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世界に名だたる4人の巨匠が語る、鮮やかな"ポルトガル発祥の地"の記憶
ポルトガル王国が成立してから870年。古都ギマランイスを題材に、アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラというヨーロッパ映画界を代表する4人の巨匠が競作したオムニバス作品。それぞれの視点から描かれる世界屈指の歴史的名所、その独創的な景色とは......。9月14日よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開
ポルトガル発祥の地とされている歴史的都市、ギマランイス。その旧市街地部分を舞台とした、4つの掌編が誕生した。監督を引き受けたのは、アキ・カウリスマキ! ペドロ・コスタ! ビクトル・エリセ! マノエル・ド・オリヴェイラ! 目もくらむようなヨーロッパ屈指の監督たちばかりなのだが、これは欧州文化首都(EU加盟国の中から一都市を毎年選び、そこを1年間推しまくるというもの。2012年はこのギマランイスが選ばれた)という文化事業の一環で実現した企画らしい。さすがEU! 文化首都アツい! ASEAN+3でもやるべき! 本作はまさにオール・ヨーロッパ・バックアップで誕生した珠玉の一品なのである!
といいたいところなんだけど、みんな相当、適当に撮ってないスか。どれもメモ帳の走書きのような、スケッチのような作品なのである!
まず始まるのは、ギラマンイス市街を舞台にあるバー店主の1日を描く、アキ・カウリスマキ監督「バーテンダー」。短編とはいえ、カウリスマキ節が隅々に漂う本作の主人公を演じているのは、『街のあかり』『ル・アーヴルの靴みがき』のイルッカ・コイヴラ。振り返ってみれば、本作が一番よかったですね。
朝シャッターを開け、イスを整えるところから始まり、ノリの効いたテーブルクロス(ただし屋内は紙)を用意、スープを作り、客を待つ。そして夜仕事が終われば、スーツに散髪、革靴を磨き、バラの花束を用意して、女性を迎えにいく。いつもの「美学」と、時代に取り残された「哀愁」を味わいつつ、この映画あっけなく終わっちゃうんだよなー。オチなしというか、本当に「アキ・カウリスマキ世界の、ある1日」という感じ。
それでもこの映画に出てくるバーの流行らなさ描写には笑えてくる。ワインだかウィスキーだかを入れるコップもいかにもまずそうで、というかあれは日本の定食屋の湯飲みなんじゃねえか? スープを作ってる鍋もなんかラーメン屋の寸胴みたいだし、観てると「町で適当な中華屋に入ったらベチャベチャのチャーハンが出てきた」ときの気分がよみがえってくるのだ。はたしてアキ・カウリスマキなら、日本の定食屋を参考にしたというのもあり得る話ではないか! ひさびさに浮浪者がたくさん出てくるのもうれしい。彼らの負け犬顔! それを眺めているだけで心がホッとする。
続く「スウィート・エクソシスト」、監督のペドロ・コスタはポルトガル映画界の異才だ。昔、『ヴァンダの部屋』を観に行ってあまりの退屈さに発狂しそうになったのを思い出した。アレは地獄だった......、予告編をみて「おもしろそう!」と思って観に行ったら、本編3時間、セリフなしでずっと咳。なんという芸術感! 予告編で少ないとはいえボソボソしゃべっていたから安心して観に行ったのに、その予告編にある分だけでこの映画の全セリフだったんだよ! 両側に客がいたため途中退場もできず、前の日たっぷり寝ていたので居眠りもできず、生まれて初めて映画館で発狂しそうになった......。それをまざまざと思い出した本作、ペドロ・コスタに長い短いは関係ない! 短くても芸術に頭が爆発しそうになる、まさに時を超越した監督だといえるだろう。
主人公は精神病院のパジャマを着た(らしき)黒人男性。監督が「ギマランイスをテーマにしたプロジェクトだったので、私はなるべくギマランイスで撮影したくないと思い(笑)」と述べる本作は、エレベーターの中だけですすむ革新的なつくりになっている。そこで精神病院のパジャマを着た(らしき)主人公と、その幻覚である革命軍兵士が、1974年のカーネーション革命について語り合う。なんという芸術感! この兵士は普段、街角で観光客相手に動かない芸をしている人らしい。まったくもって刺激的で豊穣な時間を過ごしてしまった。
その次はビクトル・エリセ監督のドキュメンタリー「割れたガラス」。ポルトガル映画を撮るためのテストフィルムという副題がついた本作は、ギラマンイス近郊のリオ・ヴィセラにある工場の廃墟が舞台。20世紀初頭にはヨーロッパで第2の規模を誇ったというその紡績繊維工場だったが、アジアの波に押され2002年に閉鎖。20世紀初頭か19世紀だろうか、大勢の労働者たちが食堂で食事をとっている、その巨大な集合写真を前に、過去この工場で働いていた人たちが思い出を語る。
同じ工場でも、ある人には苦渋に彩られた記憶となり、ある人には自由を与えてくれるものに、またある人には子育ての記憶となる。おもしろいのは、彼らがカメラに背を向け、写真に向かって語りかける場面。彼らよりさらに前の世代、まさに「産業革命と労働者」といった赴きのその写真を前にして、明らかになるのは歴史ではなく、やはりそれぞれの人生観だった。さらには役者、音楽家なども登場し、ドキュメンタリーは虚実一体の段階へと突入していく。45年間で長編を3本しか撮っていないビクトル・エリセ監督だけに、この「テストフィルム」を経て実際にポルトガル映画が誕生するのは、21世紀中頃だろうか。今から完成が待ちきれない。
最後は、2006年に世界最高齢で『夜顔』(ルイス・ブニュエル『昼顔』の自称続編)を監督して世界を驚かせたマノエル・ド・オリヴェイラの「征服者、征服さる」。本作撮影時点で104歳という脅威のポルトガル人の短編は、グラサンのイケメン添乗員(オリヴェイラ監督の孫)が率いる観光客の一団が、ポルトガル建国の父、偉大な征服者アフォンソ・エンリケスの彫像の写真を撮りまくるというもの。
移動する観光客たちはひとつの雲のようで、とてもコミカル。オチの軽さにはびっくりで、この脱力感こそ100歳を超えても映画を撮り続ける秘訣にちがいない! 最後のグレン・グールドの曲を聴きながら、「というわけでした、メデタシメデタシ」と独り言を付け足したくなる、老人の冗談というか、孫を寝せるための小話のような1本なのでした。
この企画、Asean+3でやったらどうなるのだろうか。中韓日タイとかで、アピチャートポン監督が中国の古都で、日本のご当地ゆるキャラの異常連続殺人事件ものを撮るとか......。ぜひやるべきでしょう!
文=ターHELL穴トミヤ
スタイルもトーンもまったく異なる独創的な4つの作品
『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』
9月14日よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開
関連リンク
映画『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』公式サイト
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