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続・常識ある大人の為の肉筆紙芝居
伝説の倒錯フィクション、待望の第二部へ!
酒気帯び運転で人身事故を起こした「くみ子」が体験する、恥辱の獄中生活。唇を噛み締めた身体検査、身も細る裁判、羞恥地獄の移送を経て、ついに女囚となった「くみ子」を待ち受けていた辛酸体験とは......。一組の男女の会話で綴る、異色の被虐イマジネーション紙芝居。秘蔵されていた第二部に突入!!
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【2】帰房検査
惨めに踊るカンカン踊り

刑務所に入って一番ショックだったのは、私たち女囚が、いとも簡単に人前で裸にされることでした。それも下穿きのズロースまで脱がされて一糸纏わぬ全裸にされるのです。刑務所に入る前までは、人前で裸になるなんて学校の身体検査のときくらいでしたし、それもパンティだけはシッカリ穿いていました。それでも年頃になって色気のついてきた中学生のころには、男の先生の前でシャツを脱いでお乳を出すのが恥ずかしくて、キャーキャー大騒ぎをしたものでした。それがここでは、大勢の見ている前で情け容赦なくズロースまで脱がされてマッパダカにされるのです。


裸になって身体検査を受けるというのも、外から入所してきたときとか、作業に使った刃物の数が合わないときとかならば、女囚という立場上、しかたないと諦めるほかないのでしょうが、何か隠している可能性など全然ないような場合までマルハダカになることを強制されるというのは、規則の名のもとに私たち女囚に屈辱感を味わわせるのが目的だとしか思えず、心の底から、惨めな気持にさせられるものでした。

その最たるものが、帰房検査といって、女囚が居住区(受刑者が寝起きする建物の区画)からいったん外へ出たら、戻ってきたときにはかならず全裸になって身体検査を受けなければならないという規則でした。

女囚の身で居住区の外へ勝手に出られるわけはなく、作業のために作業場へ行くか、面接や面会に呼び出されて事務所へ行くかしかないわけで、どこだって看守の目が光っている刑務所のなかです。ごくまれに刑務所の外へ出る場合があれば、それこそ手錠でガッチリと両手の自由を奪われ、腰には厳しく腰縄を巻かれ、その縄尻を看守さんにとられて看守さんの前を歩かされるのですから、なにかを持ちこむなんて万に一つもないことだと思うのですが、これも規則で決まっていることだと言われればどうすることもできず、身体の検査を受けるために自分の手でパンツまでおろして看守さんの前へ出ていかなければならないのです。

その上おまけに、この帰房検査の方法というのが徹底的に女囚を人間扱いしない屈辱的なやり方で、最初のうちは、やらされるたびに本当に涙がこぼれたものでした。居住区の入り口になんとも奇妙な通路がありました。廊下の壁から、腰の高さと頭の上とに鉄の棒がニョキニョキと何本も突き出しているのです。この通路がどういうふうに使われるのか、私は、分類調査が終わって最初に作業に出た日に、目もくらむような羞恥と屈辱の思いと一緒に知らされたのでした。

例の不格好なズロース作りのミシンかけで、てぎわが悪いと一日じゅう叱られつづけ、作業終了のベルをホッとした思いできいた私は、ほかの女囚たちと一緒に整列させられ、看守の笛の合図で居住区の入り口まで行進させられました。そのヘンな通路の前の廊下に一列に並ばせられた私たちに、看守の残酷な命令が飛びます。

「帰房検査! きょうは新入りもいるから、先輩はチャンと見本を見せるんだよ。チンタラしたやつはなんどでもやらせるからね。ヨーシ、脱衣!」

まわりの女囚がいっせいに着ているものを脱ぎ始めます。わけがわからないまま、私もあわてて作業衣、ズボン、シュミーズを脱ざました。そして、みんながだまってズロースを脱ぐのを見て、私も腰をおおう最後の一枚に手をかけるほかありませんでした。おおぜい人が見ているまえで下穿きをおろすときの恥ずかしさ。私は、明るい照明の照らすなかで耳までまっ赤になっていました。

一糸まとわぬ全裸で立ちすくんでいた私は、目の前で「先輩」たちが看守の命令でやらされる哀れにも浅ましい格好に、ほんとうに息が止まりました。一列に並んだ女囚たちは、看守の笛の合図でひとりずつあのヘンな通路に入り、両手をあげて上の横棒につかまると、大声で、

「000号ですッ! お願いします!」

と叫ばされ、ズロースさえはいていない足を思いっきり高々とあげて腰の前の横棒をまたぎ越すのです。

要所要所には看守が椅子に腰かけて、下からその姿を監視しています。その前へゆくとかならず大声で自分の称呼番号(囚人番号)を叫ばなければならないのです。これが帰房検査、刑務所内の符牒で「カンカン踊り」と呼ばれる身体検査、私たちがもう人間扱いされない懲役囚の身分なのだということを、一日に一度身にしみて思いしらされる屈辱の儀式なのでした。



私の目の前で、白い裸の家畜たちは一人ずつ笛に呼び出されて、否応なしに哀れな裸踊りを踊るのでした。大きなお尻がモクモクと左右に振られ、豊かな乳房がプリプリと上下にゆれます。両手を高くあげさせられているので、お乳はもちろん、おヘソの下の一番恥ずかしいところまで隠しようもなく、明るい光のなかを全部丸出しの姿で歩かされる。それだけでも気が狂いそうな恥ずかしさなのに、椅子に腰かけて待っている看守の前まで行くと、自分の囚人番号を大声で叫びながら、思いっきり足をあげて腰の高さの横棒をまたがなければならないのです。

そんな格好をすれば下穿きさえはいていない女がどんなに卑猥な格好になるか、私は気が遠くなる思いで「先輩」たちの哀れな姿を見ていました。順番に笛に呼び出されて、とうとう私の番がきました。

「次ッ!」

ピッ、笛が鳴りました。もうどうすることもできません。私は必死に前を押えていた両手を離し、頭の上の横棒につかまりました。恥ずかしさにカッと全身が熱くなりました。



「なにをしている! 早くしろ!」

ピシャッ、と裸のお尻を看守に叩かれ、私は目のくらむ思いで明るい照明のなかを歩きはじめました。腰の高さの横棒があり、目の前の椅子に看守さんが座ってジッとこっちを見ています。私は、しっかりと目をつぶって死ぬ思いで裸の足をあげました。とたんに、

「呼称番号はどうした! やりなおしッ」

あわてておろした足を、あらためて高く上げながら、

「八六五号ッ」

自分の囚人番号を叫ばされるというのは、どんなに屈辱的な思いがするものか、やらされたことのない人には絶対にわからないでしょう。しかもそれを裸の股間をおもいっきり広げた格好でやらされるのです。つまりこれは口の中、わきのした、股間と、物を隠せそうなところはすべて開いて見せる(ムショふうの猥雑な言いかたで言えば、上の口と下の口をいっぺんにパックリと開いて見せる)ためで、効率よく身体検査をやるために考えだした方法なのでしょう。

しかし、やらされる女囚の気持ちからいえば、これほど屈辱的で非人間的なやり方はないと、心の底から思います。私は本当にオイオイ声をだして泣きながら、この卑猥で滑稽で哀れな裸踊りを踊り続けるほかなかったのでした。泣いたからといって私ひとりが特別扱いしてもらえるわけはなく、惨めさ恥ずかしさに頭の中がまっ白になった感じでつい言い忘れて、

「呼称番号はどうしたッ!」

と怒鳴られるたびに、

「八六五号!」

と泣き声でわめく私の声がどこか遠くのほうから聞こえてくる感じで、私は、なかば気が遠くなりながら屈辱のカンカン踊りを踊り続けたのでした。



「フーッ。ひどいわね、マッパダカにされて人の見ている前を歩かされて、そのうえ足まで上げさせられるなんて......。ほんとにこんなひどいことさせられるのかしら」

「股間に物を隠していないか調べるために裸にして足をあげさせるのは、江戸時代の寄せ場(軽犯罪者や浮浪者を集めて労働させた収容所)で、青竹またぎといって、入所者を裸にして横に渡した青竹をまたがせたという記録があるから、昔から行なわれていた方法だね。近代の刑務所でもカンカン踊りという言葉になっているくらいだから、実際にあちこちで行なわれていることはまちがいない。映画の『女囚さそり』のタイトルバックには、ズラリと一列に並んだ全裸の女囚たちが捜検通路で次々に横棒をまたいでいくシーンが使われている。もちろんカメラはうしろからだが、若い女囚たち(の役の新人女優)が全裸で足を高く上げ、ムキだしのお尻をムクムク振りたてながら横棒をまたぎ越していく。何本もの横棒をやっと通り抜けると、こんどは急な梯子状の階段を登りおりさせられる。梯子の下から男の看守がジッと見あげているから、女囚たちは否応なしにダイジなところをシッカリ覗かれることになる。女囚役の若い女優さんが半ペソをかいているのは演技だけではないようだ」

「そんな、残酷......」

「『おんな鑑別所』という映画でも、全裸の女囚が両手をバンザイさせられて階段を登りおりさせられるカンカン踊りのシーンがある。女囚がマッパダカで両手を上げて階段を上がるところを、下から男の看守が見あげているというわけだ」




「やっぱり本当にあるのね」

「膣や肛門になにか物を隠していないか、大勢の女囚を検査するためには、一人づつ検診台にあげていたのでは時間がかかってしかたがない。毎日のことだから、能率よく股間を検査する方法を考えだしたということだね。パンツを脱がせて傾斜の急な梯子を登らせれば、手でつかまっていなければならないから、前を押えている余裕がないわけだし、足も否応なしに開かなければならない。その上ノー・ズロのまんま高い横棒をまたがせれば、股倉に隠している物もポロリと転がり出てくるというわけだ」

「イヤーネ、エッチ」

「現在の留置所や拘置所でも、取り調べや公判から帰った被疑者は、男も女もマッパダカにされて、椅子に座った看守の前で両手を上げ足を開いて、自分の名前を大声で叫びながらグルッとまわってみせるという身体検査が行なわれ、カンカン踊りと呼ばれているという。マッパダカで両手をバンザイさせられ、前丸出しの格好で自分の名前を言わされるというのが死ぬほど口惜しく恥ずかしかったと、経験した人は口をそろえていっている」

「わかるわ、その気持。女囚になるって本当に死ぬほど恥ずかしい目に遭わされることなのね。カワイソウ」



(続く)
※「女囚くみ子」は、1990年代(監獄法廃止以前)に書かれた、浜不二夫氏によるSM創作物語です。一組の男女の会話から想起される獄中の描写、法律談義は、くみ子を責めるためのプレイトークとしてお楽しみ下さい。
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浜不二夫
異端の作家。インテリジェンス+イマジネーション+ユーモアで描く羞美の世界は甘く、厳しく、エロティック。
「 悪者に捕らわれた女性は、白馬の騎士に助けてもらえますが、罪を償う女囚は誰にも助けてもらえません。刑罰として自由を奪われ、羞恥心が許されない女性の絶望と屈辱を描きたかったのです。死刑の代わりに奴隷刑を採用した社会も書いてみたいのですが――」
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