇んでいたが、しばらくすると床に座り込んで、土下座した。

「奴隷の真弓です。本日はご主人様にご奉仕させていただくことになりました。どうかよろしくお願いいたします」

突然の展開に、宮本はとまどった。特別奉仕室と同じ建物の中ではあったが、宮本は自分の部屋に、ほとんど監禁状態だった。たまに運動の名目で外気を吸わせてもらえることもあったが、特別奉仕室で働く奴隷たちと顔を合わせることは全くなかった。そのため、真弓とも初対面だ。

どうしていいのかわからないで立ったままでいる宮本に、真弓はそっと近づく。

「失礼します」

一言断わってから、真弓は宮本の上着のボタンを外していった。甘い女の体臭が宮本の鼻をくすぐる。

真弓はほっそりと華奢、というよりも貧弱といったほうがいい体つきだった。胸もほとんど膨らみがなく、尻も小さかった。顔立ち自体は地味ながらも整っているが、少女というより美少年といったほうが似合いそうだった。

女としてこの体型は好き嫌いが分かれるところだろう。よほどタイミングが悪かったのか、真弓への希望者は現われず、公務奴隷となってしまったわけだ。

宮本にしても、実は所長に「ボーナス」と言われた時には、あの時の美女を勝手に思い浮かべたため、貧弱な真弓が出てきた時は、正直がっかりしてしまった。特に宮本は成熟した大人の女性を好む傾向があり、いかにも未熟な体つきの真弓は興味の対象外だった。

しかし、それでも全裸の女性が自分に肌を寄せ、服を脱がしていくという状況になれば、若い宮本が興奮しないわけがない。

「あ……」

ズボンに手をかけようとした真弓は、宮本の股間がすでに大きく固くなっていることに気づき、恥ずかしそうに目を伏せた。

「う……」

宮本も何だか照れくさく、視線を外した。それでも、真弓はゆっくりと宮本のズボンを下ろし、靴下まで脱がせる。たちまちブリーフ一枚の姿にされてしまう。

「よろしいですか?」

真弓は宮本を見上げて、ブリーフの裾に指をかけた。宮本は頷く。

「失礼します」

真弓はしゃがみ込むとブリーフを下ろし、そして屹立した宮本のペニスを、そっと咥えた。

少女の小さな唇が宮本の先端を包み込む。もちろんシャワーも浴びていないので、ムッとするような若い男の体臭が漂う。分泌物により汚れもある。

しかし、真弓は構わずに小さな舌で丁寧に宮本の先端を舐めまわしていく。あどけない顔立ちに似あわず、丁寧な舌遣いだった。

結局不発に終わった一般奉仕室での体験を除けば、本当に久しぶりの快感を宮本は味わっていた。

チロチロチロと真弓の舌は小刻みに動き、先端から根元、そして玉袋のほうまで這い回る。宮本は快感に酔った。

思わず目をつぶると、脳裏に数カ月前の記憶が甦る。女教師のむっちりとした巨乳と尻が浮かぶ。失ってからも、何度も何度も反芻した甘い記憶。

「美沙子……」

ついその名前が口からこぼれた。しかし、懸命に舌を這わせている真弓には聞こえていなかったようだ。

(続く)

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10.05.03更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |