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眠れぬ一夜(調教監獄に繋がれて)

髪を短く切られて、私たちを人間でなくする無残な処置が終わりました。我が身の姿の浅ましさに打ちひしがれて、嵌口具で泣き声もたてられずに、ただ涙を流していた私たち三匹(もう間違いなく「三人」ではありません)は、鞭で命令されて、スッパダカの後ろ手錠のまま、縦一列に並ばされました。

先頭の母奴隷の首輪から次の娘奴隷の鼻環へ、娘奴隷の首輪から私の鼻環へと曳き鎖が付けられて、惨めな全裸の奴隷の数珠繋ぎが出来上がりました。さっき広場で見た先輩奴隷の列と寸分変わらない姿。アア、とうとう本当に、奴隷にされてしまったのです。

先頭の母奴隷の鼻環に付けた曳き鎖を握って看守様が歩きだせば、鼻環を繋がれた私たちは、否も応もなく、後について行かなければなりません。

鼻が千切れるような鼻環の痛さ。鎖を握って、苦痛を緩めることさえ出来ない後ろ手錠の辛さ。奴隷の苦役が始まっているのです。

目から涙、嵌口臭から呻きとよだれを洩らしながら、私たちは、スッパダカで、窓一つない長い廊下を曳かれました。厳重に鍵が掛かり、警備の看守様がいる鉄格子の扉をいくつも通ると、下へおりる階段が黒い口を開けていました。ザラザラしたコンクリートむき出しの階段を、鎖に曳かれておりるのです。

看守様の靴音が(私たちは当然裸足です)カーン、カーンとこだまし、私たちが曳きずる足伽の鎖がジャラジャラと鳴って、本当にこのまま地獄の底へ曳いて行かれるような恐ろしさでした。

「ワアッ」と叫んで逃げ出したいのですが、スッパダカで伽と鎖に繋がれている身、文字通り家畜のように曳かれていくしかないのです。

何階分、下におりたのでしょう。重い鉄の扉が鍵で開けられると、中は真っ暗な闇でした。

薄暗い照明がつくと、長い通路の両側は見える限りの鉄格子。その中に、無数の白い裸体が床に転がっているのが見えます。奴隷の檻……今日から私が住む、鉄格子とコンクリートの住居でした。

看守様は、空いている檻に私たちを入れ、所定の位置に立たせておいて「ピシッ」と床に鞭を鳴らし、

「座れ!」

いきなりハダカのお尻を靴で蹴ってこられました。口で命令されるより先に鞭や足蹴が加えられ、それを当然のことと甘受しなければならない我が身の惨めさに泣きながらコンクリートの床に正座します。

隣の奴隷の首輪に繋がれていた鼻環の鎖が外され、床の金具に短く固定されます。顔を上げることも、隣の奴隷に体を寄せることも出来ない長さです。

「分際鞭も今日は免除だ。これで寝てよし。マア、眠れたらだがな。明日からの調教は厳しいぞ」

言い捨てて、看守様は出て行かれました。





檻の鍵がおろされ、明かりが消され、鉄の扉が重々しい音とともに閉められると、何一つ周りが見えない暗闇に私はとり残されました。

しばらくの間、呆然と固い床に正座していた私は、隣の奴隷が(母娘奴隷のどちらだったかを見ている余裕さえ、ありませんでした)鎖を鳴らしながら横になった気配に、我にかえって痺れた正座の足を崩しました。

寝ようとした時、鼻環が床に繋がれているのを忘れて顔を上げかけて、目から火が出る痛さに悲鳴をあげました。もちろん嵌口具の口からは、かすかな呻きが洩れただけですが……。

横になりましたが、後ろ手錠を掛けられていますから、仰向けに寝ることは出来ないのです。固く冷たいコンクリートの床に、布団はおろか衣類さえ許されないスッパダカで、手錠や鎖を付けられたまま寝なければならない苦しさ、惨めさ。あの屈辱的だった女囚の暮らしが、天国に思えます。

奴隷にされてしまった哀しさが今更なから身にしみて、私は嵌口具の中でオイオイ泣きました。

今は何時なのでしょうか。昼も夜も暗黒の地下ですから判りませんが、多分もう夜になっているのでしょう。今日一日食事もしていないのですが(これから一生、餌は与えられても、食事をすることなどないのです)空腹さえ感じませんでした。

じきに私は、体の異変に悶えました。除毛剤を塗られたお股の茂みの所が痒くなってきたのです。手を伸ばして掻こうとして、後ろ手に固く手錠を嵌められている情けなさに、奴隷に堕とされた身の哀しさを噛み締めました。

どうあがいてみても、絶対に下腹部に手は届かないのです。うつぶせになり、足伽の鎖いっぱいに足を開いて、ザラザラの床にお股をこすりつけるしかありません。

哀れな格好で腰を振るたびに(この時だけは周囲の暗黒に感謝しました)股鎖が恥部に食い込みますが、その痛さより痒さが先でした。痒い所に手が届かないもどかしさにウーウー呻きながら、私は必死にお股を床にこすりつけました。

隣からも、鎖の鳴る音と、嵌口具から洩れる呻きが聞こえます。あの母娘奴隷も、私と同じ恥ずかしい場所の痒さに、哀れに腰を振っているのでしょう。それに同情する余裕などなく、私は、痒い所が掻けないもどかしさ、苦しさに、手の自由を許されない奴隷の哀しさを思い知り、ヒイヒイ泣きながらハダカのお尻を振り続けたのです。


奴隷の朝

眠れぬ一夜が明けました。窓のない地下の檻に入れられている私たちには、朝も夜も判りませんが、扉が開いて、制服姿の看守様が大勢入ってきたのです。

女囚の習慣で、大急ぎで正座しました。鼻環を床に短く繋がれていますから、顔は上げられません。一糸纏わぬ全裸で後ろ手錠を掛けられた姿でうなだれて、自分の姿の惨めさに体が熱くなります。

私と一緒に曳かれてきた二匹の牝奴隷(私の隣が母親、その向こうが娘でした。鼻環を床に繋がれた二人は、体を寄せあって哀しい運命を慰め合うことさえできずに、冷たいコンクリートの上で、一夜を泣き明かしたのです)は、いきなりハダカのお尻に鞭を浴びて、くぐもった悲鳴を上げていました。

「正座しろ! 貴様ら奴隷は、俺たち看守や社会の方を見たら、正座して平伏するんだ。覚えておけ」

お尻にクッキリと鞭跡をつけたハダカの母娘は、慌てて、私と同じ哀れな姿勢をとるのでした。

「フフン、除毛剤は痒かったか? アソコはツルツルで、股倉が真っ赤だ。股の毛がなくなってサッパリしたろう。もう一、二回除毛剤を使えば永久に生えてこなくなる。奴隷の股に毛があったら目障りだからな」

母娘の奴隷は二人とも、おヘソの下にあった草叢がスッカリなくなって、お股が真っ赤に腫れていました。ヒリヒリする私のアソコも、二人と同じく生まれもつかぬパイパンになって、あんなふうに、赤く腫れ上がった丘から、恥ずかしいワレメの端を覗かせているのでしょう。

「まず、糞小便をさせてやる。本来は分際鞭が先だが、お前たちみたいな新米奴隷はこらえ性がないから、分際鞭を頂くと洩らす。まあ、洩らしたら、自分の口で掃除させるんだが、面倒だから先に出しておけ」

私たちの鼻環を床に繋いでいた鎖が外され、その鎖で一列に連鎖されて曳かれた先には、コンクリートの床に溝が切ってありました。私たちは、一列に繋がったまま溝の前に立たされました。

「ここがお前たちの便所だ。食堂でもあるがな。サア、サッサとやってしまえ。云っておくが、昼間の調教中に便所なんか行かせんぞ。大は朝だけ、小便も朝と夜の二回だけだ。調教中に洩らしたりしたら、出した物を全部、自分の口できれいに舐め取らせるから、そう思え!」

囲い一つない、周囲から丸見えの場所で……でも、女囚の時でも、護送中の用便は扉をキチンと閉めさせてはもらえず、看守さんに見られながらしたのです。独房のトイレは便器がムキ出し、監視孔から便器に座った姿が丸見えでした。

雑居房のトイレだって、扉はしゃがんだお尻を隠すだけ、もちろん鍵などありませんでした。いつでも用を足す姿を見られていたのです。何よりも私、もうオシッコがしたくなっていたのです。

私は諦めて、溝を跨いでしゃがみ、お股の力を緩めたのです。母親奴隷も尿意に迫られていたのでしょう。私の目の前で、彼女の白い巨大なお尻が思い切り左右に開いて溝を跨ぎ、大きな水音とともに激しい水流を放出していました。私と母奴隷が排尿を済ませて立ち上がった後でも、娘奴隷は、溝の前に立ったまま身を震わせていました。

十七歳の処女にとっては、こんな丸見えの場所で男性に見られながら排泄するなんて、死んでも出来ないと思っているのでしょう。しかし……。

「コラッ、何をグズグズしてるか、この牝奴!」

怒号とともに激しい鞭音が彼女のお尻に鳴りました。彼女だって、冷たいコンクリートの床に一晩寝ていたのです。体が冷えて、オシッコをしたくなっていないはずはありません。

「ジョ、ジョーッ」

大きな水音がして、棒立ちで体を固くしている彼女の足元に、見る見る水溜まりが出来ていきました。

「このバカ牝! さあ、約束通り手前の垂れた物を、手前の口で始末するんだ。この小便を飲め!」

娘の背中とお尻に、続けざまに容赦のない鞭が炸裂します。

「そんなことをするくらいなら、私は死にます」などというのは、鞭をハダカのお尻に受けたことのない人の云う言葉です。あの痛さを一度味わったら、あなただって、どんな浅ましい恥ずかしいことでも、先を争ってするようになることを、私は保証します。

泣き伏していた娘奴隷も、数発目には跳び起きて、自分の作った水溜まりに顔を突っ込んでいました。自分のオシツコを自分の口で飲んだのです。



朝の儀式1・分際鞭

「私たち奴隷は、どんなことでも、それがどんなに恥ずかしくて惨めでも、血の涙を流しながらでも、命令通りにしなければならないのだ。それが奴隷というものなのだ」

浅ましく自分の排泄物を飲んでいる娘奴隷の姿を見て、私は、心の底から自分の分際を悟っていました。

「朝の日課だ。先輩たちのザマをよく見ておけ」

いくつも並んだ檻の先に少し広い場所がありました。そこまで曳いていかれ、端に正座させられます。性器に突き刺さる膣リングの苦痛に、思い切り膝を広げた、あられもない格好をしなければなりません。

隣の母娘奴隷も、大きく股を広げて固いコンクリートに正座して、すすり泣いていました。

こんなに入れられていたのかと驚くほど大勢の奴隷が、檻から曳き出されてきます。男も女も(牡も牝も、というべきですが)私たちと同様、衣類は何一つ身に着けていないマッパダカで、首輪、後ろ手錠、鎖褌、足伽を付けられ、鼻環を連鎖されて、家畜のように(家畜なのです)曳かれて前を通っていきます。

哀れな姿で座らされている私たちに目を向ける者もなく、皆呆然と前を見ながら、膝を大きく外へ広げてヨタヨタと歩いていきます。鞭を持った看守様が何人も立っています。鼻環を繋がれた先頭の牡奴隷が看守様にお尻を向けてひざまずき、顔を床に付けてお尻を高く突き上げました。

看守様の手がひらめくと、鞭が奴隷のお尻に、力いっぱい打ち下ろされました。

「ビシィッ」

耳を覆いたくなるような(後ろ手錠の私たちには出来ませんが)音がして、嵌口具を街えた奴隷の口から、くぐもった悲鳴が洩れます。

続いて二発目、三発目!

……三発目で前にへたばった奴隷が、やっと向き直って看守様の前で床に額をすり付けて鞭のお礼を申し上げて(声は出せませんが)、ヨロヨロと立ち上がると、次の奴隷が同じ姿勢をとって……。

「いいか、お前たち奴隷は鞭で躾けられる身分なのだ。調教官様はもちろん、俺たち看守、一般社会の方々も、いつどこでお前たちに鞭を与えてもいいのだ。その分際をシッカリ判らせるために、朝晩、分際鞭を食らわせるんだ。いいか、貴様ら奴隷は鞭を頂くのが当然の身分で、素直に命令に従っていれば少しは鞭が減り、命令を実行できなかったり、遅れたりしたら、ドンドン鞭が増えるんだということをよく覚えておけ」

分際鞭。何も悪いことをしなくとも、朝晩ハダカのお尻を鞭で力いっぱいぶたれるのです。奴隷にされた身の哀しさ、恐ろしさに、今更ながら体が震えます。でも、こうしてマッパダカにされて鎖に繋がれてしまえば、もう逃れる方法はありません。私も今日から毎日、朝晩ハダカのお尻に分際鞭を頂戴するのです。

これが死刑に代わって設けられた奴隷刑でした。私は歯の根も合わずに震えながら、目の前の地獄の光景を、見続けるほかありませんでした。

先輩奴隷たちが全員お尻に分際鞭を頂戴し、クッキリと鞭跡をつけて、今日の調教と使役に曳かれて行った後、震えている私たちの前に、牡奴隷が一匹曳かれて来ました。

もちんパンツさえ穿いていないマッパダカで、頭は丸坊主、両手は後ろ手に厳しく拘束され、首輪、鼻環、嵌口具、足伽ですべての自由を奪われた、哀れな奴隷姿です。

股間は私たちと同様、惨めな鎖褌で締め上げられられています。男性の全裸を、生まれて初めて見たとは云いませんが、そんなに見慣れているわけではありません。思わず目がいってしまった牡奴隷の股間に、当然ブラ下がっているムキ出しの男性器は、惨めにも、根元を、鈍く光る鋼鉄の環で固く締め上げられていました。

隣の母娘奴隷が、嵌口具から言葉にならない泣き声を洩らしながら身をもみます。彼女たちの夫・父親の変わり果てた姿なのです。母娘奴隷を見た牡奴隷も、呻きながら身悶えていました。

「ハハハ、お互いにこんなザマになってもすぐ判るか。やっぱり元家族だ。奴隷として売られてしまえば、家族が同じ所有主に飼われる可能性はごく低い。名残を惜しめるよう、しばらく一緒に調教してやろう」

親切なようで残酷な扱いです。名残を惜しむにしても、妻・娘としてあるいは夫・父親としては、この哀れな奴隷姿をお互いに見せ合うのがどんなに辛いことか(後に私が本籍地で晒しを受けたとき、家族にこの惨めな奴隷姿を見られるのが、何より辛かったのです)。私は心から同情していました。私もまったく同じ、浅ましい奴隷姿なのですが……。

(続く)

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「女囚くみ子」第二部
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浜不二夫
異端の作家。インテリジェンス+イマジネーション+ユーモアで描く羞美の世界は甘く、厳しく、エロティック。
「 悪者に捕らわれた女性は、白馬の騎士に助けてもらえますが、罪を償う女囚は誰にも助けてもらえません。刑罰として自由を奪われ、羞恥心が許されない女性の絶望と屈辱を描きたかったのです。死刑の代わりに奴隷刑を採用した社会も書いてみたいのですが――」
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