
(C)2013 T.O Entertainment, Inc.
WEB SNIPER Cinema Review!!
『デストロイ ヴィシャス』浪花の奇才・島田角栄監督最新作
全裸の男が、ビルの屋上から飛び降り自殺した。ビルには、死んだ男・松尾が足しげく通っていたSMクラブ『ミッドヘブン』があった。刑事の武藤(浜尾京介)は調査の為、松尾を調教していた女王・美礼(黒川芽以)を事情聴取することに。ところが、並はずれた勘の良さと推理能力を持つ美礼により、武藤は従順な下僕へと変貌。そんな折、M男の連続自殺事件が起きる――。12月27日(金)DVD 発売決定!レンタルも同時開始!

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趣味を仕事に活かす、これはいいことらしい。ジブリの鈴木敏夫プロデューサーいわく、趣味と仕事を区別しないのが人生の秘訣とか。本作の主人公、武藤はマゾの刑事。これは縛られながらSMクラブで多発する難事件を解決していく物語なのだ......、と書けば相当面白そうなのだが、後半は主人公が移っていきまた別の話になっていく。困っちゃったなー!
客が怪死した事件をうけて、武藤(浜尾京介)はSMクラブへと捜査に向かう。彼は女王ミレイさま(黒川芽以)に事情聴取をするうち、奴隷としての本能に目覚めてしまった。縛られながら女王さまの変態アドバイスを拝聴し、次々と難事件を解決していく武藤。やがて捜査線上に、奴隷が次々と自殺を遂げるナゾの女王マリリンが浮かび上がってくる。主人公はいつしかミレイ女王さまへと移り、彼女のライバル、メシヤ女王さま(澤田由希)も登場。物語は女王マリリンの素性を追うサスペンスへと突入していく。
本作を貫き通すひとつのナゾ、「最高の最低」とはなんなのか......。そして武藤の先輩刑事のやたら過剰な演技......。時おり出てくる独り語りに、唐突な演出......。映画の大枠にはほとんどノることができなかったのだが、しかし女王さまのボンテージ姿が見れるからいいんじゃないのか。腰のくびれと股間への食い込みがいいんじゃないのか。そしてカメオ出演でザ・クレイジーSKB、鳥肌実、COBRA、BALZACなんかも出てくる、彼らの濃い顔がいいんじゃないのか。最後はダイアモンド☆ユカイまでいて、なんか得した気分なんじゃないのか!と、私は自分に語りかけるのである。


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SMクラブを舞台とした映画だけに、なかには業界あるあるシーンなどがあり、SMママから新人女王さまへの指導シーンなどおもしろい。跡の残らないムチの打ち方、プロらしく見える亀甲縛りのやり方、まさにそこには「お・も・て・な・し」の精神が宿っていた。手枷、足枷、そして首輪、これこそが五輪なのだと思わず居住まいを正さずにはいられない。
奴隷刑事を演じる浜尾京介が終始クールな表情なのも効いている。彼が甘いマスクのまま奴隷となる姿は、SMという喜劇的状況をより際立たせる。特に印象に残っているのは、捜査中の顔のアップから、そのまま大股開きの緊縛状態へとつながるカット。表から裏へ、昼から夜へ。本来連続的に流れる時間を切り貼りし、その特異点を並べてみせる。ここには映画的喜びが満ちあふれている、といっても過言ではないかもしれないのである。
また、ミレイ女王さまの「プロフェッショナル」さを証明するエピソードも、具体的でおもしろい。ある被害者の所持品から、彼女はその男がどういったタイプの変態かを瞬時に言い当てる。そこから衝撃のトリックが明かされる......。特殊な変態の世界を知る楽しさと、それがそのままトリックへと繋がる見事なプロット。現場に行かずに事件を解きほぐしていくその姿は、まさにミス・マープルならぬミス・マゾがプルプルではないか。観ていて思わず膝をたたかずにはいられなかった。
個性派バンドが多数カメオ出演している本作だが、なかでも印象的だったのは猛毒のザ・クレイジーSKBだ。セリフは「デストロイ」だけ。しかし、それ以外なにが必要だというのか? ザ・クレイジーSKBに連れ去られた武藤と先輩はBALZACが演奏しているCG世界へと放り込まれる。その微妙に古いCG処理を見ながら、昔スペースシャワーTVを友だちに3倍録画してもらったりしてたなあ、と高校生のころを懐かしく思い出していた。ライブハウスシーンではWEBスナイパーでもおなじみ、早川舞のシャウトもうれしい。
『殯(もがり)の森』でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞した監督、河瀬直美が金髪ボブの女王さま役で出演しているのも見逃せない。山間の老人ホームに異常に美人な女が2人いる、あの映画にそこはかとなく漂う、暴力の通奏低音。女性に男性が叱られまたケアされる場所として、老人ホームとSMクラブが本質的に同じ場所であることに異論を挟む人はいないだろう。殯(もがり)の森ならぬよがりの森に迷い込む本作に、彼女が出演しているのはむしろ必然ともいえる。本作で実現したカンヌとパンクの邂逅に拍手を送りたい。
なにかと時間の余る年末年始。まず観るべきは『ゼロ・グラヴィティ 3D』、『かぐや姫の物語』であることは間違いない。これらの作品をそれぞれ2回。さらに羽子板、かるたに、コマ廻し。その疲れた身体を......、本作で癒してみてもいいのではないか。といっても過言ではないかもしれないのである。

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文=ターHELL穴トミヤ
女王様とM刑事がプレイ中に怪事件を解決していく
ハードコア・セクシー・パンクムービー!!
『冴え冴えてなほ滑稽な月』
12月27日(金)DVD 発売決定!レンタルも同時開始!
原作=華雪ルイ「デッド・エンド・ヘブン ~冴え冴えてなほ滑稽な月~」(TOブックス刊)
監督=島田角栄
出演=黒川芽以、澤田由希、大塚明夫、鳥肌実、河瀬直美、JILL(PERSONZ)、古市コータロー(the collectors)、HIKAGE(THE STAR CLUB)、COBRA、BALZAC、クレージーSKB、Atsushi(NEW ROTE'KA)、KEITH(ARB)、奧崎謙三、リカヤ スプナー、瀧川英次、白井光浩、真凛、流血ブリザード、ダイアモンド✡ユカイ、浜尾京介
配給=TOブックス
DVD発売日=2013年12月27日
販売元=TOブックス
時間=110分
Amazon.co.jpにて詳細を確認する>>
監督=島田角栄
出演=黒川芽以、澤田由希、大塚明夫、鳥肌実、河瀬直美、JILL(PERSONZ)、古市コータロー(the collectors)、HIKAGE(THE STAR CLUB)、COBRA、BALZAC、クレージーSKB、Atsushi(NEW ROTE'KA)、KEITH(ARB)、奧崎謙三、リカヤ スプナー、瀧川英次、白井光浩、真凛、流血ブリザード、ダイアモンド✡ユカイ、浜尾京介
配給=TOブックス
DVD発売日=2013年12月27日
販売元=TOブックス
時間=110分
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関連リンク
映画『冴え冴えてなほ滑稽な月』公式サイト
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ターHELL 穴トミヤ
ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。