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エディンバラ国際映画祭クロージング作品 ティナール英国映画祭オープニング作品
ナチスによるロンドン空襲が激しさを増す第二次世界大戦中、人々にとって"命の水"であるウイスキーが枯渇してしまっていた時代に、スコットランドのエリスケイ島沖で大量のウイスキーを積んだ貨物船が座礁。その時、島民たちがとった行動とは。実話を基に描かれるユーモラスな物語。2月17日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
スコットランドを舞台にした映画の傑作といえば、離れ小島に派遣された都会の警官が、奇祭にまきこまれ神への生贄として燃やされる残虐カルト『ウィッカーマン』(ロビン・ハーディ監督)を思い浮かべるが、もちろん本作はあんな恐ろしい映画とはまったく違う、ほのぼのとしたハートフルムービーになっている。と思ったけど、やっぱ『ウィッカーマン』っぽい! 舞台となる島はどちらもスコットランドの僻地ヘブリディーズ諸島だし、狭い村の敬虔な普通の人たち怖いし、『ウィッカーマン』と『ウィスキーと2人の花嫁』は表裏一体。つまり本作を観ることで、逆に残虐カルト映画『ウィッカーマン』を「伝統や宗教を大切にする人たちのほのぼのムービー」として観直す視点も得られるのである。
時は第二次世界大戦まっただ中。『ダンケルク』(クリストファー・ノーラン監督)と同じ時期、同じ国とは思えないほどゆったりした時間が流れるこの島に、ある日悲劇がやってくる。配給のウィスキーが飲み尽くされてしまったのだ。村民たちは酒が飲みたくて無気力になり、じいさんは生きる気力を失う。そんな折、島の近くで貨物船が座礁した。救けだした船員たちに、積み荷を聞いてみると、ニューヨークに輸出するウィスキーが5万ケースだと言うではないか......。
というわけで村民たちの「ウィスキー頂き大作戦」が始まるのだが、島には本土から派遣されてきた一人で戦時下張り切り野郎こと、ワゲット大尉(エディ・イザード)がいた。彼は村民たちを大英帝国の民兵として鍛え上げる意欲に燃えており、このままでは海の藻屑になることが決まっているから飲めばいいじゃん!パーティーじゃん!な積み荷を前にしても、それは政府の資産を盗むことになり、持ち出すこと一切まかりならんといつもの張り切りっぷりを発揮する。主人公の郵便局長(グレゴール・フィッシャー)は酒をガンガン飲みたい村民一同代表として知恵を巡らせ、そこに一人で張り切り野郎ことワゲットの部下(ショーン・ビガースタッフ)が娘(ナオミ・バトリック)に求婚するというチャンスが巡ってきた。しかし娘を嫁にやるのはイヤ......などと悩む局長。一方、一人で張り切り野郎ことワゲットの差し金によって島には本土から政府の調査員が呼び寄せられる。さらにはどこからかやって来た正体不明の男まで加わって、一人で戦時下張り切りたい、結婚したい、酒飲みたい、正体不明の男が何かしたい、など映画はそれぞれの思惑が混ざり合ったドタバタ喜劇へと突入していく。
この物語が、第二次世界大戦中に実際に起きた事件を基にしているというのがさすがイギリスで、原作となる小説は47年に出版された。49年には『マダムと泥棒』などのアレクサンダー・マッケンドリック監督によって映画化され(当時大ヒットするも日本未公開)、今回はギリーズ・マッキノン監督による二度目の映画化だ。
もっとも印象的だったのは、積み荷がウィスキーだと判明し、村民たちが早速小舟で繰り出そうとすると、午前0時の鐘が鳴るシーン。牧師がやってきて、「安息日じゃ!」と叫ぶ。するとあんなに一刻を争っていた人々が、みんなすごすごと戻ってくるではないか。どうもこの村には、「安息日である日曜日には教会に行く以外何もしない」という鉄の掟があるらしい。日曜が明けるまでは、本土からきた謎の男がバイクを始動させようとしても「エンジンをかけちゃいけません!」といさめられるし、マザコン教師(『ダンケルク』にも出演しているジョージ・キャンベル)が作戦指令を受けようと受話器を取れば「電話を使うなんて!」と子供部屋に閉じ込められる。主人公にいたっては「俺は安息日に何かしたら、その瞬間心臓が止まると信じている」とまで言いだし、宗教は違えどその態度はもう『ウィッカーマン』に出てくる人々と一緒じゃないですか。でもこれくらい強烈な初期衝動があってからの、教会行くのやーめた、からの欧米における素晴らしき「休日の絶対優位性」があるのかと思えば、やはり日本の働き方改革にもキリスト教に匹敵する裏付けが必要だ!資本主義の力学に抗うには、人智を超えた神秘の力を借りないと無理なのだ!という示唆がここにはあるのではないだろうか。
盗んだウィスキーを巡って、追っ手と村民が狭い島の中を右往左往するコメディのイロハ押さえましたみたいな展開にワクワクしつつも、本作は音楽がダサかった。編集もモサったく、この映画はどの年齢層でも安心して楽しめる家族向け作品、イギリス版『ALWAYS 三丁目の夕日』(山崎貴監督)みたいな立ち位置なのだろう。だからこそ、そこにはイギリスの集合的無意識が映っていて、「酒好きの牧師」や「親の言うこと聞く気ゼロです姉妹」などは、日本人にとっての「酔っ払って道で寝る医者」や「気は短いが優しい父」と同じ、イギリス人が最大公約数的に安心する自画像になっている。中でも一人で戦時下張り切り野郎ことワゲット大尉の妻が印象的で、彼女は自分の家以外は全部植民地みたいな典型的本土のイギリス人として登場してくる。しかし「なんか物音が聞こえる!」と張り切りだした夫には「私の耳じゃ聞こえない」(=任務とかどうでもいいし、寝たい)と適度にいなすクールさも見せ、夫は夫、自分は自分と、決して一緒に張り切らない距離感をがおもしろい。家族学者エマニュエル・トッドによればイギリスは最も個人主義的な家族形態を持った国で、それがアレして、宗教的なアレとあいまって談義制民主主義を起こしつつ、世界最初の産業革命をアレした(詳しくは2018年春に文芸新書より刊行予定のエマニュエル・トッド著『我々はどこからきて、今どこにいるのか?』を参照のこと)らしいし、つまりはこの夫婦の距離感こそがイギリス精神の源泉なのでしょう!
さらにウィッカーマン気質ある島民たちによる「法律よりも村の掟」イズムには戦時下であれ政府なんぼのもんじゃいという独立自尊の感じがあり、これは間違いなくこないだのスコットランド独立投票にまでつながっている。犯罪者vs警察の戦いがなぜか王室のやらかしと、謎の力によって斜め上へと回収されて行く展開には、こちらも史実を基とした銀行強盗映画『バンク・ジョブ』(ロジャー・ドナルドソン監督)を連想させられ、イギリスというのはミクロでは夫婦・親子単位からマクロでは地方単位まで、とにかく互いに言うことを聞かない奴らの集まりなうえ、しかしひとたび利害が一致すれば、相手が権威だろうが国だろうがファックオフ!好き勝手やります!な一方、対する権威の執行者ボーイズはそんなんガンガン取り締まりますよ!と思ったら権威の源泉=王室が定期的にやらかしていて腰砕け~ッ!からの超法規的処置で今日も大英帝国は安泰!一件落着!じゃあ、酒飲みたい人~っ!(いきなり満場一致で)ハーイ!という国なんだなということがわかるわけです。イギリス人、その調子で引き続き頑張ってくれ!(ここでグラスをチーン)
文=ターHELL穴トミヤ
NYへ向かうはずの5万ケースものウイスの運命とは――
思いがけない落とし物が奏でる"結婚狂騒曲"!
『ウイスキーと2人の花嫁』
2月17日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
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