WEB SNIPER Cinema Review!!
2人の女性の30年の時を超えた、恋と友情の物語
東京から岡山に転校してきたばかりの佐々岡鮎子(優希美青)。クラスに友達がいない彼女の心の支えは、かっこよくてギターもうまい大学生の彼、ヒデホくん。鮎子は密かに2人を主人公にした恋愛マンガを描いていたが、ある日、その漫画をクラスでもよく目立つ美人の秋本武美(足立梨花)に見られてしまう。漫画を通して次第に仲を深める2人だったが......。1980年と現代の2つの時代を舞台に揺れる恋と友情を描いた青春物語。全国順次ロードショー
時代設定は80年代と聞くと、すわ80'sリヴァイバル!車とか、ファッションとか、口調とかで、80年代をグイグイ感じさせてくれるのか?!?と期待してしまったのだが、さほどタイムスリップ感を味わえなかったのは残念だった。
むしろ友情出演している岩井志麻子のヒョウ柄トレーナーに、時代設定を超越した説得力を感じる。なぜ岩井志麻子が唐突に出てくるのか? 岡山出身というつながりしか思い浮かばないが? しかしそのインパクトたるや充分、このシーンは本作最大のでーれーモーメントと言っていいだろう。原作は原田マハ。監督は大九明子。岡山県を舞台とした女子高青春ムービーだ。
1980年、ラジオからはリクエストナンバー、山口百恵の「ロックンロール・ウィドウ」が流れ、主人公(優希美青)は学習ノートにマンガを描いている。東京から岡山に転校した彼女は、溶け込もうと試みた岡山方言「でーれー(『ものすごい』の意味)」の使い方を間違え、登校初日からクラスで浮いてしまった。そんな彼女になぜか周囲から一目置かれているミステリアスな女の子(足立梨花)が声をかけてくれる。それをきっかけに2人は親友同士になり、主人公の描くマンガを回し読みするようになっていく。
一方、現代ではすでに売れっ子マンガ家となった主人公(白羽ゆり)のもとに、母校から同窓会の案内が届く。岡山で会えるはずの、親友(安蘭けい)との間に何があったのか、映画は現代と過去を行き来しつつ、青春でやりのこしたこと、その最後のピースを埋めるべくすすんでいく。
高校生の演技は学芸会風だし、お約束の難病は登場するしと、辟易する部分もありつつ、転校初日の心細い感じから、友情が始まりそしてそれが失われていくまで、その不安、歓び、苦しみの展開はなかなかいい。夕方に商店街で友だちが、まだ帰らないでと誘ってくる。強く屹立しているかに見えていた彼女の意外な弱さ! こういうとき一緒にいてくれる人って、失ってみてからそのありがたさに気づくんだよね。
80年代を舞台とした女性同士の友情物語というと、2012年に公開された韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』(カン・ヒョンチョル監督)を連想せずにいられない。しかし、どちらも女子校が舞台ながら、『サニー~』の生徒達はみな私服だった。そこで登場人物たちがケミカルウォッシュジーンズを穿いたり、シャツをパンツインしたりして、80年代っぽ~い!となっていたのだが、本作の生徒達はみな制服。それでも当時のデザインを再現しているというが、そんなのブルセラマニアじゃなきゃ「うをー!80'sモデル懐かしい!」とか分からないでしょ! でも制服だからこそ物語の後半、主人公は首に巻かれているスカーフを通して、後輩と世代を超えた一体感を得ることができる。本作には友情のほかに、この学校との一体感という「愛校心」の通奏低音も流れているのだ。
主人公の学校には厳しい校則があって、生徒時代はそれに右往左往していても、やがてそれが仲間意識の源泉になる。電通「鬼十則」みたいなのをみんなで唱和している朝礼なんかは、言ってみれば『フルメタル・ジャケット』で歌いながら連帯感を強めている兵隊と変わらない! 教師が自分の娘も同じ学校に入学させているエピソードなど見るにつけ、本作の登場人物達には疑似家族のような、(ある意味閉鎖的な)連帯感が透けてみえるのだ。日本の厳しいお嬢様学校、そこは実は意外にバンカラなホモソーシャルな世界だった! そんな2人の成長した姿を、日本最大の女の園、宝塚出身のトップスター2人が演じているというのもまた味わい深い。
そんななか、このミステリアスで姉御肌な友だちに腐女子属性があったというのが、本作最第2のでーれーモーメント。彼女は、主人公が恋人(矢野聖人)との関係を描いていたマンガを読んでるうちに、そのキャラクターを通して恋人に恋してしまう。いわば主人公のマンガの才能という芸術が、2人の生活を凌駕してしまうこの展開に、原作・原田マハのパンチ力を感じる。と同時に、これも異性への反応を同性同士で分かち合いたいという、女子校ホモソーシャルの力学ではなかったかと思うのである。
それにくらべて、2人の決定的な決裂の元となるあの男。地下道でまっすぐこなれた感じで声をかけてくる、あの男子生徒(須賀健太)のなんたるホモソーシャル全然ないっぷりか! 高校生のくせに友達ともつるまず、放課後に1人フラフラしたあげく、サラっと女の子に声をかけちゃう!?なぜ友だちとゲーセンに行って、帰りに大食い競争とかしない!?馬鹿野郎!この野郎!この男は、こじれ感ゼロ。今後の人生、悩み無用! そして映画が現代に移れば、跡形もなく消えている。まさに「男一瞬、ダチ一生」......。主人公はこんな奴のせいで、一生もののダチを失ってしまうなんて!異性こそは友情の敵、かくもホモソーシャルの土台はモロいのだ!でもそれでいいんだよね。
忘れていた高校時代へと再び立ち戻った主人公は、青感動のシーンへとなだれ込んでいく。しかし絶叫する彼女を眺めながら私は、この人これからどうするんだろうと考えていた。男一瞬も経験した、ダチ一生も経験した。するとやはり、そこには友情と男、その彼岸に立っている岩井志麻子先生の姿がフラッシュバックするのだ。主人公はこの先、若い男を西へ東へ食いまくるしかない! ああ、やはりすべての女子は「ひとりでーれーガールズ」こと岩井志麻子を目指すべきなのだ! ぜひみなさんも本作を観て「全然そんな映画じゃなかったふざけんな」みたいなメールを、どしどし私に送ってほしい。
文=ターHELL穴トミヤ
あなたはどんな青春を過ごしていますか?
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『でーれーガールズ』
全国順次ロードショー
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