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神田古書店の好色夫婦とその主人のイボマラ盛衰について語っているここ数講ですが、彼らは、ある意味、現代アナル求道者にとっては先人とも呼べる技能を持っていたのです。素尻に施していた痔の荒療治は独特で、効果的で、とてもエロチックなやり方でした。先にお話しした裂肛(切れ痔)は肛門の縁が裂けて出来るのですが、疣痔は肛門周辺の静脈の血流が悪く、瘤(静脈瘤)が出来たもので、肛門括約筋の外側に出来たものが外痔核、それに対して内側に出来たものを内痔核といいます。
外痔核は四つん這いにさせて尻を拡げれば外から見ることが出来ますが、内痔核は外からは見えず、唯それが大きくなってくると、排便したり息んだりした時に、ケッツの穴から外へ食み出してしまい、肛門が締め付けるので元へ引っ込まずに出たままになり、余計血行が悪くなり、疣が悪化して、より大きくなってしまうという厄介な病です。
内痔核も外痔核も、小さいのは鶏の鶏冠の小さいような形のものから、巨大なものでは、ピーマンやトマトのような瘤が出来たものまで、実に様々です。若鶏の鶏冠のような小さな外痔核だけですと、ドライバーやヤットコの先を赤く焼いたもので焼いて、切れ痔の時と同じようにも治しますが、疣痔の治療は、ちょっと大掛かりになります。
第四課 大師の灸
全国各地には古くから伝わる民間療法というのがあり、よく効くということで根強い信奉者を今に保っていますが、この夫婦の用いる術は、「御大師さんの灸」といわれるものです。
ここの土間の、隣室に接した壁のところに、建築用足場の鉄パイプが、縦横に碁盤の目にびっしりと組まれているのは何のためか、と不審に思っていましたが、それがやっと分かりました。疣痔の男女を動かさぬように、縛って固定するための装置なのです。
疣痔の患部を水平にするためには、先ず患者を仰向けに寝かせて、その両脚を乳児のおむつ替えのポーズのように上げさせ、お尻の穴が天井を向くように二つ折りにし、その上げた足首をパイプに固縛します。さらに両手も伸ばしてパイプに縛り、二つ折りにするのです。
お尻が高くなって不安定になった背中の下には、座布団が二枚入れられ、奥さんが患者のケッツの穴の上に大きなニンニクを輪切りにしたその一枚を被せて、そのニンニクの上にアロエをおろし金でおろしたものを積み上げ、その上に大きな豊後梅の梅干しくらいの一塊のもぐさを載せて、主人がそれに火を点けます。
もぐさはじりじりと赤く燃え、黒い煙が立ち昇り、小さいけれど火事が起こったような状態になります。
ピンポン玉くらいの大量のもぐさが燃えるのです。しまいには火が廻り切って、その全体が真っ赤になり、患者は男であっても女であっても、凄い叫び声を上げますから、奥さんは店の帳場にあるレコード・プレイヤーをつけ、弾む行進曲など、なるべく大きな音のする音楽をかけます。
口には猿轡は当然喰(は)ませていますが、それでも、必死の苦悶の声は凄いです。何せケッツの穴が火事だといってもいいくらいですから。
患者は熱いのでうーうーと変な声を張り上げて暴れますが、もぐさを落としてはいけませんので、患者の胸の上に奥さんが跨り、主人のほうはお尻の後ろから二つ折りになっている患者の背中に手を廻して抱き付き、ガッチリと締め付けて動かないように押さえます(私は主人に代わってこの押さえ役をよくやりました)。
余程悪いのでしょう、押さえても張り飛ばされそうなくらいです。それでも大したものです。巨大なもぐさに焼かれて熱い汁になったアロエやニンニクが肛門壁の粘膜にドンドン染み込んでゆくのでしょう。患者は鼻水でずるずるになった顔で、屠殺される豚みたいな叫びを上げ、ねちゃねちゃした冷や汗出してネバネバになり、目が据わってしまいます(白目を剥く人もいます)。
二人三人掛かりで一時間も押さえて、やっともぐさも尽きると、患者は失神します。
そんな物凄い療法ですが、重度の痔ですらこれでほとんどが一発で完治してしまうから感心させられます(痕もつるつるで綺麗です)。こうやって治療されて、翌朝は、便が出るのをひかえるために今夜と明朝はパンと牛乳だけにするようにと固く言われて、患者は変な歩き方をして家に帰ります。
三日四日は思い出すのも嫌なくらい痛いそうですが、雲が晴れたようにすっきり治ってしまうので、次に呼ばれて出てきた時、皆夫婦に礼を言っています。
(続く)
14.05.14更新 |
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