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WEB SNIPER Cinema Review!!
第27回東京国際映画祭でグランプリと最優秀監督賞をダブル受賞
ニューヨークの路上で刹那的な日々を送る19歳の少女ハーリーは、ホームレス仲間でもあるエキセントリックな恋人とドラッグへの依存でどうにか生きていた――。ストリートガールの破滅的な生き様を実話に基づいて描き出した衝撃作。

新宿シネマカリテほかにて全国順次公開中
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題名がちょっとダサい!でもおもしろい、そして新しい!始まった途端、ビニールのあぶくのような電子音が鳴り響き、若い男女が激しく抱きあっている。舞台はNY、主人公は路上生活者の女性で、粗暴で仲間内からもうとまれている男(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)に好意を抱いている。そいつはブラックメタル好きで、主人公をゴミのように扱うのだが、彼女はまとわりつくのをやめられない。ついには振り向いてもらうために手首まで切って、施設に収監されてしまう。

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主人公を演じているのは、アリエル・ホームズ。彼女は本作のジョシュア・サフディ監督に19歳の時に出会い、自らのホームレスとしての体験を書くように勧められた。そして完成した『Mad Love In New York City』が出版され、映画化され、つまり本作で演じている主人公は自分自身ということになる。
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彼女は収容された施設でも入居者ともめ、追い出されてしまう。その一連の流れはセリフ抜きですすみ、ここでも代わりに流れているのはプログレだ。本作ではしばしば人物のセリフよりBGMや、背後を行き交う車の音のほうが大きく聴こえ、それが意思よりも、環境や状況に左右されてしまう彼らの生活をより感じさせる。なにより新しかったのは、70年代のシンセプログレ、電子音楽を2010年代のNYの路上生活者の生活風景にぶつけてきたところで、たとえば冨田勲だと『ノストラダムスの大予言』(舛田利雄監督)とか『恐怖劇場アンバランス』(TVシリーズ)とか、SFもの、怪奇もののBGMというイメージがあった。ピヨーンとか、ゾロゾロゾロとか聴こえてくると、化け物が出てくるのかなとか、アウターゾーンにまぎれこんじゃったのかなとか思うんだけど、本作では、そこで不幸の予感が顔を出す。神経症、不安、焦燥感、疎外感、それこそが現代の妖怪で、観ている間じゅうフィリップ・K・ディックのSF小説のように現実に足のつかない感覚にとらわれる、そこに浮浪者の日常を感じるのだ。

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施設を追い出された主人公は、再び公園に舞い戻る。元彼とは一定の距離を置き、やがてヤクの売人(バディ・デュレス)と付き合い出し、仲間数人とよくわからないおばさんの家に居候を始めることになる。浮浪者たちはまるで部族のように公園を中心とした村社会を形成し、スターバックスのトイレ、マクドナルド、ダンキン・ドーナッツや、図書館のインターネットコーナーが、まるでバオバブの木陰や見晴らしの良い丘、水の湧く泉のように利用されている。路上の郵便物や薬局のエナジードリンクを、果実のように採集(窃盗)し、金に変えて、酒やドラッグやバスのチケットを買う。そこにはまったく違うレイヤーのNY、自然現象のような都市が拡がっていて、浮浪者でない通行人たちは黒い影で表現されているモブのように、まったく関係のない存在に見える。
出てくる浮浪者は総じてしゃべり方のピッチが遅く、滑舌もしっかりしてない。貰って当然という妙な押し付けがましさと、微妙に筋が通っているような論理性、同じ話を何度も繰り返す話法と、最初からある程度諦めているような素直さに、いつかの旅先で出会ったホームレスを思い出した。

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ああそして、この映画はいつも光が弱い。早朝すぎるのか、曇っているのか、淡い光しか画面になくて、いかにも覇気がでない。それでもどこかスタイリッシュなのは、プロデューサーにハーモニーコリンの製作を数多く行なっているシャルル=マリー・アントニオーズや、『フランシス・ハ』の製作をしていたオスカー・ボイサン、ジム・ジャームッシュの『ブロークン・フラワーズ』の製作をしたセバスチャン・ベア・マクラードらが名を連ねているからだろうか。本作も『フランシス・ハ』も同じ、現代のNYを舞台とした若き女性の物語。しかしここまで違う景色になるのが、おもしろい。

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鮮烈だったのは、ヤクの売人が道を歩きながら愚にもつかない自慢話をしているシーン。まるでドキュメンタリーフィルムのように淡々と続くその繰り言のバックに、冨田勲の「月の光」が流れてくる。もし彼が家を持ち、社会とつながりを持った生活をするようになれば、この現在をすべて夢だったのだと思い出すだろう。その夢の中を生きている状況が、この曲で見事に表わされていた。または、家も手に入れ一旦は安定に向かった主人公が、再び転落し始める。そのどん底で、車道の中央分離帯を歩きながら、聴こえてくる冒頭と同じビニールのあぶくのような旋律。ああ、またこの感じが襲ってきた、この見覚えのある展開がおそってきたという、あらがいのない不幸への予感としての音楽。観客はなんども、プログレによって現実が意志から引き剥がされ、夢から覚めない疲弊へとひきずりこまれる。そして一瞬のきらめきのように公園で盛り上がるパーティーと、そこでかかる諦めた者たちの興奮としてのハードスタイル(ハードコア、ガバの一種)。本作は音楽の使い方が抜群だった、強烈な映画だ。

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文=ターHELL穴トミヤ

NYのストリートで生きる少女の実体験に基づいた、
鮮烈な今、この瞬間――


『神様なんかくそくらえ』
新宿シネマカリテほかにて全国順次公開中


原題=Heaven Knows What
監督・脚本・編集=ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ
原案=アリエル・ホームズ『マッド・ラブ・イン・ニューヨークシティ』
出演=アリエル・ホームズ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、バディ・デュレス、ロン・ブラウンスタイン a.k.a. Necro
音楽=冨田勲、アリエル・ピンク、タンジェリン・ドリーム、ヘッドハンターズ

配給=トランスフォーマー

2014年│アメリカ、フランス│英語│97分│カラー

関連リンク

映画『神様なんかくそくらえ』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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