WEB SNIPER Cinema Review!!
鬼才ボブキャット・ゴールドスウェイト監督が放つバイオレンス・ロードムービー!!
リストラされ、不治の病に罹り、生きることに疲れたバツイチの中年男(ジョエル・マーレイ)。彼は自殺の直前、テレビ番組に出ていたわがまま少女の態度にブチキレた上、怒りのままに彼女を殺しに出かける。すると処刑の現場を目撃した女子高生(タラ・ライン・バー)が彼の行為を褒めちぎり、意気投合した二人はアメリカ各地にはびこる許せない奴らを次々と抹殺する旅に出る――。全国順次公開中
この映画、プロデューサー欄にリチャード・ケリーの名前が載っている! というか製作会社がその名もダーコ・エンターテインメントだ! というわけで、鬱屈した精神世界にどっぷり浸った映画なのかなーと思って観たら、はっちゃけた痛快殺人コメディでしたね。
とはいえ、随所にリチャード・ケリーの素がかかっていて、主人公が殺害された女子高生の家に行くシーンなんかはまさにリチャード100%。さりげなく道路に祭壇が作られている演出の不穏さが半端じゃない!
リチャード・ケリーが監督した2001年の『ドニー・ダーコ』は、思春期のノイローゼ世界を描いていて、鬱屈の果てに主人公はウサギの幻覚を観ていました。でも今は、アメリカも変わった!(ついでに監督もボブキャット・ゴールドスウェイトに変わった!)鬱屈したら、銃を持って街に飛び出しちゃおう!というのが本作なんですね。
主人公のムッツリ良識派とでも呼びたくなる中年男を演じているのは、ビル・マーレイの実弟でもあるジョエル・マーレイ。彼はとにかくバカ騒ぎが嫌いで、病んだアメリカが大嫌い。ところが彼を取り囲む、隣人、同僚、TV、ラジオはこれでもかと「This is アメリカ光線」を彼に当ててくる。このストレスを溜め込んでいく主人公を観てるのがもう楽しいです。映画が始まってワンカットで、隣の若夫婦から彼の部屋までカメラが移動していくんですが、そこの温度差で笑っちゃう。
彼を見ていて思い出したのが、漫画家ロバート・クラムのドキュメンタリー『クラム』('97、テリー・ツワイゴフ監督)です。クラムも街を歩きながら、目に入るものすべてにブチ切れていて、「こんなにアメリカが嫌いなアメリカ人がいるんだ」と驚きました。彼は結局フランスに移住するんですが、本作の主人公は職場をクビになり、さらには余命わずかという診断までくだされちゃう。圧力鍋のなかに閉じ込められ、クソなアメリカ野菜のコトコト煮状態となってしまった、そんな彼がついに絶望して銃を口に突っ込んでいると、TVでわがままセレブ女子高生のリアリティ・ショーをやっている。
そこで主人公はひらめくんですね。そうだ! こいつを殺してから自殺しよう!
さっそく、ムカつく隣人の車を盗んで山の中でセレブの女子高生の出待ちをする中年男。望遠鏡を目に当てたジョエル・マーレイの不審者まるだしっぷりにはしびれます(このカットぜひTシャツで欲しいです)。
そしてついに現われたセレブ女子高生を車に手錠でつなぎ、『マッド・マックス』ばりに爆殺しようとするんですが、風で火をつけた布が飛んでっちゃう。この間抜けさも最高! (Tシャツのバックプリントは、小走りで布をおいかけるジョエル・マーレイで決まりです)。
それでもなんとか殺害に成功した彼は、モーテルに戻って、今度こそついに自殺しようと口に銃をくわえます。するとそこに客がやってくる! 入ってきたのは女子高生(タラ・ライン・バー)。彼女はなんと、昼間の殺人に感激したと言いだした!
というわけで中年男と女子高生の、「銃で正義を実現」ツアーが始まるんですが、この自称中年ヒーローとサイコな少女の組み合わせって、もろ『スーパー!』(2010、ジェームズ・ガン監督)ですよね。アッパー女子に、中年が引っぱられ気味になっちゃう!というところまで一緒です。
でも『スーパー!』のエレン・ペイジがアッパー・セクシー系コスプレだったのに対し、こちらのタラ・ライン・バーは、性格はアッパーだけど、ファッションは地味なかんじ。ベタにいけば「私たち、ボニーとクライドよ!」となりそうなところ、彼女が選ぶのはパティ・ハースト(70年代にアメリカ国内の反体制ゲリラに誘拐された新聞王の娘で、人質にも拘わらずそのままゲリラの一員となり、銀行強盗などに参加した)というのが、なんともムッツリ文化系好みです。
それから、似たような映画で、サラリーマンがある日突然ぶち切れて、むかつくものに次々と発砲し始めるという『ブレイクダウン』('93、ジョエル・シューマカー監督)というのもありました。だけど本作は(監督の趣味を反映させまくった)タラ・ライン・バーの性格設定によって、むかつく対象が「市民が感じる鬱憤」から「文化系リベラルが感じる鬱憤」へとかなり偏っている。
その結果、文化系共通の敵「映画館で上映中にしゃべる奴」はバッチリ射殺、「同性愛者を差別する奴」なんかもモチロン射殺なんですが、くわえて「会話の中で『文字通り』を多用する奴」とか、さらには『JUNO/ジュノ』の脚本家まで(映画がクソだから)「殺すべき!」みたいな、「監督の毒舌ブログを銃で実現」展開になっていく。
ついでに、2人がモーテルで観るTV映画が『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』('59、ロジャー・コーマン製作)だったり、映画館で上映されてるのが『ソンミ村の墓』とかいうなぞの渋すぎるベトナム映画だったりして、「マニアックなブログばっか書いてたら横に勝手に出てきたアフィリエイト広告」みたいな激ニッチ趣味な場面も出現。
ついには、ロリコン野郎として元妻の連れ子(養子)と結婚したウディ・アレン批判まで飛び出して、「ついに言った! 炎上バッチこい!」みたいな映画ファン・ブログ状態へと突入していくんですが、本作そのロリコン批判をしてる主人公自体が、ずっと半端じゃないロリコン・シチュエーションにもあるわけです(手をマッサージするシーンなんか最高!)。この映画がただの毒舌ブログで終わってないのは「道徳的でない」奴らを攻撃しながらも、一方でそれを攻撃する主人公(良識派)の盲点も描いていってるからなんですね。
だから映画の最後、その盲点の果てにある、あのなんの爽快感もないエンディング。主人公も含めすべてが薄っぺらで、銃だけがある感じには、この映画の良心を感じました。本作で本当に人をうてるのは、最後に完璧なタイミングで入ってくる、タイトルだけなんです。
それにしても、主人公たちの敵として出てくる、「病んだアメリカ」がどれもツボをおさえた再現でめちゃくちゃおもしろい。アホな奴がアホなことをやって死にかけるアホ番組(JACKASS)とか、ひどすぎるCMとか、どれも爆笑です。なかでも定期的に出てくる、キリスト教原理主義者や、極右コメンテーターの暴言は最高(「神はホモを許さない!」)。よくぞこんなセリフ思いつくよなという連続で、監督・脚本のボブキャット・ゴールドスウェイトはこの「殺されるべき人」を書いているときが一番ノっていたに違いない。
この映画、やっぱり女子高生と一緒に観に行きたいですね。観終わってから「じゃあ、射殺されそうなセリフを沢山言えたほうが勝ちね!」なんて、コーヒー飲みながら......、やりたいなあ......。
文=ターHELL穴トミヤ
中年男と女子高生、ピュアでプラトニックな世直し(?)の旅!!
『ゴッド・ブレス・アメリカ』
全国順次公開中
関連リンク
映画『ゴッド・ブレス・アメリカ』公式サイト
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