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マゾ奴隷として目覚めて……

あの日の恥すがしさ、惨めさは、今思い出しでも全身の血が凍り、顔から火が出る気がします。

パーティに出席しているのは昔の同僚……同じ制服に身を包み、机を並べて仕事をし、休憩時間やアフター・ファイブには、ファッションやグルメや男性の品定めやらの話に花を咲かせたお仲間だったのです。

それが、ほんの数年後の今、彼女たちは人妻やキャリア・ウーマンとなってお洒落な洋服やアクセサリーで身を飾り、美味しいお酒やお料理を楽しむために集っておられ、そこへ私は、肌に奴隷番号を烙印されたスッパダカで、自分の体の自由を奪う拘束具だけを身に付けて、出ていかなければならないのです。

H様は意地悪く、前日に私をお呼びになって、そのパーティの内容をお告げになりました。辛い予感に眠れぬ一夜を明かしましたが、どうすることも出来ずにパーティは始まり、私は浅ましい奴隷姿で手枷の嵌まった手にお料理を乗せたトレイを捧げ持って、華やかなパーティ会場へ出ていくほかなかったのです。

元の同僚に浅ましい姿を晒し、奴隷に堕ちたわけを話させられ、残酷なお友達に笑われ、からかわれ、嬲られ、辱められ、鞭を頂戴しました。昔の友人にハダカのお尻を鞭打たれて、哀れに泣き叫びながらお慈悲を哀願し、床に額をすり付けて鞭のお礼を申し上げ、お靴で頭を踏み付けて頂き、お靴の裏に接吻させて頂きました。

皆様がお帰りになった後、後片付けをすませ、分際鞭を頂戴して檻に放りこまれ鍵を掛けられた私は、真っ暗闇のなかで、檻の床にしがみついて号泣しました。

浅ましい奴隷の暮らしで、ずいぶん辱めにも慣れたはずの私にとっても、今日のお勤めは本当に死ぬほど辛かったのです。



もう一つ辛いお勤めは、どなたとも判らぬお方のベッドのお相手をさせられることでした。苦役を命じられた奴隷にとって、辛くないお勤めなどないのでしょうし、奴隷のお勤めを辛いと思うこと自体が心得違いなことだとは思いますが……。

奴隷は、本来何の権利もない家畜や道具と同じで、若い牝奴隷となれば(時には牡奴隷でも)セックス奴隷として使用されることは、むしろ当然のお扱いなのです。ご主人様がご自分で「お使いに」なることも、お客様のお慰みに「ご提供」なさることも、法律上はもとよりモラル的にも、何ら問題になることではありません。

私たちは「娼婦」でさえない、ただの「慰安用具」なのです。

ある日H様は私をお召しになって、「今夜は大切なお客様のご接待だ。心してお勤めするんだぞ」とおっしゃって、私に全頭マスクをお被せになりました。

スッポリと顔も頭も覆う柔らかい革のマスクは、首輪に接続されて、絶対に自分では脱げません。また細工も巧妙でした。外からの簡単な操作で目隠し、耳栓、嵌口具が作動して、私の視覚と聴覚そして言葉を完全に奪い去るのです(呼吸には全く支障ありません)。

鎖褌を外されて体を丁寧に洗われ、豪華なベッドにあおむけに繋がれます。目隠しと嵌口具が働いて、何も見えず言葉が喋れなくなった私の耳に、H様のお声が聞こえます。

「フフフ。いい薬を塗ってやる。しっかり頑張るんだぞ」

目は見えず、耳もふさがれたのに、なぜか嵌口具が外されました。そして、鎖褌を脱がされてムキ出しになっている「牝」の箇所に、怪しい薬が塗り込まれるのを感じて、私は「アアッ、ウ、ウウウ……!」と呻いていました。

数分と経たないうちに私は、ソコが我慢できないほどムズ痒くなり、熱くうずく感覚に頭の中をメチャメチャにされていました。手が自由だったら、私は人目も構わずアソコに指を入れたろうと思います。でも私の両手は、頭の上でベッドの手摺りにガッチリと繋がれていたのです。

「アアッ、アーッ、どうしよう。ヘンだわ。私変になっちゃう! アア声が出る……お願いです。口を括って。轡を嵌めてッ、アーツ、アアーッ。お願いでございますッ。嵌口具をッ」

こんな時だけ声が出る恥ずかしさ。私は、あんなに嫌いな嵌口具を、嵌めてくださいとおねだりして泣き悶えたのです。奴隷の願いなど聞き届けられるはずはないのに……。

どなたのとも判らぬ「男性」を迎え入れて私は絶叫しました。虹色の霧が頭の中で渦巻き、次々と大爆発が起こって私は失神してしまったのです。

「フフフフ、よく頑張った。お客様は満足して帰られた」

気が付いた時にはまだベッドの中、H様が見下ろしておられました。マスクは外されています。何一つ隠すことが出来ない姿のまま、私は身の置き所のない恥ずかしさに泣いていました。

昔、会社でご一緒だった、いいえ、ただの会社の先輩後輩というだけではない感情を抱いたこともある方に、セックス用の道具として他の人に貸し出され、そしてそれが気持ちよくて、浅ましくも淫らにヨガリ泣いたのです。もう私はダメです。

「フフフ、褒美に今夜は私が分際鞭をくれてやろう。這え!」

H様の前で床に顔を伏せ、丸出しのお尻を高く上げました。お尻に炸裂する鞭! 1発、2発、そして3発目が私のお尻で弾けた時、お尻から頭の芯へ思いも掛けなかった感覚が駆け昇って、私は、「アアッ、イイッー」と叫んでいました。

「――私は淫乱なマゾ牝奴隷だわ。もうダメ……」

心の底からそう思いました。私はこの時、正に身も心も畜生奴隷に堕ちたのです。

その後も「性交用具」のお勤めは頻繁にありました。いつも、マスクで目と耳をふさがれ、口はふさがれないのです。どなたとも判らぬ男性とセックスのお勤めをして、そのたびに、私は淫らにヨガリ泣くのでした。

私は淫乱な性交奴隷。殿方のエッチなお遊び道具なのです。我慢などせずに、スケベ牝の本性をさらけ出したほうが、お相手の男性がお喜びになり、ご主人様にもほめて頂けるのです。慎みやたしなみは人間のお嬢様のもの。私は牝畜奴隷、男性が遊ばれる玩具なのですから。

そして、お顔も判らぬお客様とセックス奴隷のお勤めをした後では、いつもH様の巧みな鞭をハダカのお尻に頂戴して、私は浅ましく昇天して嬉し泣きするのです。あの恐ろしい鞭を頂いて気をヤッてしまう。信じられない思いですが……。

私はマゾだったのでしょうか。鞭が待遠しくなることさえあるこの頃なのです。




誰も知らないH様の独り言

お早めにお帰りになったご主人様の、お食事のお給仕を命じられました。奴隷ですから当然のこと、首輪と鎖褌だけのスッバダカ。拘束具は、家内使役用の鎖の手枷、嵌口具の他に耳栓が嵌められました。

奴隷は喋る必要がありませんから口枷(嵌口具)は当然なのですが、ご命令を聞く耳は普通ふさがれないのです。

でも何事もご主人様のお心任せの身。お酒のボトルを手にご主人様のお手元をジッと見続けます。グラスがちょっと上がったらお酒を注げのサイン。見落としたりしたらすぐに鞭です。なにかおっしゃっているようですが何も聞こえず、お手元だけを見ていますから、お口の動きも判らないのです。

「丸矢くみ子さん。懐かしい名前だ。君に聞こえるように呼ぶわけにはいかないんだ。哀れな奴隷姿にも、いくらか慣れたようだね。いくら慣れたって、奴隷の暮らしがこの世の地獄だということは、僕が一番よく知っている。君が飲酒運転で人身事故を起こして刑務所に入ったことは、風の便りで聞いて心を痛めていた。君はあまり気付いてくれなかったが、僕は君が好きだったんだ。だから、競売される新奴隷のリストに君の名前を見た時は本当にぴっくりした。僕は今、奴隷商人なんだ。君に去られた後僕は一念発起して勉強し、調教官試験に合格したんだ。厳しい任官訓練も受けた。でも何か心に染まなくてじきに退官したけれど。

その経験を活かして奴隷と奴隷拘束具を販売する会社を起こして、ご覧の通りまあ成功した。奴隷の地獄の暮らしは日頃この目で見ている。君をこの地獄から助けてやりたいと思った。若い牝奴隷だから決して安くはないが、君を買うお金は何とかなる。だが、僕が君を買い取って自分で飼うのには、一つ支障があったんだ。

奴隷は、懲役奴隷にしろ債務奴隷にしろ、社会に多大な迷惑を掛けたことの罰として人権を剥奪されて奴隷にされるのだから、奴隷を買い取った者が奴隷を奴隷として扱わず安逸な暮らしをさせると、懲罰としての奴隷制度の意味がなくなるわけだ。終身奴隷刑は、死刑廃止の見返りに制定されたことを忘れてはいけない。そのために、奴隷の特別関係者、親族・配偶者・恋人・友人などは、当該奴隷を飼うことは禁止されているんだ。

僕は、特別関係者に認定されないために、調教官時代の人脈をフルに使って必死に工作した。何とか特別関係者認定は免れたが、『いっさい手心は加えず、通常の奴隷として扱うこと。これに反したと認められた時には、君を国庫に没収して、再度競買にかけるものとする』という条件が付いてしまったのだ。万が一没収されたりしたら、もう私にもどうすることも出来ず、君は一生、地獄の底で呻き苦しまなければならない。だから私は、ことさらに君を苦しめ辱めて、厳しく奴隷の苦役を勤めさせていると周りに見せなければならないのだ。

性交奴隷としての使役も、君は大勢の客に遊ばれていると思っているだろうが、実は君を抱いているのは僕一人なのだ。『昔のお知り合いに、むごいこトをなさる』と使用人たちが陰口をきいているのは判っている、それが狙いなのだ。君を救いたいのに、表向き、ことさら君を辱め苦しめなければならない。そこで僕は考えた。調教官時代に「やってはいけない」と教わった禁じ手なのだが、僕は君をマゾ牝に調教するつもりだ。辱め、苦しめることがやめられないならば、それを喜ぶ体にしてあげよう、というわけだ。

それは、さして難しい調教ではない。鞭と薬と心理誘導をミックスした調教で、君はもう、ほとんど立派なマゾ牝になりかけている。君には元々その素質があったようだ。人前でマッパダカにされ、拘束具で自由を奪われ、鞭打たれ、辱められながら苛酷な苦役に涙を流す。一生その地獄から抜け出す方法がないのなら、ハダカで縛られ、鞭打たれ苛められることが快楽となるマゾ牝になるしかない。そうなれば、その地獄が、君にとっては天国になるのだから」


エピローグ

「あのう……あなた様が、くみ子さんの、イエ、牝奴隷9703号の飼い主様でいらっしゃいますか? ……恥を申し上げなければなりませんが、実は私も鎖に繋がれていた身でございまして……この9703号と一つ檻に入れられていたことがあるんでございます。さっきあなた様が、彼女を這わせて鎖で引いて散歩させていらっしゃるのを拝見して、もう夢中で、おみ足をお止めいたしました。お慈悲でございます。一目会わせてくださいませ。エッ、お屋敷へ伺えばお話をさせてくださいますの? 有難うございます。有難りがとうございます。ではこのままお供をさせて頂きます。マア、嵌口具を外してやってくださいますの? お慈悲深いことでございます。有難うございます。もちろんだれにも喋りません。私の恥になることでございますの……。くみ子さん、私、マリよ。8065号よ。M市の刑務所に一緒に繋がれて、ニ人で毎日ゴミ車を曳いて、マッパダカで街を走ったじゃない」
「アア、マリさん! あなたは自由になれたのね、よかったわ、よかったわね」
「ええそりゃ嬉しいわ。鼻環を曳かれないで、服を着て外を歩けるんだもの。でも、もうこの年よ。ある日突然、首輪外されて檻から出されて、どこへでも行けって云われても……家族はどこにいるかも判らないし、お金はおろか、服も、パンツ一枚さえも持っていないんですもの。私の担当だった女看守様が服とパンツを恵んでくれたわ。服は着古しだったけど、バンティは新品だった。オイオイ泣いて押し戴いたわ。扱われていた間は鬼みたいな女だと思っていたけど、彼女の仕事だったのね。私がそう扱われて当然の分際だったんだから。今? ホームレス暮らしで、日雇いの仕事して……お金があれば、鼻環を通していた穴をふさいだり、お股に植毛したり、お尻の番号を消したり出来るんだけどねえ、胸の番号は消しようがないけど……。あなたはずっと、こちらのご主人にお仕えしていたの。幸せよ、私なんかもう転々と売られて……お優しそうな主人様だし……」
「ハハハ、こいつ自身はそう思っていないでしょう。これで結構、奴隷の扱いは厳しいんですよ」
「エエ、エエ、もちろんでございますとも。奴隷は厳しく扱わて当然の分際でございますから。それでもお心がお優しい方かそうでないかは、飼われている私どもにはすぐ判るんでございますよ。どなたも奴隷には拘束具をお付けになり、鞭をお与えになります。法律で、そうしなければいけないと決まってるんだそうですわね。でも、手錠の嵌め方一つでも、分際鞭の打ち方一つでも、それをこの手首やハダカのお尻に頂戴する私どもには、飼い主様のお心が判るのでございます。判ったからといって、私ども奴隷がどうしてくださいなどと申し上げられるわけはございませんが……」
「フーン、そういうものかね。オイくみ子、お前にも私の心が判るのか?」
「ハ、ハイ。お優しいお扱いを頂いていると、感謝申し上げております」
「フン、調子のいい奴だ。じゃ、そのお優しい心で鞭をくれてやろうか。床に這って尻を上げろ!」
「アアッ、む、鞭! ……ハ、ハイ、お心のままに……マリさん、見ないで……あなたが恨めしくなるから」
「くみ子さん!」
「フフフ、素直に尻を上げたな。ヨシ、お客様の前だ。今日は特別に勘弁してやろう」
「アア、有難うござます。有難うございます」
「私もお礼を申し上げます。ご主人様!」
「ハハハ、あなたはいい人だ。さっきM市で一緒だったと云ってたね」
「ハイ、故郷お詫び奉公でM市の刑務所に繋がれでいたとき、同じ房に、奴隷公示が済んだばかりのくみ子さんが、入れられてきたのです。言葉通り、足蹴にされて蹴り込まれて……二人ともスッパダカで、後ろ手錠を掛けられての初対面でした」
「アア、あの時……恥ずかしかったわ」
「本当に、糸一本、身に付けさせでもらえないんだもんね。体にじかに奴隷番号書かれて、嵌口具、首輪、手枷、足枷、鎖褌。そして浅ましい鼻環!」
「私はまだ、その姿なのよ! マリさん」
「そうね、ゴメンね。でも、私は今、絶対に人前に肌を出さないの。胸にもお尻にも番号付いてるし、お股は毛がなくてツルツルだし……お風呂へ行けず、人目から隠れてコッソリシャワーを浴びるだけ。いっそ、皆の前でスッポンポンになって、私は奴隷だったからこんな体なのよ、見てもいいわよ!って叫びたくなるわ」
「今でも奴隷の私は、否応なくハダカを見られてるけど……」
「毎日ニ人一緒に、真っ裸でゴミ車を曳いて街を走ったわ。若い娘がスッパダカで人前を走るんだもの、町中の人が私たちのハダカを見ていたわ」
「そうね、それが一番辛かった……」
「中年男に穴が開くほど(穴あいてるわね)見られ、オバサンにからかわれ、子供にまで苛められて、地面に額すり付けてお慈悲を願って……。でもねくみ子さん。私、その奴隷に志願しようと思うの!」
「エッ、ど、どうして?」
「奴隷だったことをひた隠しにして、家がない、お金がない、身寄りもいない今の暮らしが、奴隷よりましなのかしらって思いだしたの。鞭にもハダカにも、私、慣れちゃってる気がするし……。あのー、主人様。H様とおっしゃるのでしたわね。ここでくみ子さんにお会いできたご縁にすがって、浅ましいお願いをいたします。私をくみ子さんと一緒に飼って頂けないでしょうか。お許しを頂けましたらすぐに志願奴隷の手続きをいたします。もう若くはありませんが、心をこめて従順にお仕え申し上げます。どんなことでもいたします。くみ子さん、いいえ、9703号と一緒に一生飼って頂ければ、それで満足でございます。この通りお願いでございます」

やにわに立ち上がると、彼女は服を脱ぎ始めました。止める間もなく彼女は、下着まで脱いでマッパダカになって土下座平伏しました。ムッチリ中年太りした白い肌、胸とお尻にクッキリと書かれた奴隷番号。彼女は、もうこれを隠さなくていい暮らしを選ぼうとしているのです。

数週間後、H様のお屋敷には、ニ匹の奴隷が鎖に繋がれて使役されていました。奴隷として当然の姿、一糸纏わぬ全裸の体に厳しい拘束を施され、時々鞭を頂いては、嵌口具の口で「ヒイッ!」と泣く浅ましい畜生奴隷のお勤め。でも、一つ鎖に繋がれて使役を勤めるニ匹の顔は、なぜかとても平穏でした。

(了)

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「女囚くみ子」第二部
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浜不二夫
異端の作家。インテリジェンス+イマジネーション+ユーモアで描く羞美の世界は甘く、厳しく、エロティック。
「 悪者に捕らわれた女性は、白馬の騎士に助けてもらえますが、罪を償う女囚は誰にも助けてもらえません。刑罰として自由を奪われ、羞恥心が許されない女性の絶望と屈辱を描きたかったのです。死刑の代わりに奴隷刑を採用した社会も書いてみたいのですが――」
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