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2013年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞・国際批評家連盟賞受賞
女子高生のアデル(アデル・エグザルコプロス)は道ですれ違った青い髪の女性エマ(レア・セドゥ)に一瞬で心奪われる。エマは画家を目指す美大生で、2人はバーで偶然に再会。アデルはエマに身も心ものめり込んでいく――。第66回カンヌ国際映画祭にて、パルムドールを監督のみならず主演女優2人も授与する史上初の快挙を果たした、注目のラブストーリー。2014年4月5日(土)より、新宿バルト9、Bunkamuraル・シネマ、 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー 公開中!!
この映画NYで観たのだが、公開前からすごい話題になっていた。カンヌグランプリ受賞! スピルバーグが絶賛! 原作はコミック(日本でもDU BOOKSより発売中、『ブルーは熱い色』/ジュリー・マロ著)! しかし、それだけでは英語字幕でよくわからないうえ、3時間もある映画を観る気にはならない。しかしある紹介記事をグーグル翻訳したらこんな一文が目に飛び込んできたではないか!
「爆発的に写実的なレズビアンのセックスシーン」。これをみて私は劇場へと走った。パルムドールを受賞しただけあり、入り口には上映前からすでに行列。さらにその映画館が独自判断でレーティングに逆らい、「本作を高校生にも解放する」と発表したことで、ちょっとしたニュースにもなっていた。場内はティーンの性欲と初老の芸術欲で熱気ムンムン。座席に座るとさすがのカンヌグランプリ、両親に娘の家族連れまでいるじゃないか......、爆発的に写実的なレズビアンのセックスシーンは大丈夫なのか!(大丈夫じゃなかった)。そんな存在自体が事件のフランス映画が、ついに日本でも公開されることになったのである。
アデル(アデル・エグザルコプロス)は17歳。バスにのり、高校へ通い、将来は教師になろうと思っている普通の女の子だ。そんな彼女がある日、頭を青く染めたボーイッシュなエマ(レア・セドゥ)とすれ違う。ちなみにこの一瞬のシーンを監督は100回以上リテイク、それだけで1日の撮影が終わったらしいので、みなさん目をハイスピード撮影のようにして観てみてほしい(本作でアデル・エグザルコプロスはセザール有望若手女優賞に輝いた)。
同級生とのデートにいまいち喜びを感じていなかった彼女は、ある日レズバーでエマと再会する。画家を目指す芸術家肌のエマと、おずおずとレズビアンの世界へと踏み出そうとしているアデル。正反対の2人はひかれ合い、やがて恋人同士になる。学生時代、卒業後、映画はドキュメンタリーのように、その恋と人生を追っていく。
そこで終わるのかよ!というこの映画のエンディングシーンのあとで気づくのは、爆発的に写実的なのはセックスだけじゃなかったということだ。たとえば映画の最初、アデルはじつに行儀悪くスパゲッティーを食う! そのあけすけな食いっぷり! 嫌なことがあったときはベッドの下から「お菓子ボックス」を取り出し、泣きながらチョコバーを貪り食う! その泣いてべちょべちょになった顔と、ツバの糸ひき具合! あー、子供だなぁ~って、でもそこには神聖化されてない少女がいてすごくいい。
学校では仲良しグループがあり、そこには「レズ」と呼ばれ恐怖がある。家庭でも、職場でも、それはどこまでもついてまわり、次にはエマに捨てられる恐怖もやってくる。カメラはアデルの顔をクローズアップで追い回す。ほおの一瞬のひきつり、目の泳ぎ、演技というにはあまりに細かい仕草の積みかさねで、心の揺れが語られる。
アデルとエマが互いを互いの家族に紹介するシーンは象徴的で、ここで2人の社会的階層の違いが明らかになる。エマは裕福でリベラルな両親を持ち、一方のアデルは、中産階級で保守的な両親のもとで暮らしていた。やがてアデルは職をもち、エマといっしょに暮らすようになる。そこでもこの「育ち」の殻が、2人を微妙にへだてている。
劇中、「実存主義」について語り合うシーンがある。「人間は本質ではなく、その行動によって誰かになる」。この会話が示唆するのは「女性はこうあるべき」という世間からの圧力と、レズという現実の対立だ。アデルには弱さがあって、認めがたいことを安易なウソでごまかしたり、またはただ泣き出してやりすごそうとしたりする。それが食事シーンに登場する、不機嫌で抑圧的な彼女の父親から作り出された性格であろうことは、想像に難くない。アデルが結局、高校生から大人になってもなお、その影響から抜けだせていないという身もふたもなさ。これが、本作に冷徹な強さを与えている。
一方でアデルのしょっちゅう開いている口、その前歯は、この映画のもっとも優しい部分だろう(ジョン・ヒューズ『すてきな片想い』のモリー・リングウォルドに続く、ターHELL前歯が見えててかわいいで賞をあげたい)。不器用なりに、でも自らの気持ちをぶちまける彼女のひたむきさ! 彼女の愛の輝きは、高校生のころチョコバーをヤケ食いしていた頃から変わらない、その前歯に宿っているのだ。
本作のフランス語の題名は、直訳すると「アデルの生涯 その1その2」というもの。劇中に出てくるフランス小説の古典『マリヤンヌの生涯』が全11部からなるのを考えれば、この題名は「アデルの生涯のごく最初を描いた、途中で終わった映画ですよ」という意味だろう。仏題はラストの先に、本編中よりずっと長い、これからの人生を予期させる。
いっぽうの英題を直訳すると「ブルーはもっとも熱い色」。これもなかなか悪くない。寒色である青が、なぜもっとも熱いのか。それはエマの髪の青く染められているからというのもあるけれど、それだけじゃない。マニキュア、壁紙、ドレス、注意してみればこの映画にはたくさんの青が出てくる。アデルにとっての青は、闘牛にとっての赤と一緒。人生が一歩前に進み始める、闘いの合図なのだ。
パーティーで恋人が他人と話しているときに感じる焦燥感。セックスシーンと同じほど長く執拗に続くケンカシーンのつらさ。そして恋愛関係が苦しい時の、仕事の時間のありがたさ! これは愛の映画というけれど、監督は相当皮肉に「愛」で「育ち」は超えられるかな~?と迫ってくる。その結果、アデルの顔はいつも涙と鼻水でぐしゃぐしゃ! でもそれこそ人生じゃんか! ファック、なにが育ちだ! うを~! そんなものは、アデルの体液が全て洗い流す! そのぐちゃぐちゃ、いいね!そのぐちゃぐちゃ、リツイート!そのぐちゃぐちゃ、インスタであげていいですか?! 仏、英、邦題に続く本作のHELL題は「アデルの体液がすべてを洗い流す、これぞ人生!」で決まりだ!
文=ターHELL穴トミヤ
映画史上最高に美しく、官能的並ぶシーンに世界騒然――
『アデル、ブルーは熱い色』
2014年4月5日(土)より、新宿バルト9、Bunkamuraル・シネマ、 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー 公開中!!
関連リンク
『アデル、ブルーは熱い色』公式サイト
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