WEB SNIPER Cinema Review!!
タランティーノとサンダンス映画祭が絶賛!
新鋭女性監督が大胆に描く、アラフォー女性のリアル
平凡な日常に飽きた、大人になれないレイチェル(キャスリン・ハーン)。自分は日々、女としての魅力を失っている......そんな焦りを覚える彼女の生活に、若く美しいストリッパーマッケナ(ジュノー・テンプル)がもたらした嵐のような混乱。彼女は再び"人生の午後の輝き"を取り戻せるのか――新鋭女性監督が大胆に描く、アラフォー女性のリアル
11月7日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷にて 他全国順次公開!
自称19歳のストリッパーを演じるジュノー・テンプルが素晴らしい。主人公のキャスリン・ハーンが笑いすぎて「ンゴっ、ンゴっ」と鼻を鳴らしたときに、口を大きくあけて驚くその仕草!あどけなさ、かわいさに、心の中でたまらなベイビー1ドルチップが乱舞したっ(スクリーンに向かって、ドル札を撒く感じをイメージしてください)! 監督は、本作が長編映画デビュー作となるジル・ソロウェイ。2013年のタランティーノが選ぶ年間10本に選ばれたという、最高のコメディ!かと思いきや、渋い家族ムービーだった。
キャスリン・ハーンは、幼い息子を持ち、スマホアプリの開発者の夫(ジョシュ・ラドナー)と暮らす専業主婦。しかし半年以上「夫婦の営み」がないという悩みを抱えて、カウンセラーの元に通っている。夫が洗面台に向かっている横で、小便をしながら「今夜は興奮しちゃうわよ!」「帰ってきたら覚悟して、あなたの股間を吸いまくり!」と気合バリバリ宣言をかますキャスリン・ハーン!下着姿で股間をグイグイ突き出し「バン!バン!」と夫を欲情させようとしてるんだか、笑わせようとしてるんだかわからない行動に出るキャスリン・ハーン!『なんちゃって家族』(ローソン・マーシャル・サーバー監督)でもかなりの三枚目っぷりを発揮していた彼女が、今回も見事なマイナスベクトル色気を発揮して、観るものを確実に萎えさせる。夫婦、家族になると起きる色気の減退、これはやはり洋の東西を問わず起こる難題なのだ。
そんなある日、夫婦は刺激を得るためにストリップ劇場に出かけることにした。そこでキャスリン・ハーンにプライベートダンス(個室での1対1の密着ダンス)でついたのが、自称19歳のジュノー・テンプルだった。なぜか彼女のことが忘れられなくなったハーンは、次の日また劇場に出かけていき、偶然をよそおって声をかける。2人は友達同士になり、ついにテンプルはハーンの家の空き部屋に下宿することになった。しかし、彼女が「ストリッパー」なだけでなく、「売春婦」でもあることが明らかになり......とストーリーはすすんでいく。
監督のジル・ソロウェイは本作の主人公を「セス・ローゲンや、ジャック・ブラックのような、現実にはいなそうなほどダメな人間の女性版」として描きたかったという。ハーンはそれに応える名演で、マイナスベクトル色気演技も、レズの女性カウンセラー(ジェーン・リンチ)とのやりとりも、バッチリツボをついてくる。しかしそれ以上に、主人公のダメな部分としての「幼さ」を痛烈に演じきっていて、観ていてつらくなってくるのだ。
映画の冒頭、ハーンは車を洗車マシーンに入れている。繭のように車を包む洗剤によって外界から遮断され、洗車を待つ間というのはなにか、人生のどこにも属していないエアポケットのような時間が流れる。そんな中にあって、彼女はおもむろに助手席に移動してみる、これはデートに連れて行ってもらうガールフレンドの位置だ。次に後部座席に移動する、これは親に乗せてもらう子供の位置。このシーンだけで、彼女の若い心を失っていない、または退屈して何かを求めている気分が見事に表現される。
しかしその「大人っぽくなさ」は後半、ママ友と集まってアホトークを繰り広げる頃には、かなり不快なものに変わっている。主人公はそこで「2人目」の妊娠を報告する友達に苛立ちを隠せない。そして唐突に「中絶トーク」を始めたあげく、場の雰囲気を立て直そうとする皆の邪魔をするのだ。そのときに、それていく話題を前にして指を噛んだり、無理矢理笑ったりしてまた「中絶トーク」を蒸し返そうと狙っている顔。この顔の演技がうますぎる!観ていていたたまれなくなり、独身版ダメ女性ムービー『ヤング≒アダルト』(ジェイソン・ライトマン監督)の修羅場がフラッシュバックした。
子供が小鳥や猫を拾うように、無邪気にストリッパーを家に住まわせたあげく、ヒいてしまう主人公。しかし本作はそれを賛美もせず、告発もしない。ピンク色で、ふわふわなジュノー・テンプルが時折見せる動物的な反応の恐ろしさと、どこまでも平凡で小市民的な主人公を対比させつつ、「まあ、そうなるだろうな」というオチへと向かっていく、そこが渋かった。親子や、兄弟のような血縁の家族関係は、そうそう変わらないが、夫婦という家族関係は時間によっても、行動によっても変わっていってしまう。だからこそ努力して、昔と変わらない姿を探し求める......。夫婦はいつまで男と女なのか、そんなアイロニーを理解した後には、週刊誌の熟年セックス特集への見方も変わっているかもしれない。
文=ターHELL穴トミヤ
大人になれないレイチェルのイタさが、笑えて、沁みる――
タランティーノが絶賛した、不器用で愛おしい人生賛歌
『午後3時の女たち』
11月7日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷にて 他全国順次公開!
関連リンク
映画『午後3時の女たち』公式サイト
関連記事
かわいい女の子同士は、すぐ友達になっちゃうよ。たとえ、それが死体でも! 映画『女の子よ死体と踊れ』公開中!!