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Alice who wishes confinement
私の居場所はどこにあるの――女児誘拐の不穏なニュースを観ながら倒錯した欲望に駆られた女子高生が体験する、エロティックでキケンで悩み多き冒険。理想と現実の狭間で揺れ動く乙女心とアブノーマルな性の交点に生まれる現代のロリータ・ファンタジー。オナニーマエストロ遠藤遊佐の作家デビュー作品!!――俺の性的嗜好は確かに少し変わっているらしい。でも、妄想は妄想、現実は現実だ。それくらいのことはわきまえている。
それがタナベのプライドだった。
ロリコン一筋数十年。清純派美少女をこよなく愛していることは否定しないが、これまでの人生において痴漢などという卑劣な行為をしたことは一度もない。
どんなに心惹かれるタイプの少女が目の前にいても、妄想の中で弄ぶだけ。実際に手を出すなんてことは絶対にしないし、白いうなじやキュッと締まった足首なんかを盗み見るときも、周囲に悟られないよう細心の注意を払ってきた。
家族はもちろん、会社の上司や同僚も彼のロリコン趣味のことは知らないだろう。知っているのは、インターネットの掲示板でだけやりとりする顔も知らない同好の士。あと、女子高生プレイの相手をしてくれるイメクラの女だけだ。
どこにでもいる目立たない会社員、それが実社会におけるタナベの姿である。身にまとう雰囲気は家庭を持つ同年代の男たちとは違うかもしれないが、それなりに小ざっぱりと身なりを整え、きちんと社会生活を営んでいる。だから、痴漢に間違われたことも初めてだった。
彼は、ひどくショックを受けた。
――あの子を監禁したことで、俺はケダモノに変わってしまったのだろうか。
最初はそう思ってドキッとした。
確かに、ここ最近の自分は朝から晩までセックスのことばかり考えている。彼女と一つ屋根の下にいるせいで、これまで胸の奥にしまいこんでいた欲望が膨れ上がって、溢れ出しそうになっている。自分でも気づかないうちに、とうとう顔に出るようになってしまったのかもしれない。
しかし、すぐにそんなことはないと思い直した。
あのとき、目の前の美少女に目を奪われたのは事実だ。でも別にいやらしい目で見ていたわけではない。不思議なことだが、卑猥な妄想さえもしていなかった。残業帰りの疲れた頭に浮かぶのは、「この子はアリスより少し痩せてるな」とか「同じ美少女でも、髪の匂いってのは微妙に違うものなんだな」とか、そんな他愛もないことばかりだったのである。
今考えてみると、自信を持って言える。自分はあの少女に欲情していたのではない。
じゃあどうして、家で待っているまゆりに対してあんなことをしてしまったんだろう。
タチの悪い女子高生達にやってもいない痴漢の罪を着せられたタナベは、乗客の冷たい視線を浴びながら次の駅で電車を降ろされた。駅員の元へ連れていかれるのかと身構えたがそんなことにはならず、結局言われるがまま財布にあった3万円を払うことで事なきを得た。。
ホームの隅で20歳以上も年下の少女達に取り囲まれて金を請求されたときは、怒りで財布を取り出す手が震えた。俺は無実だ! 何度もそう大声で叫びたくなったがグッとこらえた。
まさかとは思うが、万が一警察が出てくるようなことになったらおしまいだ。なんといってもタナベは誘拐監禁魔なのである。
それに、どうも相手の少女たちは常習犯らしい。ここで言い争っていても家に帰るのが遅くなるだけ、おとなしく引き下がることはないだろうということは容易に想像できた。
女子高生達は「今度から気をつけてくださいね〜」と、ふてぶてしい言葉を残して去っていった。後ろに隠れて終始うつむいていたあの美少女も、後であの娘たちから分け前を貰うのだろうか。
もう一度電車に乗りこんでからも嫌な気分はなかなか消えない。いや、どんどん膨らんでいく一方だった。
――なんだ、あいつら。ションベン臭いビッチのくせに、大人をバカにしやがって。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
そんなとき、自宅のリビングで独り自分の帰りを待っているまゆりの姿が心に浮かんだのである。
気がつくとタナベはコンビニで夕食を買うのも忘れ、一直線に家へと向かっていた。家に一歩近づくごとに、股間が熱くなってくるのがわかった。駆け出したくなる気持ちを抑えるのがやっとだった。
そして帰りついた途端、有無を言わさずセーラー服を着せフェラチオをさせたのである。。
まゆりが怒るのは当然だと思う。自分の傷ついた心をなんとかするために無関係の相手にイライラをぶつけたのだからだ。しかもタナベは、彼女が黙ってそれを受け入れてくれるだろうとわかってそうしていたのだ。まるで、いじめられた子供が母親に八つ当たりしているようなものじゃないか。
タナベはふと気づいた。
――もしかしたら、俺はあの子に甘えているのかもしれない。
10代の女子高生に40過ぎの中年男が甘えるなんて、我ながら気持ちの悪い話だ。しかも相手は囚われの獲物、こっちは監禁魔兼ご主人様なのである。
けれど彼にとっては、これほど欲望をあらわにできる相手はまゆりが初めてだった。会社で真面目に机に向かっている自分も、社会生活を無難にこなしている自分も嘘ではないが、最近では彼女と2人で“夜のお遊び”をしているときこそが本当の自分に一番近いような気がしている。
「売女となんてセックスできない」というのも真っ赤な嘘だった。
本当は、気が狂うほどしたいのである。毎夜、彼女のプリッと柔らかそうなオッパイや桃みたいなお尻を見ているだけで、情けないくらいにギンギンになってしまう。でも、もし拒絶されたらと思うとどうしても最後の一歩が踏み出せない。
ロリコンの監禁魔として体を愛撫したり卑猥な言葉を囁いたりすることなら、いくらでもできるのに……。
今なら、彼女が風呂の窓から外を見ていたのも当たり前だと思う。なんといってもまだ18歳の少女だ。しかし困ったことに、そんなふうに振舞っているうちに卑屈な変態キャラがすっかり板についてしまったのだった。
さっき、まゆりが自分のザーメンを飲んでくれたとわかったときは、あまりの愛しさに胸が震えた。それは、タナベにとって初めての経験だった。どんなに足繁く通いつめたイメクラ嬢だって、ゴックンしてくれたことはない。
なのに彼女は、当たり前のように自分の欲望のエキスを飲み干してくれたのである。
すべてを受け入れてもらえるというのはこんなに素晴らしいことだったのか。
眼を閉じてまゆりの小犬のような目とピンク色の唇を思い出すと、あんなに激しかった怒りも徐々に薄れ、代わりに急激な後悔の念がわいてきた。
悪いことをしてしまった。彼女はひどく傷ついたに違いない。
明日の朝、謝ろう。女子高生に痴漢扱いされたことも、みっともない自分のことも、すべて話そう。
その日が来るのが怖くてわざと考えないようにしてきたけれど、肉欲に溺れる毎日の中でもタイムリミットは着々と迫ってきている。悲しい顔をされたまま別れの日を迎えるのだけは嫌だった。
――別れの日か。
彼女のいない知らない土地での生活。そんなものがすぐそこまで来ているなんてとても信じられない。
酔って朦朧とした意識の中で、タナベは小さく少女の名を呼んだ。
……まゆり。
そしてパソコンの前に突っ伏して、そのまま眠りに落ちた。
ちょうど同じ時間、同じようにパソコンの前に張り付いている男がいた。
王将少年こと藤原将太である。
タナベとは打って変わって、こちらは深夜だとは思えないほどに大活躍している。オタクの活動時間は、会社員が寝静まったこれからなのだ。
蛍光灯に照らされた真っ昼間のような部屋で、彼はインターネット将棋の対戦をしつつメールを書いていた。パソコンは当たり前のように2台並べてあり、右にある大きいほうのモニタではピンク色のカツラを被った巨乳の女の子が男に跨り、甘いヨガリ声をあげている。最近人気が出てきた深夜アニメのパロディAVだ。
「ちぇ、このおっさん、考え出すとほんっとに長いんだよなあ」
ネット将棋の対戦相手にブツブツ文句を言いつつ、メールの文章を消したり書いたり。そうしながらもちゃんとAVは観ているようで、ときどきニヤついて股間に手をやりジーンズの上からサワサワと膨らみを揉んだりもする。
3つのことがよく一度にできるものだと感心するが、藤原にとってはいつものことだ。なんといっても現役の棋士、一般人とはそもそも頭の出来が違うのである。
そんな彼の頭脳をもってしてもこのメールの内容にはなかなか苦戦しているようだ。指を止めて真剣な顔で目を通していたが、やっぱり気に入らなかったらしい。大きくため息をつくと十行ほどの文章を一気に消去した。
藤原は、まゆりになりすまして彼女の両親にメールを書いていた。
必要以上に家族が騒ぎ立てないよう、数日に一回の割合で近況報告のメールを代筆するのがまゆりのと約束だったからだ。しかし、最近ではその約束を果たすのもだんだん難しくなってきている。
最初のうちこそ「元気です」とか「ちゃんとご飯は食べてるから心配しないで」といった簡単な言葉でしのげていたけれど、両親もだんだん心配になってきたのだろう。徐々に「どこにいるのか」「電話で声を聞かせてくれ」という返信がくるようになってきた。
そんな追及から逃れつつ、まゆりが帰ってこないことを自然に納得させる文章を書かなくてはならない。しかも携帯からのメールということになっているから、文字数には限りがある。
「俺って、実は文系じゃないんだよね……ふぅ」
誰に言うでもなくそうつぶやいて、藤原は大好物のスペシャルコーヒー牛乳をゴクリと飲んだ。将棋と、萌えと、このスペシャルコーヒー牛乳さえあれば僕の人生はパーフェクトだ。彼は常々そう思っている。
タナベと違い、藤原は酒を飲まない。飲めないわけじゃないけれど、訳あってここ数年はこれ一本槍である。作り方はいたって簡単。まず大ぶりのグラスにパック入りのコーヒー牛乳を半分ほど注ぎ、さらに練乳と瓶入り1本980円の高級低温殺菌牛乳を足す。こうすることで、薄茶色で糖分と脂肪分たっぷりのスペシャルコーヒー牛乳ができあがる。
普通の大人の舌なら甘ったるくてとても飲めやしないシロモノなのだが、甘党の藤原はこれを日に6杯は飲んだ。よーく注意しないとわからないくらいのささやかなコーヒーの香りが、またなんともいえない。
周りの人間は「そんなもの飲んでるとすぐに糖尿になるよ」と言うが、彼はそんな忠告を軽やかにスルーしている。棋士のように頭を使う人間にはいつだって糖分が必要なのだ。
代筆メールがうまく書けないのには、もう一つ理由があった。ここ数日、藤原自身の胸の内にも彼女の身の上に対する不安がわいてきているせいだ。
最後に連絡があったのは、確か8日前。彼がそれに対して返したメールにはまだ返信がない。ノー・ニュース・イズ・グッドニュース。知らせがないのはよい知らせ……ならばいいのだけれど、これまでは週に2回くらいのペースで連絡があったことを考えると、つい心配になってしまう。
――何かトラブルが起こったんじゃなきゃいいけど……後で繭さんの携帯にもう一度連絡してみるか。
ピロロ〜ン。パソコンのスピーカーが音をあげる。ようやくネット将棋の対戦相手が、新しい手を指してきたようだ。
藤原は苦心の末、絶妙に他愛ない感じの代筆メールを仕上げると、明日の朝送信できるようメーラーの下書きボックスに保存した。
(続く)
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