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残酷なお友達3・近代奴隷制度

「フーン、奴隷ってやっぱり恐ろしい目に遭わされるのね。鼻に環を通されたり、焼印押されたり……カラダにいろんなことをされて元に戻れないってのは、やっぱりイヤね。アソコのヘアは水着着るときには剃るんだから、まあいいようなものだけど、永久に生えてこないとなると、やっぱり彼に悪いしねえ」

「アレは彼の物なのね。シッカリ育てなさい。奴隷は哀れには違いないけど、自業自得だから仕方ないってことなのよね。そう思わないと、奴隷に厳しくするっていう市民の義務が果たせないもの」

「そうよ、自業自得なのよ。この牝奴隷だって人を殺したんだもの、ひどい罰を受けて当然よ」

「身から出た皮ってコトワザもあるわね」

「それは錆。困った人ね、Mすずさんも。話を聞いたら、懲役奴隷以外にもたくさん奴隷がいるのね。破産すると奴隷にされるって、本当なのね」

「じゃ、そこは僕がご説明しましょう。近代奴隷制度で正式に決められている奴隷は三種類です。旧刑法で死刑に当たる罪を犯した罪人がなる懲役奴隷。破産した債務者と、その家族が堕とされる債務奴隷。そして自分の意志でなる志願奴隷です。懲役奴隷は、このくみ子をご覧になればお判りですね。昔なら死刑にされた重罪人に、死刑の代わりに死ぬほど辛くて惨めな奴隷の苦役をさせて、一生犯した罪を後悔させようという罰で、死刑廃止が立法化されたときに制定されたものです。だから本来は、懲役奴隷は全部終身奴隷だったのです。ところが、奴隷を使うシステムが拡大するにつれて、懲役刑に相当する罪人に、刑期短縮と引き替えに、奴隷刑を宣告することが出来るよう法律が改正されて、有期懲役奴隷が出来たのです。これにはいろいろ問題があるようですが……。
債務奴隷は、おっしゃるように、破産して債権者に多大な迷惑を掛けた者に宣告されます。あのバルーン経済の最中、土地転がしやマンション転がし、株式や、商品の相場だけでなく、ゴルフ場から美術品まで、ありとあらゆるものが投機の対象になって、アブク銭を儲け放題に儲けた連中が大勢いました。中身のないバルーンが破裂したとき、奴らは表面上は破産するわけですが、虎の子の財産を投資して、全部失った一般庶民の苦しみを尻目に、悪賢く財産を隠していた奴らが、相変わらず贅沢な暮らしをしていることが問題になりました。そこで、社会に大きな迷惑を及ぼす大型破産事件については、債権者本人と、その儲けで贅沢をしていた妻子は、体を売って債務の弁済に充当すべきだということで、債務奴隷法が出来たわけです」

「本当にひところ、日本中が浮かれて騒いでいたわよね。土地だ、株だ、ゴルフ会員権だって」

「私だってさ、同じマンションに住んでいる人に、絶対値上がりするからって絵を買わされたのよ。高かったのよ。それが今は、全部二束三文のガラクタだって云われて。ヘソクリ全部注ぎ込んだのに……そいつはどこかへ逃げて行っちゃったけど、見つけたらただじゃおかないわ」

「K子さんの気持も判るけど、本人はともかく、奥さんや子供まで奴隷にされるのは可哀相じゃない?」

「でもさ、贅沢してたのは旦那だけじゃなくて、デブの奥さんやブスの娘まで、宝石やブランド物を身に付けて外車乗り回してたのよ。羨ましかったから、私も一儲けして、と思ったのに……債務奴隷法は必要よ。あいつらをとっ捕まえて、着ている物でも体でも売って、私のお金、少しでも取り返したいわ」

「確かに、債務奴隷法を作るとき、妻子を含めるかが一番議論になった所ですが、やはり、財産を家族名義にして隠匿した破産者一家の贅沢な暮らしの実例が、たくさん報告されたために、妻子を除外したら実効がないということになったんです。ですが、実はそのほかに、隠れた理由があると囁かれています」

「何なの、それは」

「懲役奴隷は、くみ子みたいな若い牝は珍しいわけです。債務奴隷も、債務者本人、法人なら社長だけとすると、ほとんどが牡だけです(稀に牝がいても、多分お婆さん……イヤ失礼)需要の多い若い牝奴隷をもっと供給してほしいという業界の強い要望を、若い牝奴隷を欲しがる政・財・官の大物が後押しをして、債務者の奥さんや若い娘を目的にして、妻子を対象に加えることに……いや、これはあくまで噂ですよ」

「エーッ、若い牝奴隷を増やすために、そういう法律を作ったの?」

「政治家やお金持ちのお爺ちゃんが、若い女奴隷を欲しがるからですって。ヒドーイッ」

「そうよ、差別だわ。私たちだってもうじき熟女だけど、熟女には熟女の魅力ってものがあるわよねえ」

「そういう問題じゃないでしょう。Mすずさん、あなたは少し黙ってなさい」



「人間の権利をすべて剥奪する奴隷宣告は、死刑宣告と同じですから、厳格に手続きが定められています。懲役奴隷の宣告が、刑法に基づいて刑事裁判で行なわれるのと同様、債務奴隷についても債務奴隷法があります。債務奴隷については、破産宣告が下された経済裁判所に、債権者が『破産債務者ならびにその被扶養者の身柄の差し押えおよび破産財団への繰り入れ請求』という長い名前の申し立てを行ないます。
裁判所で破産者の状況を精査し、破産前の債務者の生活態度、破産によって債権者に与えた損害の程度、破産後の債務者とその家族の生活状況などを勘案して、奴隷とする者の範囲を決定し、債務奴隷仮宣告と身柄差し押え令状の発行を行ないます。経済裁判所が新設されて体制が整っていますから、二、三日で、宣告と令状が出ます。
法務省奴隷管理局の執行官は、それに基づいて該当者の身柄を拘束し、奴隷調教センター(通称奴隷監獄)へ送致するのです。拘束された債務者やその家族には、一週間の執行猶予期間が与えられます。猶予期間は準奴隷として扱われます。すなわち、全裸にされ、首輪や手錠・足伽などの拘束具は施され、餌や用便などの取り扱いは奴隷と同じですが、永続的な体の処置、たとえば鼻環の取り付けや奴隷番号の烙印、恥毛の処理などは猶予されます。
昼間の調教も猶予され、手紙、電話等による外部への連絡が認められますから、準奴隷たちは、必死になって親戚友人知人に電話を掛け手紙を書いて、債務の代位弁済を頼むのです。しかし破産債務の全額を、代わって払ってくれる人などほとんどいるはずはなく、千人のうち九九九人は、空しく一週間がすぎて、自動的に仮宣告が本宣告に変わります。
仮宣告から一六八時間(一週間)が過ぎた瞬間、準奴隷はめでたく正式に奴隷にされて、その場から身体処置室に送られ、鼻環を通され、体に奴隷番号を烙印されて調教を受けることになるのです。
債務者の配偶者は、ほとんどの場合差し押えられます。社長夫人として周囲にチャホヤされ贅沢をしていた身が、一転して豪華な服からパンティまで脱がされてマッパダカにされ、首輪や鎖を付けられるのです。
私が知っている、ある破産者の奥さんの例でも、実家にもそんな大金はなく、万策尽きて、最後の日に、それまでライバルとして贅沢を競った女性に面会にきてもらい、マッパダカで首輪や手錠を嵌められた惨めな姿で、面会室の床に土下座して援助を哀願したのだそうですが、『どうしてあなたにそんな大金を出さなきゃならないのかしら。奴隷におなりになればいいのよ。肉体美がご自慢だったから丸ハダカもお好きでしょう? 鼻環や嵌口具も、きっとお似合いになりますわよ』とからかわれているうちに、とうとう時間が切れて、号泣しながらライバル夫人の見ている前で嵌口具を咥えさせられ、曳き鎖に繋がれて、身体処置室へ鞭で追われて行ったそうです」

「マア、可哀相に。じゃその社長夫人も、今はこの牝奴隷と同じように、マッパダカで鼻環や手錠を嵌められて、鞭でぶたれながら使役されてるわけね。どんな気持かしら。素直に奴隷になれないかもね」

「その点は、奴隷監獄の調教プログラムは完璧です。人間だった頃にどんな暮らしをしていた者でも、どんなにわがままで強情な女でも、監獄で三カ月も調教を受ければ、生まれついての奴隷みたいに素直で従順になるそうです。フフフ、なあ、くみ子。そうだろう」

「ハ、ハイ、その通りでございます。調教監獄では、過去どうだったかとか、どういう事情で奴隷になったとかは一切関係なく、ただ奴隷として訓練されます。ご命令通り出来なければ、目から火が出るほど懲罰の鞭を頂戴しますし、奴隷は口がきけませんから、弁解も哀願も出来ないのです。どんなことでも、ご命令通り、血の涙を流しながらでもやるしかないのだ、ということが、すぐに身にしみて判ります」

「それが調教ってことなのね。S子さん、あなたみたいな強情な人でも、素直な奴隷になれるそうよ。一度志願して、奴隷監獄へ入れて頂いたら?」

「私はその趣味がないから遠慮するわ。Mすずさんが、なりたがってたじゃない」
「ハダカにされて首輪嵌められて、ムリヤリ恥ずかしいことをさせられるってのは刺激的だと思うけど、焼叩押されたり、鼻環を通されたりってのは痛そうだわね。痛いのはイヤなのよ」

「わがままな奴隷ね。ねえHさん、さっき、自分の意志で奴隷になる、志願奴隷ってのがあるって聞いたけMすずさんみたいに、あれとこれは嫌、なんて注文付けて奴隷になれるの?」

「ハハハ。それは無理ですね。確かに志願奴隷は自分の意志で奴隷になるんですけど、なってしまえば奴隷はみんな同じ奴隷なんです。しかも、転売されてしまえば、奴隷になった時の約束や条件なんかは、新しい所有者の知ったことではないわけです。基本的に、奴隷は何の権利もない、家畜か道具みたいなものですから、Mすずさんご希望の、鞭打ちと鼻環は禁止、などという条件付きの奴隷は認められませんね」

「Mすずさん、ダメだって。残念ね」

「奴隷何とか号のくみ子さん。お前たち奴隷は、何の権利もない家畜か道具だってさ。どう思う?」

「アア……ハイ。その通りでございます。どうぞお慈悲を……」

「それにしてもね、自分から奴隷にしてください、なんて志願する人がいるの? Mすずさんみたいなヘンタイのマゾ女が志願するわけ?」

「ヒッドーーイ」

「そういう理由で志願するのは、志願奴隷百匹に一匹いるかどうかで、実際はやはりお金のためなんです。
条件付きで奴隷になることはできないってお話しましたが、唯一の例外が、この志願奴隷の初回売却代金で、調教が終了した志願奴隷が競りにかけられて、最初に売られた時の代金は、調教経費を差し引かれて、志願の時に奴隷契約書で指定した者(普通、親とか夫)に支払われます。その時点では、契約者が人間ではなくなっているので、条件の履行を自分では請求出来なくなっているのですが、国で厳重に管理して、キチンと履行させています。
このままでは破産して一家全員奴隷にされる、と考えた債務者が、妻子だけでも助けるために自分の体を売りたいと申し出る。といったケースですが、年とった牡では、役立つほどの値が付きません。若くて美しい女なら高く売れますから、結局娘が、一家のために志願するということになります」

「アーラ、何だか時代劇のお話みたい。水戸黄門様が助けてくれないかしら」

「ハハハ、そうですね。ただし、親が勝手に娘を売ることは許されず、あくまで志願する本人の意志です。だから、十五才以下では志願が認められません。志願奴隷は、自分で公証人役場へ出頭して、申し出ます。公証人は、奴隷の取り扱いを十分説明して、それでも奴隷になるかを確認します。意思の真正を確認したら奴隷契約書を作成して、奴隷管理局へ届け出ます。管理局が受理したら、執行官が志願者の所へ行って手錠を嵌めるわけです。
意思の真正を担保するために、奴隷契約書の志願者の捺印は、印鑑などではなく、女は女性器を、男は肛門を使います。そこに朱肉を塗って捺印するわけです」

「マア嫌だ。でも、そうするくらいの覚悟がない者には、奴隷の志願なんて認めちゃいけないってことなのね」

「債務奴隷と志願奴隷は判ったわ。じゃあいよいよ、奴隷の調教ってどんなふうにするのか、奴隷何とか号に説明させましょうよ」

(続く)

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浜不二夫
異端の作家。インテリジェンス+イマジネーション+ユーモアで描く羞美の世界は甘く、厳しく、エロティック。
「 悪者に捕らわれた女性は、白馬の騎士に助けてもらえますが、罪を償う女囚は誰にも助けてもらえません。刑罰として自由を奪われ、羞恥心が許されない女性の絶望と屈辱を描きたかったのです。死刑の代わりに奴隷刑を採用した社会も書いてみたいのですが――」
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