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『カンダハール』の巨匠モフセン・マフマルバフ最高傑作
独裁政権が支配する国。大統領は多くの罪なき国民を政権維持のために処刑してきた冷酷で無慈悲な男だった。しかしある晩、クーデターが勃発。彼は全国民から追われる賞金首となって 小さな孫と共に逃亡を余儀なくされる。2人は安全な地へ逃れるべく、船の待つ海を目指すが......。

12月12日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町にて全国公開
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王様は心優しい孫のおかげで、暴君であることをやめ、賢い王になりましたとさ、めでたしめでたし式の話かと思っていたら、甘くない。チラシに使われている子供の顔がかわいいし、独裁者の格好も制服が絵本に出てきそうなデザインだから「おとぎ話」のつもりで観ていると、やがてエグい展開がやってくる。
監督は『パンと植木鉢』『カンダハール』のモフセン・マフマルバフ監督。イラン出身で、十代の頃に政治結社のリーダーとして警官を4回刺し、投獄され、イラン革命で釈放されて映画監督になるが、その後映画製作を禁じられてイランを出国、そのまま亡命して、こんどはイラン政府から過去4回暗殺未遂にあっているという人物だ。



どこかの国の王宮で、見るからに独裁者ファッションな老人(ミシャ・ゴミアシュウィリ)が、政治犯の死刑執行命令を出しながら、孫(ダチ・オルウェラシュウィリ)をあやしている。おもちゃと権力の区別がつかない孫に受話器を渡し、彼が「街の灯を消せ!」というと、眼下の首都は暗闇になる。「灯をつけろ!」といえばまた明かりがつく。何チューわかりやすい絶対権力!しかしやがてクーデターが勃発し、二人は宮殿を追われることになる。
このクーデターの発生を、ポスターで表わす演出は少しあざとい感もあるけど、映像的でおもしろい。大統領の顔が町中に貼ってあり、しかしそれがある区画に近づくにつれ、破られ始める。さらに進んでいくとついには燃やされていて、その先で騒乱が起きているのだ。失脚した二人が最初に逃げる景色は、茫洋とした荒野に雪が積もり、セメント作りの家が点在している不思議な場所。撮影はグルジアで行なわれたのだが、ヨーロッパでも、アラブでもない雰囲気が、この映画に具体的などこかではない、おとぎ話感を与えている。
ラジオからは革命政府による「大統領狩り」の布告が流れ、遠くからは捜索のヘリコプターの音が聞こえてくる。旅芸人のふりをして海を目指す彼らは、その過程で国民の怨嗟の声を聞きつづけ、このロードムービーは独裁者が自分の因果の中を移動する、「地獄めぐりの旅」なのだという趣向が明らかになってくる。



暴君といえど孫をあやす姿はただのおじいちゃん、という和みムードで進行していく映画は、革命軍の検問に行き当たるところでガラッと変わる。兵士が通りかかった結婚式の車をとめ、花嫁を強姦する。夜道を走る車は、道に散乱する死体を踏んでごとごと揺れ出す。川には死体が流れ、孫の眼の前ではどこかの家族が兵士によって皆殺しにされる。この映画が描いているのは独裁の醜さではなく、それを倒してもまた次から次へとあぶくのように湧きあがってくる、武器を持った人間の傲慢さだ。その不愉快さを、たとえば橋を渡るときに、命令され、男女別に分けられ、並ばされ、許可がいる演出から感じる。アラブの春のあとに起こっていることが、この映画を観ると肌で伝わってくる。

途中で釈放された政治犯と一緒になるのだが、髪の毛を刈られ、灰色の毛布に包まれた彼らのビジュアルは、呪われた修道僧のようでおもしろい。ひとりは大統領を見つけたら必ず殺すといい、ひとりはあいつと同じレベルに堕ちてどうするとさとす。大統領と孫はそれをだまって聞きながら一緒に移動する。その政治犯の一人が愛する妻のもとに久しぶりに帰っていくエピソードは、映画の中の映画という感じで、政治を超えた人生の悲哀を感じさせるいいシーンだった。この政治犯の一人(グジャ・ブルデュリ)が、さすらいの歌を歌う。この声が粗布みたいな、すげー歌で本作は彼に限らず、ところどころで入ってくる音楽が素晴らしい。足を拷問でつぶされた囚人もおり、モフセン・マフマルバフ監督が自伝で「最も辛い」拷問としてあげていた、足の裏へのパイプによる殴打を思い出した。




『イングロリアス・バスターズ』とか『ジャンゴ 繋がれざる者』とか、悪い奴をぶっ殺して世界が平和になる映画ならすっきりして良いのに、この映画は全然すっきりしない。イラクでフセインを殺しても、リビアでカダフィ大佐を殺しても、国民がそのあと全然幸せになっていない、そんな現実がこの映画にも写し取られている。じゃあどうすりゃいいのか! そこで暴力で復讐をすれば、暴力が止まらなくなる。だから復讐をやめるんだっていう人が出てくるんだけど、彼をはるかに上回る、家族を殺された人たちの群れとなった怒りを見るに、そんなのムリ感もかなりある。しかし、本作には一度だけ、心の中で行なわれる復讐のシーンが出てきた。私はそこで、蛭子能収さんを思い出す。彼はインタビューで「ムカつく人に会ったら、マンガの中に出して殺すんです」と語っていた......。心の中で復讐し、フィクションでそれを吐き出す。この映画の歌がすばらしいのも、復讐や悲しみを歌の中に押し込めた人が歌っているからなのではないか......。蛭子さんにこそアラブの救われる道が潜んでいるのではないか......。やっぱムリか......。



文=ターHELL穴トミヤ

逃亡の果てに、希望はあるのか――
世界が心を震わせた衝撃の結末、感動の誕生


『独裁者と小さな孫』
12月12日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町にて全国公開


原題=The President
監督= モフセン・マフマルバフ
脚本= モフセン・マフマルバフ、マルズィエ・メシュキニ
出演= ミシャ・ゴミアシュウィリ、ダチ・オルウェラシュウィリ、他

配給=シンカ
提供=シンカ 朝日新聞社
宣伝=オデュッセイア・ブラウニー
後援=ジョージア大使館

2014年│ジョージア=フランス=イギリス=ドイツ│ジョージア語│カラー│ビスタ│デジタル│119分

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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