WEB SNIPER Cinema Review!!
豪華実力派キャストによるクライム・サスペンス
シカゴからロンドンに渡り、安アパートに暮らしている請負労働者トム(ジェームズ・フランコ)と小学校教師アナ(ケイト・ハドソン)の夫婦。政府の金融引き締め政策と外国人労働者への取り締まりによって経済的に困窮していく中、2人は、階下の住人が持ち主不明の大金を遺して死んでいるのを発見し、欲望に負けてその金に手を出してしまう――。2015年2月28日(土)全国公開
塗装やリフォームの仕事でくいつないでいる主人公(ジェームズ・フランコ)と、学校の教師をしている妻(ケイト・ハドソン)。ロンドンの片隅に移り住んできたつましいアメリカ人夫婦が、偶然大金を見つけてしまったのをきっかけに、ドツボにハマっていく。だけどあんたら素人のくせに結構やるじゃない、庶民に潜む底知れぬガッツに乾杯! という、そんな90分になっているのである。
本作、始まって最初の快感は「赤信号を無視して渡った人間が思い切り跳ね飛ばされるのが見たい!」という、庶民のささやかな願望が満たされていくドミノ展開。夫婦が偶然見つけた22万ポンドを前に、この金はヤバいかもしれないよと気づきつつ、これはしちゃいけないことだよね、と話し合いつつ、「今までマジメに生きてきて何を得た?何もない......」とか言って、結局着服しちゃう。お金を見つけたことを、警部補(トム・ウィルキンソン)に黙っちゃう。一時的に預かるだけとか納得しつつ、ローンさっそく払っちゃう。それでもう、こんな悪い子は罰されてほしい!ウンと酷い目に遭う姿が見たい!と思っていると、まずは地元のワルがやってくる。金を見つけた自宅の部屋がいつの間にか荒らされていて、「ああ、なんかヤバいこと起こっちゃってるな」というジェームズ・フランコのビビり顔にざまあ~!と思うわけです。小市民のくせに、欲かいちゃって!と、脳内物質「だからいわんこっちゃないパミン」がドパドパ出はじめる。
そこで事態を察知した警部補に「何かを隠しているなら、正直になる瞬間は今しかない」とまで言われるんだけど、ここでもジェームズ・フランコがしら切っちゃう。すると今度はナゾのフランス人(オマール・シー)から電話がかかかってくる。「リフォームの相談がしたい」とか高そうなレストランに呼び出されて、儲かりそうだな?とワクワクしていると、「俺の名前はチン・ギス・ハーンだ」とか言われちゃう。で、その暴虐の歴史とかを語りはじめて、もう意味分からないけど、レベルの違うヤバさ来ちゃった感が漂いはじめる。地元のワルのほうがまだマシだったかもみたいな恐怖が襲ってくる。
そこから夫婦はどんどんドツボにハマっていって、けっきょく警察に頼るのがこれまた庶民っぽくていいんですね。手に負えなくなったら警察!市民の基本です! しかしそれで済むわけもなく、生活がかかった夫婦、娘を失った過去を持つ警部、地元のワルに、なぞのフランス人マフィアまで巻き込んだ、四つ巴の泥沼が始まるわけです。
その過程で「どうする」とか相談しながら、いつまで経っても思春期みたいなジェームズ・フランコの顔と、すてきな奥様みたいなケイト・ハドソンの顔が、どんどん犯罪者ヅラになっていくのがおもしろい。で、「いよいよこりゃ腹くくらないといけないぞ」ってなると、妻のほうが結構やるじゃないみたいな、これは男と女のあるあるじゃないでしょうか。
それにしてもこの映画、大金を奪い合うつっても22万ポンドで、日本円で3500万円くらい。たしかに大金だけど、一生遊べる額でもないところからしてスケールが小さい。オマールの出現によって訳の分からない事態に巻き込まれていく感じも『悪の法則』(リドリー・スコット監督)っぽい、というほど深みもないし、そうやって戦っちゃう!?みたいな戦闘方法にも、っていうか『イコライザー』(アントワーン・フークア監督)の縮小コピーでしょと突っ込まざるを得ない。
つまりなにからなにまで庶民的なんですが、そんな本作のキーワードとなるのが、スシ・パーティなんですね。あとベトコン。もうこの映画はスシ・パーティ+ベトコンという、日常の庶民+戦時下の庶民の合体でできていると言っても過言ではない。スシ・パーティ、スシ・パーティ、ベトコンびっくり!、スシ・パーティと、こういう90分なのだと断言して差し支えない!
戦闘シーンのベトコン展開については観てのお楽しみ、ということにしてスシ・パーティとはなんなのか? それは、主人公夫婦の子づくりセックスの隠語なんですね。「今日はスシ・パーティよ!」「今日はスシ・パーティの日だったか!?」「スシ・パーティだから言い出せなかったんだ......」と、それが具体的にどんなものなのか、本当にスシ食ってるのかどうなのかさえ分からないんだけど、とにかく所帯じみてる。もうささやかなのは間違いない感が伝わってきて、それがいい! 80年代にLAでまきおこった最初のスシブームから30年。それが今やここまで彼らの生活に定着したのかと、感慨深くなりました。
海の向こうのショボさとこちらのショボさがスシで繋がる本作。観終わったあとは断然、半額セールのスシパック。ベトコン攻撃を反芻しつつ、カッパ巻きに舌づつみ、これこそ我らの「パーフェクト・プラン」! とこういうわけになっているのである。スーパーのレジでは「領収書をくれ、宛名はチン・ギス・ハーンだ」とか言って、店員をビビらせちゃおう!
文=ターHELL穴トミヤ
夫婦二人が挑む相手は、麻薬売人、警察、そしてフレンチマフィア。
四つ巴の危険な戦いを制するのは誰だ?!
『パーフェクト・プラン』
2015年2月28日(土)全国公開
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映画『パーフェクト・プラン』公式サイト
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