The ABLIFE June 2013
アブノーマルな性を生きる全ての人へ
縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
彼女のほそい首すじから肩にかけてのなだらかな線が、
指でなぞりたくなるほど美しい。
肉のつき加減がちょうどよく、
この店の照明のせいもあって、
露出しているそのあたりの皮膚がきめこまかく、
じつに肉感的に見えるのだ。
指でなぞりたくなるほど美しい。
肉のつき加減がちょうどよく、
この店の照明のせいもあって、
露出しているそのあたりの皮膚がきめこまかく、
じつに肉感的に見えるのだ。
いま使用している執筆用のメガネが、やや見え辛くなったので、新調しようと思った。
前回は某女子医大の眼科に付属している何やら立派なメガネ店で作ったのだが、そこへ行くには電車にのらなければならない。
めんどくさいので、今回は仕事場から歩いて十五分ほどの、同じ町のメガネ店へ行った。
そのメガネ店は最寄のJRの駅の正面を通りすぎた反対側の方角にあって、百メートル以上もある長い橋を渡らねばならない。
橋の下には、山手線、京浜東北線、高崎線、新幹線、さらにはコンテナを百台もつなげた貨物列車もひんぱんに通る。
メガネ店は線路沿いの道路のビルの一角によく目立つ大きな看板を出している。
ドアをあけると人のよさそうな柔和な顔の主人らしい中年男性が出てきて、私の相手をした。
私は店の奥に招かれ、視力の検査が始められた。椅子にすわった私の斜め右手の前方に、この店で働く三十歳前後の女性が目に入った。
デスクのパソコンにむかって、黙々と何かの仕事をしている。その横顔と、彼女の体の右側の姿勢が、私の位置から見える。
彼女は髪の毛を上にまとめているので、ほっそりとした首筋が、そっくり見える。
梅雨の最中のむし暑い季節なので、生地のうすい白い半袖のシャツを着ている。スカートも白で、これもうすい生地である。
首すじから眉にかけて、やや大胆に肌が露出していて、涼しげな感じである。シャツの下に着ている肌着の一部の紐状のものが、すこしのぞいて見える。
肌着の紐がすこしだけのぞいているところが、ひどく色っぽい。肌着の露出度が多くなると、だらしない感じになって、色気は消滅する。
視力検査の機械を目にあてられ、メガネ店の主人の質問に答えながら、同時に私は、すきを見ては、その女店員の全身を盗み見ている。楽しんで見ている。もっと正確にいえば視姦している。
彼女のほそい首すじから肩にかけてのなだらかな線が、指でなぞりたくなるほど美しい。肉のつき加減がちょうどよく、この店の照明のせいもあって、露出しているそのあたりの皮膚がきめこまかく、じつに肉感的に見えるのだ。
ハハア、この女性は、自分の首すじから肩のあたりのエロティシズムに自信があって、わざと男どもに見せているのだな、と思う。
女子医大付属のやたらに機能的なメガネ店より、地元のこっちの店のほうが、よっぽど楽しくていいや、と思う。なんだかひどくトクした気分になる。
「はい、タテの線と、ヨコの線と、斜めの線が交差してますね。とくに太く見える線がありますか?」
などと主人が聞いている。
「みんな同じ太さに見えます」
と、私は答える。
午前中だったせいか、私のほかに客はなく、店内は静かである。
パソコンを操作している女店員を、椅子から立たせる。
デスクの端に両手をのせさせ、両膝をすこしまげさせる。彼女は素直にいうことをきく。
白いスカートを後ろからまくりあげる。下はショーツだけ。そのショーツに指をかけ、後ろから膝の上あたりまで下げる。
彼女の白い尻が、ツルンと露出する。
主人は自分もパンツを膝まで下ろして、後ろから、そろそろと彼女の尻に抱きつく。
彼女は無言のまま、なんの抵抗も見せずに、むしろ、それを待っていたかのように受け入れる。
つまり、だれもいないときを狙って、主人はこの店の中で、女店員を白昼こういうポーズで犯して楽しんでいるのだ。
その光景を、私は主人から視力検査をうけながら想像している。
彼女の尻に後ろから密着しているのは、私ではない。この人のよさそうな中年の主人である。
私はそれを眺めているだけである。眺めて楽しんでいるのだ。
ふつうだったら、こういう淫らで楽しい想像の場合、女性を犯す男には自分がなっているはずである。
そうならないのは、自分がもうその種の現役をしりぞいた高齢者のせいだからだろうか(何しろ後期高齢者である)。
自分がもし若くて体力があったら、妄想の中の男の役は、他人にまかせたりしないで、自分自身でやるほうが自然ではないのか。
彼女を立たせてデスクの上に両手をつかせ、あの白いスカートを後ろからまくりあげるのは、私でなくてはならない。
ショーツをおろして尻をむき出させるのも私だ。そして後ろから抱きつき密着する。
いや、ちがう、やっぱりちがう。
私は若いころから、たとえ妄想の中でも、自分がやるより、他人がやるのを眺めているほうが好きだったような気がする。
私には多分に窃視症のケがあるのだろうか。いや、他人の情事をとくに覗き見したいという欲望はない。
私は女性の性器に触れたり、のぞきこんだりすることに、もともと執着しない性質なのだ。
女は大好きだが、あの部分だけはどうも不潔で汚らしいという気持ちのほうがつよかった。
だれかにやらせ、自分はそれを眺めているほうが楽しいし、興奮する人間だったのだ。
考えてみると、私はずいぶん長いあいだ、妄想なんかではなく、そういうシーンの撮影ばかりやる現場で働いてきた。
女性が足をひろげ、男のその上にのしかかるという映像の現場に、飽きもせず、縄の入ったバッグを片手にかよっていたのだ。
しかし、あの現場にいて、私は芯から興奮したことがあっただろうか。
いや、あまり、というより、ほとんど興奮しなかったような気がする。メガネ店の主人が、いつ客がくるかもしれない白昼、店の中で女店員を犯す場面を想像するほうが、興奮度は上のような気がする。
私は正直に言うと、お金が欲しかったから毎日のようにあちこちの撮影の現場へかよっていたのだ。お金がたくさんいただけて、本当にありがたかった。
いまになってこんなことを言うのは、やっぱり卑怯かなあ。
いや、私は撮影の現場では、頂いたギャラの分だけは......ときにはそれ以上の働きをしてきたように思う。
「どうもおつかれさまでした。右の左ではかなり度数がちがうようですね。レンズができあがるまでに四、五日はかりますが......」
耳もとでメガネ店の主人の声がして、私は妄想からさめた。
首すじのほそい女店員がパソコンから目を離し、チラとふりかえって私を見た。視線があった。すると彼女は、なんということなしに、私にむかって会釈した。
私は彼女に必要以上の笑顔をむけ、こくりと頭を下げた。
(続く)
『濡木痴夢男の秘蔵緊縛コレクション1「悲願」(不二企画)』
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