WEB SNIPER Cinema Review!!
第50回岸田國士戯曲賞の伝説の舞台、衝撃の映画化!
高級マンションの一室にある秘密クラブ「ガンダーラ」。そこで開催される乱交パーティに、ニート、フリーター、サラリーマン、女子大生、保育士ら8人の男女が集まった。目的はセックス。しかしそこでは息苦しい「間」やドロドロとした駆け引きが渦を巻き、思わぬドラマが展開されることに......。演劇ユニット「ポツドール」を率いる演出・脚本家として知られる三浦大輔が同ユニットの舞台劇を映画化!3月1日(土)より、テアトル新宿他にて公開中!
日本にはハレとケがある。ハレはお祭りでケは日常。しかし「お祭り」の意味が昔と今じゃ、ずいぶん違う。だって昔のお祭りは乱交パーティーとかだったって言うじゃないー!!! 盆踊りは乱交パーティーだったと言うじゃないー!!! 夜ばいとかもアリアリだったと言うじゃないー!!! では、今の日本人は真の意味でハレを持つことができているのだろうか? 誰もに開かれた性的な爆発という意味でのハレは、それはいわゆる風俗がになっているのである。というわけで本作『愛の渦』だ。
まず店長(田中哲司)らしき人間が、若い女性参加者(門脇麦)の質問に答えている。メガネをかけ、うつむき加減、奥手そうな女子大生。その娘に向かって、「いやね、やりたくなかったらやらなくていいですよ」と真摯な感じではじまりつつ、「ただね、うちのHP『乱交』でしらべて来てるわけでしょ」「ほかのお客さんもみんなそれで来てるわけですよね」「それでやらないとなったらなんで来たのってなっちゃいますよね」と、眉間にしわを寄せ、タバコ片手につめていく。内容は「ハレ」ながら、そのトーンは圧倒的に「ケ」。乱交サークルについて、まるでオリンピック招致に伴う再開発プロジェクト会議のような口調で語るのをみていると、このメガネの店長もう元・都知事にしかみえない! そして彼女が最後に「参加します!」とキッと決意する、それだけでこちらの股間はボルテージが上がってしまうのである。
監督・脚本をつとめているのは、2006年に本作の原作となる同名の劇で岸田戯曲賞を受賞した劇団ポツドール主催者の三浦大輔。マンションに集ったのは8人の客たち。ヤンキー風(新井浩文)、サラリーマン(滝藤賢一)、デブ(駒木根隆介)、クラいニート(池松壮亮)、保母(中村映里子)、OL(三津谷葉子)、そしてクラい女子大生(門脇麦)。出演者たちはほぼずっと裸、そして体当たりセックス! ついに日本人が野獣と化し、欲望だけが支配する非言語コミニケーションの空間が出現するのだ!と思っていたら、事態はおかしな方向に転びだす。
たとえば目と目が合えば即合体なのか!?と思っていたら、NO!(実際は、えー、みなさん普段お仕事とかなになさってるんですか)。気づけば3P状態にー!?と思っていたらNO!(実際は、ぼく次あの娘いくんで、いいですか?) そこに出現するのは、メンバーが裸なだけの合コンなのだった。
というわけでこの映画、セックスはあまり印象に残らない。8人がモサモサセックスしていても、なんだか理科の実験のようにみえてくる。どうやらセックスというのは、オリジナリティーのだしにくいアクションらしい。そもそもくっつくしかないから距離が作れない、だからダイナミズムを出しにくい。色も脱げば一色になっちゃう、だから変化を付けにくい。『愛のコリーダ』のセックスはやっぱりすごかった。『アンチクライスト』のセックスもすごかった。本作のセックスには、勃起感もあまりない。代わりに迫ってくるのは、濃密な空気の移り変わり。本作の主題は、日本の宿痾「空気」だったのだ。
窪塚洋介演じる、乱交クラブの店員が「はいどうぞ」と言って部屋を出て行く。そこで8人の間におとずれるのは無言。そのオモーい無言をへて、なぜか同性同士だけで盛り上がっちゃうという。そして発生する空気、分かる! こうなってしまったらだれもが牢獄の中にいる。
そこを打破するのは、やっぱりヤンキー系のコミニュケーション強者、新井浩文だった。女性の引きつりぎみの表情も無視して、強引に会話に入っていく。そのとき四つ足でにじりよっていく、まさに本能によって形作られた動きのむき出しの獣感! そしてひとたびヤンキー(新井浩文)が輪に入ることに成功するや、即座にその尻馬にのるサラリーマン(滝藤賢一)。こいつのヤンキーと同じ四つ足移動ながら、性質的には新しく科を分けて分類したくなるような小賢しい動き! しかしそれでも、果実は行動したものにだけ与えられ、残されたものたちには怨嗟だけがのこる......。このとき、ピントが手前のヤンキーとサラリーマに合っちゃって、もう後ろで同性コミニュケーションにかまけていたデブの顔は、被写界深度の向こうへと消え(ボケ)てしまうのが素晴らしい。カメラにすらおざなりな扱いを受けてしまう! そしてボケながらも、なんかこっち見てるのだけは分かる......、この哀れさ!
しかし硬直した空気も後半、「エロエロわっしょいトーク」状態へとなだれ込むと、にわかにはなやぎだす。この瞬間カメラには明らかにハレが映っていた! しかし、それもつかの間、空気はまた混乱し、停滞し、サッカーの後半戦よろしく、そこにまったく事情をしらないカップル(柄本時生、信江勇)が投入されると、また新しくなる......。
この映画にハレはあったのか? いや、乱交パーティーの間ですら、ハレとケは次から次へと入れ変わっていた。さっさと酒を飲んでみんなべろべろになればいいのに! みんな仮面バタフライで目の周りを隠せばいいのに! 何かに補助されなければ、かくも「空気」の侵入を防ぐのは難しい。
本作のまえには、同じく三浦大輔原作で、大根仁によって監督・映画化された『恋の渦』がある。あちらはコンパを起点とした、若者たちによるもう少し日常よりの人間関係を描いていた。しかし、あの映画の登場人物の誰であれ、本作に登場しても違和感がない。逆もまたしかりで、この映画の誰があのコンパ部屋にいても、物語は成り立つ。この2作の人間たちはまったく同じ、「広告代理店がAとかBとか分類してそうな日常生活を送る人たち」なのだ。ただ唯一それができないのが、本作の最後に再び登場してくるメガネの店長。ハレとケのはざまに住みついているこの男は、まったくもって味わい深かった。いったい彼のハレはどこにあるのだろうか。
文=ターHELL穴トミヤ
滑稽なまでに剥き出しの性欲が向う先は、愛か、果てないただの欲望か。
『愛の渦』
3月1日(土)より、テアトル新宿他にて公開中!
関連リンク
『愛の渦』公式サイト
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