WEB SNIPER Cinema Review!!
つまらないオトナにはなりたくない。
佐野元春27歳。1983年、中野サンプラザでのライヴ映像。まだMTVもミュージック・クリップもほとんどどなかった時代に制作された、本格的ロック・ドキュメンタリー・フィルム。2013年9月7日(土)より全国ロードショー
実は、筆者は30年前の上映を見に行っている。7月18日の中野サンプラザホール。筆者は高校1年生で、当日風邪を引いて発熱し学校を休んでいたのだが、どうしても見たくて、こっそりと家を抜けだして駆けつけた。当然、その後、親にはこっぴどく叱られたのだが、映画の興奮でもうそれどころじゃなかった。
佐野元春との出会いは、1982年の大滝詠一、杉真理との共同アルバム「ナイアガラ・トライアングルVol.2」だった。前年の「ロング・バケイション」で大滝詠一に熱中した筆者は、ごく自然に「ナイアガラ・トライアングルVol.2」を手にして、そこで佐野元春のロックンロールに出会った。そして、その年に埼玉会館でのコンサートに足を運んだ。初めて体験するロック・コンサートだった。
テレビなどでロックバンドのコンサートはどういう物なのかは知っていたが、生で見たその迫力は、中学生の想像を遥かに超えていた。
いや、今回この「Film No Damege」を改めて見て、当時の佐野元春と彼のバンド、ザ・ハートランドのパフォーマンスの凄さを再確認した。その後の30年間に筆者も数えきれないほどのライブ・パフォーマンスを体験してきたのだが、それらと比べてもこの時期の佐野元春&ザ・ハートランドは群を抜いてかっこよかった。
このライブが初体験だった自分は本当に幸せだったと思うのだ。
というか、佐野元春がロックンロールへの入り口だったことが幸せだったと思う。彼のラジオ番組や、インタビューや文章などを通して、その背後に広がっているロックの歴史やカルチャーを知ることが出来た。全ての文化は繋がっているのだと教えてくれた。佐野元春をきっかけに10代の筆者は、60年代のロックンロールや文学、映画をさかのぼって学び、楽しむことを覚えた。それらは全て血となり肉となって、今の自分を形作っている。
正直なことを言うと、「Film No Damege」を見るのは、ちょっと怖かった。自分の一番、多感な時期を振り返ることになるからだ。
佐野元春は、この後、ニューヨークに渡って、さらに音楽的な幅を広げ、そして現在に至るまで現役のミュージシャンとして活躍を続けている。佐野元春はいつでもかっこいい。佐野元春のファンであったことが恥ずかしかったことはない(本当は、あまりにもスタイル・カウンシルの丸パクリとしか言えない「カフェ・ボヘミア」の時期だけは、ちょっと引いたのだが......)。その後のアルバムもずっと愛聴している。
しかし、初期三枚のアルバムだけは、今はなんとなく聴くことに抵抗がある。一番、聴きこんでいた時期のアルバムなのに。いや、それだから、だ。あまりにハマっていたため、当時の自分を生々しく思い出してしまって、どうにも気恥ずかしいのだ。
そして、45歳になり、なおかつ当時の自分と同じくらいの子供の親という身になって、「Film No Damege」を見た。
見ている間、びっくりするくらいに素直に当時の自分、16歳の自分に戻っていた。
あの時期の佐野元春を象徴するフレーズである「つまらない大人にはなりたくない」(「ガラスのジェネレーション」)も、少年の気持ちそのままで聴くことが出来た。
上映が終わり、45歳の自分に戻ってから、もう一度あのフレーズを反芻する。16歳の自分に尋ねてみたくなる。
おれは、つまらない大人にならないで済んだかな?
自分語りの過剰な文章は、あまり好きではないのだけれど、この映画について書くとなると、もうそこを避けることは出来なかった。だって、この映画の冒頭で、佐野元春が朝にトランクス一丁で目覚めるシーンを見て、かっこいい!と思って自分もそれまでのブリーフを止めてトランクスを履くようになったくらいなのだ。それくらい佐野元春にかぶれてたんだから。
それにしても、全くパフォーマンスが色褪せて見えなかったのには驚いた。少しも古臭くないのだ。自分などは、どうしてもノスタルジー抜きに見ることは出来ないのだけれど、当時を知らない世代が見ても、絶対にかっこいいと思うだろう。
自分の子供にも見せてみようかな、と密かに考えている。
文=安田理央
佐野元春「Film No Damage」インタビュー #1
佐野元春『Film No Damage』
2013年9月7日(土)より全国ロードショー
関連リンク
映画 佐野元春『Film No Damage』 公式サイト
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