WEB SNIPER Cinema Review!!
第63回ベルリン国際映画祭主演女優賞を受賞!!
チリの首都、サンディエゴ。58歳になるキャリアウーマンのグロリア(パウリーナ・ガルシア)は、10年以上前に夫と離婚。子供たちもすでに独立させ、自由な暮らしを謳歌していた。ある日、ダンスホールで魅力的な年配の男性ロドルファ(セルヒオ・エルナンデス)と出会った彼女は、彼と一夜を共にする。二人はより親密な関係になりかけるが、ロドルファが今も元妻や娘たちの世話を焼いていることに我慢ならないグロリアは......。第86回アカデミー賞外国語映画部門チリ代表選出作品。2014年3月1日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、
ヒューマントラストシネマ有楽町にて全国順次公開
『グロリアの青春』って題なんだけど、ほんとに青春しちゃってんだよ! ここまで青春だとは思わなかったよ! けどそれはただ単に甘ずっぱいとか、あとさき考えないとかじゃなくて、苦しくて、寂しくて、自分を忘れたりして、ふと我にかえって「わたしこれからどうするんだろ」と考えたりして、しかしそんなグロリア(パウリーナ・ガルシア)は初老の入り口。娘と息子もいい歳になってて、「母ちゃん」と呼びたくなるような歳なのだが、やってることはもう女子大生なんだよ! クラブに男を探しにいき、寂しい時は適当な男とベロチューし、酒飲んで酔っぱらって、あー世界がぐるぐるしてるーとかやって、朝になったら荷物を全部なくしてる。けど初老のグロリアも自然にそのまま同居してるんだよ! これが両立できているのはすごい。
この映画にはすごくいいシーンが2つあって、1つめは道ばたでグロリアがながめる踊るガイコツ人形のシーン。人間は足だけが映っていて、真ん中であやつり人形の小さいガイコツがホネホネロックみたいのを踊ってる。このガイコツはよかったなー、すごくよかった。フィルムの感じも、動きも、曲もすべてがよかった。ストーリーと関係ないようである、このガイコツは人間以外の世界を代表している。この人形からもメッセージを受け取ることができる、グロリアはなにかを探している人間なんだ!
そして、もう一つはケンカのあと謝りにきたおっさん(セルヒオ・エルナンデス)をグロリアが許さないシーン。男が女に捨てられるのを観るのはなんと幸せなことだろう! おっさんは(こいつはグロリアの恋人なのだが)まず、言い訳をする、まるで子供のように、いきなりウディ・アレンみたいにどもりはじめながら、「ぼくは、体調も、悪かったのに......」。そしてグロリアが無視して車を発進させると、こんどは窓に手をついてうるんだ目で懇願! 懇願しながらも置き去りにされる。そんなおっさんを眺めるのはなんと幸せなことだろう! そしてグロリアもなにか、心は怒っていないけど、自分の傷つけられたプライドを守るためだけに、車を発進させていく。そこも大人じゃないって感じがしていい。そんなところが、グロリアの青春なんだ!
この映画、観終わってから思い出すのは、グロリアの顔の表情のクセだった。なんか「ああ、お母さんってああいうとき、いつもああいう表情するよね」って兄妹(観ている俺は子供という設定)で話し合いたくなるような、そんな表情をパウリーナ・ガルシアはしていた。それは、なにか感動した時とか、対象に心魅かれたときに、まるで感じやすい自分の心を自分で認めないように、守ろうとしてるかのように、私はそんな簡単じゃないのよと世界に向かって示そうとしているかのように、わざとあなどるような、値踏みするような表情をする。それがいいんだなー、それがグロリアなんだなー。
これは間違いなく恋愛映画なんだけど、主人公は初老。これがアメリカ映画だったら彼女が働いてるのは広告会社か出版社で、パソコンは絶対Mac(ソニー・ピクチャーズ製作だとVAIO)のところ、本作はDELLのダサいパソコン。仕事もよくわからないけど、華やかじゃないのは間違いなくて、地に足がついてるかんじで、さすがチリはひと味違う。
グロリアがケンカの仲直りのしるしとして彼氏と旅行するホテルも、またこれ微妙にショボい。チリにもここまで、「伊豆~に行くなら、どことやら」みたいな、バスつきパックで行く箱根1泊2日みたいなホテルがあったのか。ここまで世界のレジャーホテルって一緒なのかと感動した。
そしてこれは音楽の映画でもある。もう始まった瞬間から、ディスコミュージック! そしてジョルジオ・モロダーのアイ・フィール・ラブがかかる。それで踊る初老たちの群れを観ていると、なるほどこのデケデケベースは、垂れはじめた首筋にかかった真珠のネックレスに捧げられていたのかもしれないと思えてくる。それからボサノヴァ! それから車でいつも聴いてる歌謡ディスコ! その歌詞が子供にむかって拗ねているグロリアの心象風景をあらわしていて、いじらしい。
音楽だけでなく、音の描写もおもしろくてグロリアはときどきマリファナを吸う。グロリアが一服すると、必ずその変化が映画のなかに示されて、たとえば突然ベランダからカランコロン、カランコロンという音がきこえてくる。その敏感になった耳の琴線に直接ふれるような不思議な音色。はたまた別のときに一服すると、今度は庭の奥から何かの鳴き声がきこえてくる。その音をさぐりに明るい場所から離れて奥へと進んでいくワクワク。彼女が一服するたびに映画が視覚ではなく聴覚を中心に進みはじめて、そうなると人々のざわめきもまるで影絵のように、膜を隔てた響きに感じられてくる。
かと思えば正気のときでも、たとえば砂浜で目が覚めて、そこに日が射している。その暖かさと、砂の感触。青春してるグロリアの日常は、感触であふれているんだ!
この映画は家族映画でもある。家族っていうのは必ず離ればなれになるもので、離婚はさておき、死別、子供の独立、いろいろあるけど、その寂しさは誰も避けることができない。たとえば日本がほこる家族映画『東京物語』(小津安二郎監督)も、家族の離別を描いていて、そういえば『東京物語』と『グロリアの青春』は大枠も似てる。娘の家を久しぶりに訪ねてくるけど邪魔にされ、レジャーホテルに行くけれど、結局そこもしっくりこなくて......、なんてこれは古今東西、人類の黄金パターンなのかもしれない。
『東京物語』の笠智衆は妻との離別の寂しさをあんまり感じさせない。そのひたすらの笑顔が昔の日本人のリアルだったけど、それはカメラが映していないだけかもしれないし、この映画ではグロリアの寂しさをカメラが追っていく。『東京物語』と理由は違えど、本作で離ればなれになっていく娘をグロリアが見つめるシーンには、胸が締め付けられる。でもこれこそもっとも強烈な、グロリアの青春なんだ!
この映画を観ていると、世の中に居場所がなくて、それを見つけようと苦闘する、それこそが青春なんだと気づく。これは息子も娘も独立し、離婚して1人で生きているおばさんが、もういちど恋人を見つけるが、果たして......という物語。『グロリアの青春』は、すごくいい映画だ!
文=ターHELL穴トミヤ
結婚、子育て、離婚を経験した彼女の第二章。
そして人生は、もっと輝きだす――
『グロリアの青春』
2014年3月1日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、
ヒューマントラストシネマ有楽町にて全国順次公開
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『グロリアの青春』公式サイト
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