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WEB SNIPER Cinema Review!!
政府と製薬会社に一 人戦いを挑んだ男の感動の実話
1985年、電気工でカウボーイのロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)はHIV陽性と診断され、余命30日の宣告を受ける。しかしアメリカには承認されている治療薬が少ないため、代替薬を求めてメキシコへ。そこで薬の密輸を思いついた彼は、同じくエイズ患者であるトランスセクシュアルのレイヨン(ジャレッド・レト)と共に国内未承認の薬を売る「ダラス・バイヤーズクラブ」を設立するが......。

全国公開中
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『アメリカン・ハッスル』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』そして『ダラス・バイヤーズクラブ』。最近立て続けに公開されたアメリカの話題作に共通するもの、それはコカインだ! どいつもこいつもコカイン吸って、もうそれなしじゃ男の人生は始まらないとでもいうような勢い。アメリカ映画の主人公はなぜコカインを吸うのか? ここには「言われたことを守らない奴こそ、信用に値する」というアメリカ人のロマンがある。なにしろ言われたことを守っていたら、アメリカは今でもイギリスの植民地だったかもしれないのだ。独立戦争はイギリスから押し付けられた課税法の拒否から始まった。建国からゆるやかにつながる、「無法者こそ、真のアメリカ人」という倒錯の神話が、そこには息づいているのである。
それにしてもディカプリオはちょっと吸いすぎだった。それで2014年度アカデミー賞主演男優賞は、いい頃合いでコカインをやめる『ダラス・バイヤーズクラブ』のマシュー・マコノヒーが選ばれたというわけだ。

本作の主人公は、違法賭博で金を集め、負けたらそのまま逃げ出したりするろくでなし。監督は『ヴィクトリア女王 世紀の愛』のジャン=マルク・ヴァレだ。『ヴィクトリア~』の主人公はかわいいエミリー・ブラント演じるイギリス女王だった。そこから激やせマシュー・マコノヒー演じるホワイト・トラッシュとはえらい変わりようだが、どちらも強大な敵へと戦いを挑んだ人間の、実話をもとにした物語。『ヴィクトリア~』の敵はイギリス王宮、本作の主人公はHIVとアメリカ政府に戦いをいどむ。

(C)2013 Dallas Buyers Club, LLC. All Rights Reserved.

冒頭、主人公は酒場で同じような仲間たちと、エイズになったハリウッド俳優について話している。この会話だけで彼が「エイズに対して無知」であり、さらに「ゲイを差別している」ことが分かる。ところがそんな男がHIVに感染してしまった!というのがフックとなり、本作を引っぱっていく。はたしてこの救いがたい男が、どう変わっていくのか? 仲間から「ホモ野郎」とつまはじきにされた彼は、生き残るために独自の道を探りはじめる。病院のスタッフから闇で新薬を入手し、それも難しくなるとこんどはメキシコに渡り、無免許医師に治療を頼みこむ。
ところが本作、ここで意外な展開がまっていた。主人公がアメリカで必死に手に入れていた薬の名を告げると、「そんなもの使ってたら死ぬぞ」と言われてしまうのだ。メキシコでやっと出会った新薬も、アメリカに戻れば未承認のため入手できなくなってしまうという。なんと、アメリカは閉ざされたエイズ治療後進国だった! 普通なら絶望しそうな状況を前にして、しかしここで無法者ならではの発想が花開く。だったら、むしろ金になる!
続く帰国シーン、トランクに未承認薬を満載して税関を通過するのは、牧師姿のマコノヒー。主人公が本気になった!=密輸=格好が牧師になります、というこの何重もの倒錯こそ食えない男の本領発揮。ところが商売はあまくない、飛び込みで薬を売りあるくマコノヒーを前に人々は首を横に振るばかり。そこにジャレッド・レト演じる(本作でアカデミー助演男優賞受賞)、以前病室が一緒だったゲイのドラァグクイーンが登場する。彼には、未承認薬を必要としている人たちへのコネがあった。かくしてエイズ差別主義者でゲイ差別主義者だった男が、エイズになり、さらにはドラァグクイーンと手を組むという、本作の見事な宙返りが完成する。
彼らの商売は大盛況。アメリカ政府の真摯でない態度を前に、マコノヒーはボストン茶会事件のお茶っ葉もかくやという勢いで、未承認薬をバラまきまくる。しかし、政府も彼をつぶしにかかり......と映画はつづいていく。主人公の窮地に立ち上がるジャレッド・レト一世一代の化粧シーンは、アカデミー・メイク・ヘアスタイリング賞にも輝いた。

はじめの頃こそHIV治療薬とコカインを一緒にやっていた主人公だが、メキシコからか戻ったあとはすっかりやめている。彼がコカインをやめられるのはなぜなのか。それはもちろん、「コカインをやれば免疫力が下がり、延命の邪魔になる」からだし、人生の目的を手に入れて「現実逃避がいらなくなった」というのもあるだろう。メキシコから戻った彼は、スーパーの加工食品すら添加物を気にして避けるようになっている。見た目はテキサス・カウボーイのままだが、その中身は90年代ベイエリア・ロハス先取り自然食品男なのだ、そんな彼にコカインは似合わない。
しかし「アメリカ人無法者ときめきメソッド」でいえば、彼のそれは映画の「言われたことを守らない」レベルがあがったからにほかならない。未承認薬バラまきまくりという「言われたことを守らない」っぷりを前に、もはや映画がコカインを必要としないのである。本作と並んでアカデミー主演・助演男優賞にノミネートされた『アメリカン・ハッスル』でも、『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』でも、みんながんばってコカインを吸っていた(ディカプリオは吸い過ぎた)。しかしそれ以上に、がんばって政府にケンカを売っていた。アカデミー賞では、コカインを吸ってやっとスタートライン! そこから先、映画はさらなる無法へとシフトアップしなければいけないのである。
かくして、これからもアメリカの主人公は言われたことを守ら「な」続ける。ドラッグをやる、賭博をひらく、公共物を破壊する、スピードを違反する、盗む、脱税をカマす、そしてある日とつぜん本気を出す。そのたびスクリーン上には、新たなるアメリカ合衆国が建国される! 本作の冒頭に登場する星条旗は、マコノヒーこそ真のアメリカ人だと主張する。対するエンディングテーマはT.Rexの「Life is Strange」。ストレンジこそ我らがスタンダード!という、これは由緒正しきアメリカ映画なのである。


文=ターHELL穴トミヤ

「くたばれ!」と社会は言った。
「くたばるか!」と男はたった一人で戦いを挑んだ。


『ダラス・バイヤーズクラブ』
全国公開中

(C)2013 Dallas Buyers Club, LLC. All Rights Reserved.
原題=『Dallas Buyers Club』
監督=ジャン=マルク・ヴァレ
脚本= クレイグ・ボーテン、メリッサ・ウォーラック
出演=マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト、ジェニファー・ガーナー、ダラス・ロバーツ、グリフィン・ダン

配給= ファインフィルムズ

2013年│アメリカ映画│カラー│英語│シネスコ│5.1chドルビーデジタル│117分|R-15+

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『ダラス・バイヤーズクラブ』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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