『ビデオ・ザ・ワールド』1986年6月号 発行=白夜書房
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「ビデオ・ザ・ワールド」における青山正明(3)
「ビデオ・ザ・ワールド」に青山が書く文章はほとんどビデオ紹介なので、これといって目立った情報はないが、細かいエピソードを挿入する時があり、それが見逃せない。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年1月号
ゴダールの名作『アルファヴィル』、抱腹絶倒のホラーコメディ『スプラッターハウス笑激の館』、ロイ・ウォード・ベイカー監督『墓場にて』、『ジャンク3』の紹介。最後の『ジャンク3』は「ギニーピッグ」で有名になるオレンジビデオハウスからのリリースで、青山はこの作品について「何故、内外のホラー研究書は、この手の作品を無視し続けるのだろうか」と煽っている。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年2月号
アフリカ全域で行なわれている種々の部族の奇習を5年にわたって撮影した残酷ドキュメンタリー『魔界の大陸』について「恐けれりゃいい、気持ち悪けりゃいい……。煎じ詰めれば、これが私のホラー干渉に於けるポリシーである」と身もふたもない薦め方。その他に『ミイラ再生』、『ビキニマシン』、『ビデオ・マガジン・ムー VOL.1』を紹介。最後のはもちろんオカルト雑誌『ムー』が出していたビデオである。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年3月号
『バチェラー・パーティー』、『フレッシュ・ゴードン』(『フラッシュ・ゴードン』のエロチック・パロディSF)、『トイ・ソルジャー』、海外音楽グループ『デッド・オア・アライブ』(映像集)。デッド・オア・アライブについては『フールズ・メイト』在籍時に気になっていたらしく「3年程前、僕が「フールズ・メイト」で只働きの雑用兼イジメられ役をやっていた頃、“サイケデリック界のボーイ・ジョージ”と編集部内で妙にウケていた」とのこと。『フレッシュ・ゴードン』の記事には誤植があり、8月号で苦情の手紙が来ている。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年4月号
カルト映画『ウィッカーマン』、社会問題と人種差別を描いた『さようならミス・ワイコフ』、コメディ『トップ・シークレット』、実写映画『ビー・バップ・ハイスクール』と、まったくバラバラの4本。いかにもお仕事である。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年5月号
『世界残酷物語』を「公開当時はセンセーショナルだったんだろうけど、今じゃあね……」と皮肉まじりに紹介し、『死霊の祝福』は“訳が分からんけど面白い”と褒め、ロジャー・コーマンの代表作『恐怖の振子』を絶賛し、ルチオ・フルチの一番グロい『地獄の門』に「あたしゃ、ルチオ・フルチにへばり付いて稿料ふんだくるって決心してるもんで……」と心酔。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年6月号
『猿の惑星』『グレート・ハンティング』『魔界からの招待状』の三つ。どれもストーリー紹介のみ。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年7月号
「僅かの人がビデオでしつこく繰り返し観る」という意味で、日本に於ける正しいカルト・ムービー(ビデオ)として『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を推薦。何の説明もなくトマトが人間を襲い始める物語だが、「知人は、ニューヨークで、ニンジン、キュウリ、あともう一つ野菜を使った映画を、キラー・トマトと併せて4本連続オールナイトで観たそうで、いやはや、そんなシツコサがたまりませんね。カルトは、ハハッ」と珍妙なエピソードも紹介。その他『ウルフェン』『恐怖の殺人ビデオ』を紹介。「他人の作ったフィルムを観て云々批判するのも飽きてきたから、今度は、早大のサークルに入って自ら作品をこしらえることにしました。完成したらこの欄で紹介させてもらおっと」という、興味深い記述がある。なお本筋と関係ないが、本号で高杉弾氏が『MONDO TOPLESS』の紹介文で「「MONDO」という言葉をご存知だろうか」と“モンド”の解説を行なっている。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年8月号
『シビルの部屋』、『注目すべき人々の出会い』、『フェイドTOブラック』の三本。オカルティスト、G・I・グルジェフの自伝を映画化した『注目すべき〜』については期待はずれだったようで、映画よりも本を読むよう薦めている。最後の『フェイド〜』の記述に注目したい。「僕は、他人から無駄に思われるような事でも、“知りたい、覚えたい”欲求を有している人の方が、知る事を止めてしまった人より、精神的に生きているという意味に於て優れている(あるいは、幸せ)ような気がしてならない」「サスペンス、スリラーの体を借りたマザ・コン映画として、僕は、この作品を、『サイコ』以上の出来と判断する」。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年9月号
『凸凹フランケンシュタインの巻』、『ユー・アー・ノット・アイ』、『エルム街の悪夢』の三本。『ユー・アー〜』は「Flesh Paper」でも紹介していたように、「ここ5年、僕が観た映画の中で、最も印象深い傑作であることを明言したい」と力強い推薦の言葉。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年10月号
『恐竜グワンジ』、『ザ・リッパー』、『四次元への招待』の三本。紹介文の出だしが毎回挨拶になっており、順に「こんにちは。インポの青山正明です」「こんにちは。不運な妻と共に四万温泉で休養してきた青山正明です」「こんにちは。4日間も温泉でくつろいでしまったばかりに、〆切地獄に苦しみ、不運な妻のことを思いやる時間もない26歳のマンガ編集屋、青山正明です」。これ以外は普通のストーリー解説になっているのが意味不明すぎてじわじわ笑える。『四次元への招待』は、小学6年生の夏に深夜放送(オナニーのため淫猥な深夜放送を探していた)で観た『怪奇・真夏の夜の夢』の完全版だったという思い出の作品らしい。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年11月号
『デアボリカ』の紹介で「この役立たずのインポ男が、オナニーの単行本を執筆中と云うのだから、開いた膣が塞がらない……」と前にも書いたネタをくり返し。『邪淫の館 獣人』、『逆転』、『針の眼』の合計四本。最後の『針の眼』はいいエピソード付。「忘れもしない81年10月。ふとしたキッカケで知り合った20歳の女性。交際1ヶ月目。嫌がる彼女を強引に説得して、2泊3日の京都の旅。その時、2人で初めて見た映画が、この『針の眼』であった。(略)彼女は現在25歳。私の妻だ」。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年12月号
『白と黒のナイフ』『天才アカデミー』『アニマル・セックス』『世界女族物語』。ほとんどストーリー紹介であまり面白みはないが、『天才アカデミー』は6月に行ったタイ旅行中に現地で観た作品だったそうで、唐突にタイでの少女売春の話題が挿入されるのが、らしいといえばらしいか。
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「ビデオ・ザ・ワールド」における青山正明(3)
「ビデオ・ザ・ワールド」に青山が書く文章はほとんどビデオ紹介なので、これといって目立った情報はないが、細かいエピソードを挿入する時があり、それが見逃せない。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年1月号/白夜書房 |
ゴダールの名作『アルファヴィル』、抱腹絶倒のホラーコメディ『スプラッターハウス笑激の館』、ロイ・ウォード・ベイカー監督『墓場にて』、『ジャンク3』の紹介。最後の『ジャンク3』は「ギニーピッグ」で有名になるオレンジビデオハウスからのリリースで、青山はこの作品について「何故、内外のホラー研究書は、この手の作品を無視し続けるのだろうか」と煽っている。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年2月号/白夜書房 |
アフリカ全域で行なわれている種々の部族の奇習を5年にわたって撮影した残酷ドキュメンタリー『魔界の大陸』について「恐けれりゃいい、気持ち悪けりゃいい……。煎じ詰めれば、これが私のホラー干渉に於けるポリシーである」と身もふたもない薦め方。その他に『ミイラ再生』、『ビキニマシン』、『ビデオ・マガジン・ムー VOL.1』を紹介。最後のはもちろんオカルト雑誌『ムー』が出していたビデオである。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年3月号/白夜書房 |
『バチェラー・パーティー』、『フレッシュ・ゴードン』(『フラッシュ・ゴードン』のエロチック・パロディSF)、『トイ・ソルジャー』、海外音楽グループ『デッド・オア・アライブ』(映像集)。デッド・オア・アライブについては『フールズ・メイト』在籍時に気になっていたらしく「3年程前、僕が「フールズ・メイト」で只働きの雑用兼イジメられ役をやっていた頃、“サイケデリック界のボーイ・ジョージ”と編集部内で妙にウケていた」とのこと。『フレッシュ・ゴードン』の記事には誤植があり、8月号で苦情の手紙が来ている。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年4月号/白夜書房 |
カルト映画『ウィッカーマン』、社会問題と人種差別を描いた『さようならミス・ワイコフ』、コメディ『トップ・シークレット』、実写映画『ビー・バップ・ハイスクール』と、まったくバラバラの4本。いかにもお仕事である。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年5月号/白夜書房 |
『世界残酷物語』を「公開当時はセンセーショナルだったんだろうけど、今じゃあね……」と皮肉まじりに紹介し、『死霊の祝福』は“訳が分からんけど面白い”と褒め、ロジャー・コーマンの代表作『恐怖の振子』を絶賛し、ルチオ・フルチの一番グロい『地獄の門』に「あたしゃ、ルチオ・フルチにへばり付いて稿料ふんだくるって決心してるもんで……」と心酔。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年6月号
『猿の惑星』『グレート・ハンティング』『魔界からの招待状』の三つ。どれもストーリー紹介のみ。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年7月号/白夜書房 |
「僅かの人がビデオでしつこく繰り返し観る」という意味で、日本に於ける正しいカルト・ムービー(ビデオ)として『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を推薦。何の説明もなくトマトが人間を襲い始める物語だが、「知人は、ニューヨークで、ニンジン、キュウリ、あともう一つ野菜を使った映画を、キラー・トマトと併せて4本連続オールナイトで観たそうで、いやはや、そんなシツコサがたまりませんね。カルトは、ハハッ」と珍妙なエピソードも紹介。その他『ウルフェン』『恐怖の殺人ビデオ』を紹介。「他人の作ったフィルムを観て云々批判するのも飽きてきたから、今度は、早大のサークルに入って自ら作品をこしらえることにしました。完成したらこの欄で紹介させてもらおっと」という、興味深い記述がある。なお本筋と関係ないが、本号で高杉弾氏が『MONDO TOPLESS』の紹介文で「「MONDO」という言葉をご存知だろうか」と“モンド”の解説を行なっている。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年8月号/白夜書房 |
『シビルの部屋』、『注目すべき人々の出会い』、『フェイドTOブラック』の三本。オカルティスト、G・I・グルジェフの自伝を映画化した『注目すべき〜』については期待はずれだったようで、映画よりも本を読むよう薦めている。最後の『フェイド〜』の記述に注目したい。「僕は、他人から無駄に思われるような事でも、“知りたい、覚えたい”欲求を有している人の方が、知る事を止めてしまった人より、精神的に生きているという意味に於て優れている(あるいは、幸せ)ような気がしてならない」「サスペンス、スリラーの体を借りたマザ・コン映画として、僕は、この作品を、『サイコ』以上の出来と判断する」。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年9月号/白夜書房 |
『凸凹フランケンシュタインの巻』、『ユー・アー・ノット・アイ』、『エルム街の悪夢』の三本。『ユー・アー〜』は「Flesh Paper」でも紹介していたように、「ここ5年、僕が観た映画の中で、最も印象深い傑作であることを明言したい」と力強い推薦の言葉。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年10月号/白夜書房 |
『恐竜グワンジ』、『ザ・リッパー』、『四次元への招待』の三本。紹介文の出だしが毎回挨拶になっており、順に「こんにちは。インポの青山正明です」「こんにちは。不運な妻と共に四万温泉で休養してきた青山正明です」「こんにちは。4日間も温泉でくつろいでしまったばかりに、〆切地獄に苦しみ、不運な妻のことを思いやる時間もない26歳のマンガ編集屋、青山正明です」。これ以外は普通のストーリー解説になっているのが意味不明すぎてじわじわ笑える。『四次元への招待』は、小学6年生の夏に深夜放送(オナニーのため淫猥な深夜放送を探していた)で観た『怪奇・真夏の夜の夢』の完全版だったという思い出の作品らしい。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年11月号/白夜書房 |
『デアボリカ』の紹介で「この役立たずのインポ男が、オナニーの単行本を執筆中と云うのだから、開いた膣が塞がらない……」と前にも書いたネタをくり返し。『邪淫の館 獣人』、『逆転』、『針の眼』の合計四本。最後の『針の眼』はいいエピソード付。「忘れもしない81年10月。ふとしたキッカケで知り合った20歳の女性。交際1ヶ月目。嫌がる彼女を強引に説得して、2泊3日の京都の旅。その時、2人で初めて見た映画が、この『針の眼』であった。(略)彼女は現在25歳。私の妻だ」。
『ビデオ・ザ・ワールド』1986年12月号/白夜書房 |
『白と黒のナイフ』『天才アカデミー』『アニマル・セックス』『世界女族物語』。ほとんどストーリー紹介であまり面白みはないが、『天才アカデミー』は6月に行ったタイ旅行中に現地で観た作品だったそうで、唐突にタイでの少女売春の話題が挿入されるのが、らしいといえばらしいか。
(続く)
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新宿アンダーグラウンドの残影 〜モダンアートのある60年代〜
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ばるぼら ネッ
トワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ
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