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【2】美しき生け贄

「そもそもこの地方は米もあまりとれず、江戸時代には年貢に苦しんでいました。年貢を払えない農民は家族もろとも城の中の拷問所へ連れて行かれ、なぶり殺しにされていたのです。そこでこの地方の農民は鑞鞍(ろうあん)を神として奉り、自分たちを悲惨な状況から救ってくれるようにという願いから、鑞鞍の言い伝えを信じてそれを心のよりどころにしていった。その鑞鞍の伝説とは、鑞鞍が人間の女と交わって子供が産まれたとき、その子供が城の中の侍たちを皆殺しにするという伝説なのです。その悲願を実現するために農民たちはこの寺を建てたのです」

「まあ、交わって、子供を……」と、足立ケイ子が瞳を潤ませて呟いた。住職が続ける。

「寺を建てた目的はもちろん、鑞鞍と人間の女を現実に交尾させるためでした。鑞鞍は美女を好み、その交尾は10日間に及びます。また、鑞鞍は一度した体位では絶対に再び女に襲いかかりません。伝説では、毎年11月になると鑞鞍の雄は交尾の相手を求めてこの村に下りてきたと言います。村人のやったことは、毎年一度、村一番の美しい娘を選んでこの鑞鞍房に閉じこめ、十の体位をとることのできる拘束台に生娘を縛り付けることでした。するとあの横穴から鑞鞍が入ってきて生娘を犯すのです」

話を聞きながら横にいる優美たんの横顔を見ると、その唇は白っぽかった。
あまりのおぞましい話に血の気が引いてしまったようだった。

「それで結局、この村の救い主は生まれたの?」

足立ケイ子が住職に訊くと、また住職は感慨深そうな顔をして、

「鑞鞍は鋭い爪と牙を持っています。毎年、毎年、この村ではとびきり美しい生娘が選ばれ、この部屋の中で縛られ、鑞鞍のイチモツをさまざまな体位で受け入れました。でも女は誰ひとりとして十度まで耐えることが出来ず、鑞鞍に噛み殺されてしまったということです」


住職の最初のガイドはそんなもので、皆は一旦地上に上がると自由行動になり、夕方頃になってからそれぞれに寺へと戻って来た。
夕食は山の中らしい野趣豊かなもので、それを大広間に集まって皆で食すと、その後には温泉が待っていた。

いいお湯に浸かって少しばかり気分のよくなったわたすは、あのニセモノの神のいる本堂でくつろぎながら、中天高く輝く美しい月を見てくつろいでいた。何となく優美たんの姿を探してみたが、大広間での食事の時には確かにいたのに、まだ風呂にでも浸かっているのか、本堂の中には見あたらなかった。

すると突然、中出ひろしが立ち上がり、

「これからみんなに、リモコンバイブのスイッチを渡す」

と、足元の箱に入っていた小さなコントローラーを一人一人に配りだしたのだす。

「肝心のバイブはどこにあるの?」

足立ケイ子が早速スイッチを入れて振動をマックスにしながら聞いた。
他の社員たちも与えられた玩具を試すようにスイッチを入れたり切ったりしている。

わたすは、嫌な予感がしたのだす。

「あまり長く押しているとバイブの電池が切れちゃうから、ひと押し、20秒までね」

中出ひろしはそう言ったが、なんだかんだで1時間くらいはバイブのスイッチを押していた社員たちだった。


「さあ、みなさん、そろそろ鑞鞍房に行ってみましょう」

赤い漆を塗った天狗の面を頭に載せた住職が、再びみんなに移動を促した。

「私、何だか、こわい」

足立ケイ子が媚びた瞳で中出ひろしをじっと見つめたが、すでに何かを悟っているのか、手の中にあるリモコンバイブのスイッチはひっきりなしにONとOFFを繰り返していた。

途中、住職の上杉が急に立ち止まるとみんなのほうを振り返って言った。

「みなさん、ちょっと立ち止まってください。これからオプションのコースに入ります」
「オプションってなんですか?」

マイケル=フォークナーがけげんそうな顔をして住職の顔を見た。

「住職、一昨年にはオプションなんてなかったじゃありませんか」

地下の間に行く楽しみに水をさされて中出ひろしもムッとした声を出す。

「確かにそうです。しかしこの上杉、しぼんだ脳細胞にヒアルロン酸を注射して新しいプランを練りました。この変態寺にお泊まりになる皆様に、お楽しみと同時に歴史の勉強もしていただこうと思ったのです。その名も鑞鞍の儀式体験ツアー」





それを聞いた中出ひろしが、さっきまでとはうって変わったはしゃぎようで手を叩いた。

「そうです。この寺に泊まってただ鑞鞍の間を見ていただくだけではありません。体験ツアーとして、この鑞鞍の儀式を江戸時代そのままに体感していただこうという趣向です。江戸時代のお百姓さん、生け贄の乙女、そして色欲に満ちた陰獣の体験が出来るのです。カップルでいらしてくださればベストですが、おつれの方がいない場合は地元のコンパニオンを紹介いたします。オプション料金は宿泊料の15パーセント増しということでいかがでしょうか」
「オプション、つけて下さい、つけて下さい!」

中出ひろしは鼻息荒く、いの一番に申し込んだ。そしてそれは全員参加の申し込みだったのだす。

突然開催されることになった変態パーティへの期待に胸を躍らせている月星製菓の連中だったが、気味の悪い廊下を歩いている途中で木下ミキが突然、「やだぁ、ねっ、なにこれ、気持ち悪い」と、廊下の壁を指差してみんなの歩みを止めた。

「どうしたの、どうしたの」
「ナンデスカ、ナンデスカ」

わたすたちはすぐに暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる面妖な置き物を見つけて目を見張った。
そこには大、中、小の男性自身の張り形が、高さ50センチくらいの机の上に屹立した形で固定されていた。素材は樫や椚の木のようで硬そうだった。その上、表面の色は長年磨かれてきたように黒光りしている。

「やだあ、変なものが置いてあるー」

足立ケイ子もこの淫靡な置き物に悲鳴を上げた。その様子を見た上杉住職は、さぞスケベな目つきでニヤニヤしているかと思いきや、いやに神妙な顔で、しんみりとして、瞳は涙ぐんでさえいるようだったのだす。

「これはですね。これはそのう……いや、やめよう、こんな話は……」

上杉住職はひどく気になる言い方をして身をひるがえすと、結局何も教えてくれないまま、あのいまわしい地下の間に続く廊下に歩みを進めた。後になって分かることだが、この張り形の秘密が上杉住職の人生を左右する大問題へと発展することになるのだす。

「さあ、行きましょう。みなさん、暗いので足下にお気をつけください」

先を行く上杉住職の頭の上に載っている天狗の面の鼻先が左右に揺れている。
鑞鞍房に下りていくと上杉住職が電気のスイッチを入れたので、地下室全体が海の中のようなコバルトブルーの光で包まれた。

これは上杉住職が竜宮城をイメージしたラブホテルから着想を得た演出らしい。
そしてわたすたちは見たのだす。十種類の拘束台がおぞましい姿で佇んでいる中に、優美たんの裸身が深海の底に横たわる人魚のように倒れているのを。

見たのだす!

長くて豊かな黒髪が乱れ、板の間に無数の蛇の如くうねりくねっている。両腕が後手に縛られていた。

「お連れの方の準備は出来ております」

まるで老いた執事みたいに丁寧な態度で、上杉住職は倒れている優美たんのほうを指差した。

「た……倒れてる……死んじゃったんじゃない? それとも寝ているのかしら」

木下ミキがそう言うと、そばにあった棒を手にとって格子の間から差し込み、優美たんの背中のあたりをつっついた。

「優美、起きなさいよ、こっちを向きなさいよ」

もう一度棒でつつく。すると優美たんが明らかな拒否の態度を示して頑なに反対側を向いたまま丸まった。しかしそれと同時に、股間からブブブブブと、鈍い振動音が響いてきた。

「あっ、やっぱりこのスイッチは優美のリモコンバイブを操作するものだったのね」

足立ケイ子が喜色を剥き出しにしてバイブの振動を最強にした。優美たんがたまらず身をくねらせて甘く切ない声をもらした。

「感じてる、感じてる」

足立ケイ子は満足そうだった。

「とにかく、中に入りましょう」

マイケル=フォークナーが牢獄の鍵を持っていたので、わたすたちは重い格子の戸を開けて中に入ると、皆で優美たんのまわりを囲んだ。
木下ミキが跪き、バイブが挿入されている優美たんの秘密の場所に手を伸ばすと、遠慮もなにもなくそこをまさぐり、

「やっぱり、濡れているわ」

と勝ち誇ったように宣言した。
同性である女に一番恥ずかしいところを調べられ、口枷をはめられた優美たんの口からは、言葉にならない苦悶のうめきがもれた。そして恨みのこもった目で周囲の同僚たちをぐるりと見回したのだす。

そこへ突然、開いている格子戸の入り口から上杉住職がおっとり刀で入って来て、「ウラーッ」と叫んだ。皆何事が起きたかと非常に驚いて振り向いた。何人かは肝を潰して座り込み、苦しそうに胸を喘がせていた。すると上杉住職が嬉しそうに手をパチパチと打ち、

「オプションですよ、これもオプション。この変態寺の歴史体験ツア―のオプションですよ。それでは皆さん、お連れの方はそのままにしておいてこちらのほうに来てください」

「ウラーッ」の何が歴史体験なのかはよく分からなかったが、上杉住職が呼ぶのでそっちのほうに歩いていくと、住職はお伽話に出てくるような漆を塗ったつづらの前でニコニコしていた。

「何ですか、そのつづらは」
「ここに皆さんの衣装が入っています」

住職がふたを開けると中から毛むくじゃらの着ぐるみのようなものが出てきた。

「何よこれ、ゴリラじゃない」

確かにそれはゴリラに似ていたが、よく見るとゴリラよりももっとグロテスクな姿をしている。

「あれ見て、いやだあ」

木下ミキが口を押さえて指差した部分、そのぬいぐるみの股間には、隆々として反りあがった巨大な張り形がついていた。

「これが言い伝えにある鑞鞍の姿をうつしたぬいぐるみです。これを身につけて、生け贄の女性を犯してもらうという趣向です。でも、いかんせん、残念です。このぬいぐるみは2着しかありません」
「わたしたちがそのぬいぐるみを身につけましょう」

中出ひろしとマイケル=フォークナーがまっ先に手を挙げた。こうなってしまってはもう他の者に出る幕はない。

「ぬいぐるみを着られなかった人にもこんな楽しみがあります」

住職がそう言って、つづらの中から長さ1メ―トルくらいの槍のようなものを何本か取り出した。

「これはエロ猿が生娘と交わる前に、女の子がナニを受け入れやすくするための道具です。まあ、前戯と申しましょうか、記録によればお百姓さんがこれを使ったんだそうです」

槍の先には男の張り形がついていた。

「わたし、それ、やりたい」

足立ケイ子が飛びついた。他の社員たちも結局は全員、その棒を受け取っていた。

「生娘の役はあそこで倒れている同僚の方にやってもらうことにして……そうだな、エロ猿役が2人だと、もう1人やられる役が必要ですね」

上杉住職が木下ミキの顔を凝視していた。

「わたしがやるのね?」

こうして生娘役のふたりが決まると、中出ひろしとマイケル=フォークナーがつづらの前でぬいぐるみを着、皆も槍を斜めに突き上げながらせっせと準備運動を始めていた。

(続く)

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11.08.12更新 | あぶらいふ  >  変態寺