WEB SNIPER Cinema Review!!
アジアの5大スター競演! 真実の愛を問う、美しく儚い怪奇ロマンス!!
盗賊に捕らえられた女シャオウェイ(ジョウ・シュン)を救い出した将軍のワン・シェン(チェン・クン)は、身寄りのない彼女を家に住まわせることにした。家には妻ペイロン(ヴィッキー・チャオ)がおり、シャオウェイが人間ではなく妖魔であることを見破るが......。中国・清代の怪奇譚を原作に、美女の姿を保つために人間の心臓を食い続ける「妖魔」と人間の愛を描いたラブロマンス。全国順次公開中
本作は、中国の古典怪奇小説集『聊斎志異』を下敷きにした、2人の美女が1人のイケメンを取り合うラブ・怪奇・ロマンス。監督は、『レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳』の脚本・製作をつとめたゴードン・チャンです。
映画が始まり、まず出てくるのが砂漠で賊に囚われているジョウ・シュン。美女です。出てきた瞬間から白い毛皮の上に寝かされていて、良い女感がムンムンです。なま脚、なま肩は透き通るように白くて、超美肌。こんな良い女と、毛皮の上でコメコメしたいわけです! ところがこの人、怯えてるふうなんですが、賊の頭領と2人きりになった途端に相手を懐柔しはじめる。それどころか実は狐の妖魔で、ついにはこの頭領の心臓をえぐって食っちゃうんですね。実はヤバすぎる、危なすぎる女だったわけです。
ところがそんな彼女が恋に落ちてしまう。その相手が、偶然そこに賊征伐にやって来た、チェン・クン演ずるイケメン将軍でした。将軍に救い出された彼女は、一緒に街へ戻り彼の屋敷に置いてもらうことになる。ところがそこには将軍の妻が待っていた。そのときの妖魔の、悲しそうな演技がいいですね。彼女は本当に恋する女の、悲しい表情をしている。ああ、妖魔もやっぱり恋に落ちるときは落ちるんだなあ、という感じがよく出てる。
一方のヴィッキー・チャオ演じる将軍の妻は、妖魔とは正反対のまじめな、良妻賢母タイプ。もちろんこちらも美女です。彼女は肌の露出も少なめなんですが、長い黒髪がひたすら美しい。こんな周りに気配りもきく良い女と、みんなが寝静まったあと2人きりになっちゃってコメコメしたいわけです!
しかし妻としてはどうも、あの連れてきた女がおもしろくないんですね。将軍は「身寄りのない女」とか言ってるけど、どうもきな臭い......。やがて彼女は、この女が「妖魔」だと気がつきます。
というところで「泥棒野良猫ビッチ vs マジメ良妻美女」の戦いの火ぶたが切って落とされるんですが、ここで使うのが妖術とか、武術じゃないというのが面白い。
妻は普通に「妖魔だ!」といっても「嫉妬から、言いがかりをつけて」みたいに取られかねませんから、元・夫や部下の力なんかを借りて、なんとか、この女の正体を暴こうとする。一方の妖魔も、妻を食い殺すのではなく、「妻に根も葉もないあてこすりを受ける自分」という演出で同情を集めて、政治的に妻の座を狙っていく。この2人の戦いは、人望を集め合う、女の戦いなわけです!
もちろん、妖魔は将軍の前ではうまく取り繕いながら、夜は街で仲間が襲った心臓をバンバン食ってる。そこに女降魔師とか妖魔を斬る剣客とかもやってきて、アクション対決も入ってくる。ただこの映画、ジャンル映画としては全体的にどんくさいんです。BGMの入り方や切れ方がなんか唐突だったり、脇役男優は間が抜けた顔だし、ワイヤー・アクションもそこまでキレがない......。
でも、最終的にそういう要素が、全部どうでもよくなる。その代わりに「愛しているのか」という、「愛」の問題だけがそこに勃発する、そこからがすごい! もうこの「愛」が問われるシーンのすごさで、ジャンル映画を突き抜けてます。
この「愛」の出方がまたよくて、それは失敗の先に出現する、逆説の「愛」なんですね。ストーリーとしてはそこで終わってしまった、映画とともに観客が追っていたものは、そこで途切れてしまった。にもかかわらずそこに、「いやそんなものは全部関係ない。なぜならこの世で唯一重要なことは、これなのだから!」と突然「愛」が出現する。もうそこからは嵐ですよ嵐! 愛の嵐の前では、妖魔を斬る剣とか、どちらのほうが人望があるとか、そんなのは関係ない! どいつもこいつも愛に突き動かされていって、本当の愛っていうのは、そこに自分すらも存在しないという......、もう最高です!
このシーンは空母っぽく表現すれば、ドストエフスキー級です。ドストエフスキーのひたすら長い小説を読んでいて、この独白必要なの?とか、説明くどくない?とか思いながらも進んでいったら、突然(1、2ページだけ)、まぎれもない真実が現われて、ハッとする。純度も衝撃もそのくらいすごい! 油断して観ていたら、芋の山からいきなり釈迦如来とジーザス・クライストがあらわれたような衝撃を受けました。
この映画をなんとなく観た人は幸せです。この最後のシーンの突然の純度に正面から激突して、心の底から感動できる。やっぱりこのレビューは少し褒めすぎかもしれないですね。あまり事前に期待しすぎると、感動って目減りしがちですから。やっぱり、あんまり期待しないでください! この映画、うっかり観に行くのがおすすめです! 今すぐ「画皮」と手の甲にメモして酒を飲んで寝るべきではないでしょうか。そして2日くらいしてから、なんだっけこれという感じで観に行ってほしい......。
ちなみにこの映画デジタル上映の映画館がほとんどなんですが、フィルム上映されている映画館だとエンディグ曲がジェーン・チャンの歌う中国語オリジナル版になっている(デジタル上映館では倉木麻衣)。この曲がまた、目で見ることのできない、不確かな「愛」というものについての、すごく良い歌詞でした(字幕が出ます)。可能な人は、ぜひフィルム上映のバージョンで観るといいんじゃないでしょうか!
文=ターHELL穴トミヤ
血の涙を流すほど、誰かを愛したことがありますか――
『画皮 あやかしの恋』
全国順次公開中
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映画『画皮 あやかしの恋』公式サイト
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