WEB SNIPER Cinema Review!!
新しいアニメーションフェスティバル「GEORAMA」が始まる!
2015年秋にスタートする「GEORAMA」は、短編・長編のコンペティション上映の他、「アニメーション」の概念を広げる様々な特別上映・イベントが催される新しいアニメーションフェスティバル。そのプレ映画祭と位置づけられる「GEORAMA2014」より、国内未発表の長編『マイ・ドッグ・チューリップ』『アロイス・ネーベル』の2作品を取り上げ、ターHELL穴トミヤ氏がレビューします!「吉祥寺バウスシアター クロージング企画 GEORAMA2014」
2014年4月12日(土)~25日(金) 吉祥寺バウスシアターにて公開
ラインナップを眺めてみるに、やっぱり1番気になるのはミシェル・ゴンドリーのアニメ作品、『背の高い男は幸せ?』。見た目からしてなんか、サイケデリックな色味に、ふしぎな図柄。しかも内容は「言語・社会学者のノーム・チョムスキーの思考のアニメ化」だっていうんだから気になるじゃないの! しかしこの作品は試写でみせてもらえなかったというわけ。でもミシェル・ゴンドリーの映画なら、女の子にたいする訴求力も高いはずだ(「ほらあのビョークのPVの人、行こうよ!」)。俺は試写で観なくてよかったね! 夜遅い時間だから、終わってからの股間同士をチョムスキーも狙いたいね! だから、うんとエロい内容だといいなと期待している。
というわけで今回は、長編2作『マイ・ドッグ・チューリップ』と『アロイス・ネーベル』のレビューをお届けする。
『マイ・ドッグ・チューリップ』は2009年製作、アメリカの作品(ポール&サンドラ・フィエリンガー監督)。原作はイギリスの文学者J・R・アッカーリーの小説で、始まりの一文はこんな感じ。「他人を愛することができない英国人は、自然と犬を愛するようになる」。そこからは想像通り! ひねた英国老人と、その唯一の理解者、メスのジャーマン・シェパード「チューリップ」の犬日記がつづられる。
絵柄は半透明カラフル、えんぴつの下書きに、アクリル絵具で着色したイラストレーションのよう(実際は紙をまったく使っていないと最後に出ていたけど)。主人公は「生涯ついに真の友はひとりもできなかった」とか言っていて、他人への興味は限りなく低い。それは作画にもあらわれていて、出てくる人間は「目」がちゃんと描かれていないことが多い。すると、観ていてどうでもいい感が増すんですね! さらに人間たちは習性別に描かれていて、どうもみんなダックス医者種とか、ブル恰幅いい紳士種みたいに、姿は人間なんだけど行動で動物化されているようにみえる。逆に犬はひんぱんに擬人化されて、これがユーモラスで、洒脱なイキフンなわけです。
この映画が真の犬好きによる物語なのはまちがいなくて、なにしろ圧倒的にクソの話が多い。クソクソクソ、クソの世話! でもこれこそ真実、むしろ犬に本気な感じが伝わってくる。しかしこのおっさん、道でクソさせてもそのままにしていて、そもそもスコップと袋とか持ち歩いてないんだよ。イギリスではこれでOKなのかとちょっとおどろいたんだけど、あとで調べたら原作は初版が1956年だった。ときどき通行人にののしられてたけど、たしかにこの時代ならペットのクソ罰金もなさそうだ。映画を観てもそんな時代の話だって全く気づかなかったのは、「ペットと心の交流を図り、むしろ自分が変わっていく」っていう図式がすごいモダンなものだから、逆に言えば原作はかなり進歩的な小説だったというわけ(トルーマン・カポーティなんかもほめてる)。
後半はこのチューリップに彼氏を見つけてあげたい、一発やらせてあげたいという親心から、相手を捜す苦労話になる。これがまたなかなか生々しくて、発情期になると股間から血が転々と道に落ちていく。するとその匂いに誘われて街中のオス犬が、チューリップの行く先々に殺到してくる! 手頃なオスを飼っている家にチューリップを連れてたずねて行き、2匹を庭に残して家の中からうかがう。そのとき、その家の奥さんが台所で作業してる音だけが聞こえてくる、これがまた思い出っぽくていいんだな。
というわけで、犬好きにはたまらない物語なのでした!でしめればいいんだろうけど、俺はいつもイギリス人の犬好きには半分薄気味悪いものを感じる。犬からの全面的な愛、奉仕、そして服従をたのしむイギリス人! 絶対、植民地支配の名残だと思う。だから俺は犬好きのイギリス人は信用しない、信用できるのは猫好きのイギリス人と、鬱病のイギリス人だけだ! (たださらに付け加えると、この原作のJ・R・アッカーリーは同性愛者でもあった。そうすると『他人を愛することができない英国人は......』から始まるこの映画の世界もガラッとちがってみえてくるかもしれない。ただ本作にそんな話はちらっとも出てこない)。
お次の『アロイス・ネーベル』は2011年製作、チェコのアニメーション(トマシュ・ルナク監督)。全篇白黒で、映画が始まるとまず画面のむこうから、ライトを照らした汽車が走ってくる。その明かりで手前のレールが闇に浮かび上がる、さらに煙突から吹き出る蒸気が美しい! フリーハンド感あふれる『マイ・ドッグ~』とは対照的なこの緻密で重厚なタッチは、実写を撮影してからそれをトレースしてアニメにする「ロトスコープ」という手法で作られている。原作はチェコのコミックス。印刷された黒のベタ感はそのまま、白い部分だけが光になった、そんな感じの映画だ。
主人公は小さな田舎の駅員、彼には過去に抱えた重大なトラウマがあって、それがもとで仕事をクビになってしまう。浮浪者、娼婦、秘密警察、密売屋なんかが入り乱れて、ナチス時代からつづく家族の秘密がひもとかれていく。
軍人が武器や物資をガンガン横流していたり、秘密警察がばりばり幅をきかしてるあたりは、さすが「いよっ共産圏!」「旧ソ連!」とかけ声をかけたくなるノワール具合。後半、主人公がプラハ中央駅で迎える宿無しのクリスマスのシーンなんかは、アキ・カウリスマキ映画を彷彿とさせる、わびしいなかにまたたくラジオの光のような幸福感がある。さらに主人公が鉄道員なだけあり、これは鉄道ムービーでもある。汽車の愛称なんかも出てきて、単線で駅から自宅へと移動する鉄道員、これは鉄ちゃんにもたまらないはずだ! 当日の場内には、鉄ちゃん、かわいいチェコアニメを期待した乙女、ガチガチの共産党員が三つどもえでそろって、カオスな状態になること五カ年計画よりもまちがいない未来なのである。
というわけで2本を紹介したが、この映画祭で公開される未公開長編アニメーションは全部で7本ある(他にも短編や、日本人作家の作品が公開される)。この2本だけを観ても、まあ見た目も、内容も、ノリも、言語も全てがちがっていて、さらにたとえば『マイ・ドッグ・チューリップ』では演技してない人間はぴたっと止まっている。アニメは描かなきゃ動かないから、まあ当たり前なんだけど、実写の映画では、人物は演技してないときでも、生身の人間だからなんかしらつねに動いている。だから、人物が静止してるとすごい目立つわけ(もちろんそこが味でもある)! ところが『アロイス・ネーベル』には、違和感がない。そこでよくみると、画面に映ってる人間がみんな、演技してなくても肩とか腕とか動かされてるってことに気づいちゃう。つまり自然にみせるために、不自然なことをやっていた。こうやって見比べることでアニメーションというものが立体的に自分の中に入ってくる。これぞ、映画祭の醍醐味でしょう。
さて、俺はそろそろミシェル・ゴンドリーに備えて、Twitterで「GEORAMA2014」「ビョーク」「ミシェル・ゴンドリー」で検索して、手当り次第に女の子に話しかけるという作業をしなきゃならない。ここらへんで失礼します(俺っぽい人に突然話しかけられてもスパム報告だけは勘弁してくれ!)。
文=ターHELL穴トミヤ
『マイ・ドッグ・チューリップ』
(「国内未公開長編アニメーションショーケース」より)
『アロイス・ネーベル』(「国内未公開長編アニメーションショーケース」より)
■GEORAMA2014は、6月18日~20日に山口情報芸術センター、7月18日~25日に神戸 アートビレッジセンターでも開催されます!!
関連リンク
『GEORAMA』公式サイト
『吉祥寺バウスシアター』公式サイト
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