The ABLIFE July 2011
あるマニア読者がノンストップで導くSMワンダーランド!!
山奥の古寺「変態寺」の地下に隠された伝説を巡り、月星製菓の社員たちが体験する信じられないアブノーマル行為の数々! 麗しのマドンナ、淫乱ビッチ、ド変態住職、プレイボーイが入り乱れ、誰も想像し得なかった卑猥でコミカルな冒険が幕を開ける――。待望の長編読者投稿ノベル第2弾!!
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【1】古寺の地下に眠る伝説
わたすが月星製菓配送部に入ってから1年後、優美たんはここにやって来て、わたすと同じようにキャラメルの配送の手配を始めた。
今までこの月星製菓に女は数えるほどしかいなかった。だから美しい優美たんが入ったときは月星製菓の男の社員たちがずいぶんと騒ぎ立てたものだが、優美たんは意に介さず、バカ社員たちとは常に一定の距離を保っていた。
わたすはそのことに少ししか興味を持っていなかった。美しい女など遠い存在だと思っていたわたすだった。
この月星製菓には約30人ほどの社員がいる。配送部の部員は6人。当然のことながらわたす以外にも男がいた。たとえばアメリカからやってきた元・バームクーヘン職人のマイケル=フォークナー。彼はわたすより2年前にこのお菓子会社に入ってきた。
中出ひろしもわたすの先輩に当たる社員の1人だ。マイケルにしても中出にしても、まったく取るに足らない男たちだが、なぜ特に彼らの名前を挙げたかというと、彼らには共通するいやな特徴があったからだ。それは名うてのプレーボーイだということ。奴らは当然のように、優美たんという美しい獲物にいまわしい触手を伸ばしはじめたのだす。
優美たんはいつもシャツのボタンを一番上までかけているような、安っぽい隙などどこにもない女性だ。が、そんなことは奴らにとって何の問題にもならなかったのだ。優美たん、マイケル、中出の間で繰り広げられる肉欲を原動力とする恋の仕掛けは、ほどなくしてしっかりとゼンマイを巻かれてしまったのだす。
ただし、その結末はマイケルも中出も、そして優美たんにとってもまったく予想のつかないものになった。
始まりはマイケルと中出が主催した社員旅行だった。この旅行には配送部の優美たんの他にもキャラメル工場の女が何人か参加していた。マイケルと中出のふたりが所長をどうやって言いくるめてこんな下心のある旅行計画が実現したのか、わたすには不思議だった。
何しろこの旅行には「自己啓発」という胡散臭い名目がついていたのだす。
具体的には、ある東北の山奥にある山寺に1泊するという話だったのだす。
すべてはマイケルと中出の欲望に準じた計画だったのに違いなかった。借り切ったバスの中で、マイケルと中出は早速とばかり参加した女性職員たちといちゃついていた。
ふたりがけの椅子に独り、窓ぎわに座った優美たんは、外の景色を見ながらそれでも楽しそうだった。
美しい優美たんの横顔をマイケルと中出は盗み見ていた。
そうしながら、横にいる女に話しかけているふりをして、優美たんにも聞こえるような声でこんな話を始めた。
「これから泊まる寺ってね、呪われた歴史があるんだ」
「へぇー、こわいわ」
中出が話し始めると、マイケルと中出の間に座っていたバカ女が黄色い声をあげた。
わたすもつい、聞き耳を立てる。
中出がさらに話すところによると、これから行く寺はこんなところらしい。
外観は見るからに古い大きな寺で、わたすたち月星製菓の社員が泊まるには充分な部屋数がある。しかし見れば見るほどにおどろおどろしく、まるで狐狸妖怪が棲むかのような妖気が漂っている。
わたすはそんな寺があることをまったく知らなかったが、ある種の人間たち、たとえば妖怪話の好きな連中などはその寺について多少の知識を持っているのが普通なのだという。言わば、その方面でのみ名の知れた曰くつきの寺らしいのだす。
ある社員は昔、学生時代にその寺のそばを通過して遠足に行ったことがあったそうだ。
その際、バスガイドがガイドブックを開くようにと言った。
暇だったその男はガイドブックをぱらぱらとめくって、だいたいの内容は見ておいたそうだが、ガイドブックの後ろのほうには団体客や農協のおやじを喜ばせるような、その地方の卑猥な話がまとめて書かれてあり、たとえば女の膣の中に銀杏や栗をつめて女の肉汁を吸わせた精力剤を作っていた殿様の話や、生娘の身体に蜜を塗り、それを蟻に食わせて、女の肌を食い破った蟻を集めてタンパク質のとれる食料として食った庄屋の話なんかに気を取られ、寺のことについてはまったく覚えていなかった。
だから情報源としては何の役にも立たなかったが、わたすは突然そんな話を聞いて胸の動機が止まらなくなってしまったのだす。
やがてバスは目的の場所に着いた。しかし最終目的地ではなく、そこからは徒歩での移動をすることになった。道々の景色はたいそう美しくて、もしもわたすが優美たんに話しかけるならこういう時にするのにと思っていたが、マイケルや中出は普段とはうって変わってバカ女たちと浮かれ騒いで、その反面、なぜか優美たんには冷たく接していた。
その理由が分かったのは、わたすたちがやっとのことで目指す古寺に着いてからだったのだす。
歩きつかれたわたすたちは大きな仏像がある本堂の大広間でてんでに足を投げ出してくつろいでいた。
そこへ、髪の毛をインディアンの呪術師みたいに伸ばした奇怪な男が廊下のほうから法衣を着てやって来た。
「この寺の住職の上杉です。ほら、ほら、よそ見しているエテ公みたいな顔をしたあなた、こっちを向きなさい」
上杉は坊主のくせに耳に髑髏のピアスをぶら下げていて、その髑髏をブンブン振り回しながら、大広間のはじで向こうを見ている男の社員を指差した。同時にもう一方の手に握った扇子で自分の太股を講釈師のようにパンパンと小うるさく叩いている。
せっかちな性格らしい。
マイケルと中出ひろしが飛び上がり、揉み手をしながらこのいかさま臭い住職のそばに近寄ると、「上杉住職、またお世話になります」と薄っぺらい笑顔を浮かべた。
「皆さんがこの前にここへ来たのは3年前ですね。あれからずっとご無沙汰でしたね。お釈迦様の教えは守っていらっしゃいますか。今年はきれいな新入社員の方がまた1人ふえましたね、本当に……」
上杉住職が焼き芋屋の親父が自慢の芋をほっこりと完璧に焼き上げたのを確認した時のような表情をして優美たんのほうをじっと見、さらに続けた。
「さて、みなさんいいですか、これから由緒あるこの寺の中を案内します。それはあなた達にとっても大変有意義な経験になるはずです。古い寺ですが何もこわいことなんかありません。そう……何も……」
「なんか、こわそう」
木下ミキがマイケル・フォークナーの腕に自分の腕をからませながら、頭に湧いてきた言葉をそのまま言った。
「それではご案内しまょう。そう……あなたの知らない世界へ」
「こわーい!」
上杉住職が含み笑いをしながら皆をせかし、自ら先頭に立って廊下を歩きつつ、たまにニヤけた顔を振り向けて優美たんの表情をどんどん曇らせていった。
一向は便所や台所、いくつかの仏像を見せられ、やがて渡り廊下をわたって別棟の建物に案内された。
本堂からつながっているその建物の入り口は、まるで100年前の能楽堂を連想させた。
能楽堂と違っているのは入り口の下のほうに大きな石で出来た階段があり、地下へとつながっていることだった。
ここで上杉住職が入り口のそばにある電気のスイッチを入れた。ぼんやりと地下が明るくなったが、住職はまた優美たんのほうを見るとニヤリといやらしく笑ったので、優美たんは本格的に不機嫌な顔になったのだす。
上杉住職のあとをついて階段を下りていくと、そこには異様な光景があった。
「さあ、ここがこの寺の名物、鑞鞍房(ろうあんぼう)です」
大きな部屋の半分には、やはり能の舞台のようなものがあり、舞台の前には洞窟をそのまま掘ったような空間が広がっていた。しかし、このふたつの空間は厳然として分かれていた。
その境になっているのは太い木製の角柱を格子に組んだ檻だった。格子のすみに入り口がついていて、そこには南京錠がかけられていた。
そしてもっと異様なものが格子の向こうにあった。それは人間を縛り付けるためらしい拘束台だった。しかもひとつだけではなかった。いくつもあるのだす。その上、それらはひとつひとつかたちが違い、まるで縛られる人間にいくつもの体勢をとらせるために設置してあるように見えたのだす。
横のほうから光が漏れている。
見ると木を頑丈な鉄枠で補強した入り口がついていて、光はそこから漏れているようだった。光が漏れているということは、たぶん地上と繋がっているということだす。
この異様な光景に誰もが目を丸くしていたが、普段から何にでも首を突っ込みたがる足立ケイ子などは好奇心を煽られたのか、目を爛々と光らせている。上杉住職は皆の反応にご満悦で、さも自慢気にとうとうと話し出した。
「およそ、230年前、この寺は仏教の寺だと思われていましたが、実は大変な秘密を持っていました。だから、この寺のことを一部の人はなんと呼ぶか知っていますか、ミスターマイケル」
住職が指名するとマイケル=フォークナーは答えた。
「変態寺です」
「そう、現代ではこの寺は変態寺と呼ばれています。つまり普通の寺ではないということです。そしてこの変態寺の住職がわたくしめであります」
「鑞鞍房って、この場所のことを呼んでいたけど、どういう意味ですか」
足立ケイ子が尋ねる。
「本堂に仏像が安置されているのを見たと思います。あれは仮の本尊なのです。実は、仏壇は回転するようになっていて、あそこを回転させると、仏像の裏にこの寺の本当の信仰の対象、鑞鞍の像が現われます。鑞鞍とは、この地方に昔から住むと言われている猿に似た生き物で、大きさは猿の5倍、鋭い牙や爪を持ち、虎さえ殺すと言われています。そして鑞鞍のなによりの好物は美女です」
そう言うと上杉住職はまた優美たんのほうを見てにやりとした。優美たんはさすがに戸惑った表情をしたが、後になって思えば、中出とマイケルの冷たい態度も、上杉住職のニヤニヤ笑いも、優美たんにこれから起きる出来事を彼らが前もって知っていたからのものだった。
彼らは生け贄の運命にある女を高みから眺めていい気になり、そのため優美たんへの不遜な気持ちが態度に滲み出ていたのだす。
(続く)
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