WEB SNIPER Cinema Review!!
月面着陸の捏造をアメリカ政府がキューブリックに以来した!?
1969年、人類が初めて月面に着陸。全世界でその映像が流され、人々は歓喜に沸いた。が、後にこの映像は捏造であり、映画監督のスタンリー・キューブリックが制作に関わっていたというトンデモない噂まで......。もしこの話が本当だったら!? キューブリックへの映像依頼という極秘任務を遂行するため、CIAの腕利き諜報員キッドマン(ロン・パールマン)はロンドンへと送りこまれる――全国公開中
根強く囁かれる「アポロ11号月面着陸、フェイク説」。その都市伝説に基づいたアホムービーが誕生した。舞台は1969年、スウィンギンロンドン華やかりし頃のロンドン。ダメバンドマネージャーの主人公(ルパート・グリント)は、ルームメイトと思しきジャンキー(ロバート・シーハン)と同居し、ギャングに借りた金が返せなくてドツボにはまっている。ある日彼は金を無心しにやり手ビジネスマンのいとこを訪ねるが、けんもほろろに断わられてしまった。いとこが部屋を外したすきに、こうなりゃもう金を盗むしかないと机に近づいた瞬間! そこにハリウッドプロデューサーを名乗る男(ロン・パールマン)が訪ねてくる。彼は「(アポロ11号が万が一失敗したときに代わりに流す)月面着陸映像をキューブリック監督に制作させる」という使命を帯びた、CIA諜報員だったのだ!
パールマンをただのアホなハリウッド・プロデューサーだと思った主人公は、お堅すぎてキューブリックの顔も知らないその男から、まんまとギャラをだまし取る。しかしインチキはあっさりバレ......と映画はつづいていく。
口先だけはうまいインチキ男、どうしようもないジャンキー、そしてベトナム戦争のせいで完全にPTSDわずらっちゃってますけど(それもかなり深刻に)というCIA諜報員。本作はこの3人が出揃った時点で、「大惨事間違いなし」の予感に満ち満ち、期待感マックス状態になる。でも、その後そこまで、期待したほど、爆発的な展開じゃなかったかな~。でもいい!とくにあがり症で、なにか大事なことがあるとすぐにドラッグをきめてしまう相棒。彼はキューブリック役を押し付けられるんだけど、緊張のあまりミーティング直前に接着剤を吸ってグネグネになってしまう。そこであわてたルパート・グリントが「しゃきっとしろ!」と今度はコカインを吸わせるこのアホさ!するとシャキッとしすぎて、「俺はキューブリックだ!完全にキューブリックだ!」みたいになり、CIA諜報員の依頼を「そんなのは俺のスタイルじゃない!」とか勝手に断わり出してしまう。一方のロン・パールマンは『インヒアレント・ヴァイス』(ポール・トーマス・アンダーソン監督)のジョシュ・ブローリンとタメを張る「お堅い人物」具合なのだが、その実ストレスを感じるとベトナム戦争後遺症の幻覚が見え始めるという、ヤバい精神状態にある。2人の初顔合わせは、はたから見ればスーツをきたビジネスマン同士の商談、その実ドラッグでラリってる人と、PTSDで限界来ちゃってる人のギリギリミーティング!日常に潜む「自分が辛い時は、敵も辛いのだ」的瞬間を、めちゃアホシチュエーションで再現する素晴らしいシーンとなっていた。
コケにされたロン・パールマンは彼らを消して仕切りなおそうとするが、着陸の予定日を目前にひかえ、もはやこのダメコンビと組んで映像製作を続行せざるを得なくなる。ところが「おれには優秀な監督の知り合いがいる!」と請負うルパート・グリントに連れて行かれた先には、これまた輪をかけてThis is 60'sな監督が待っていた。 さあここから怒涛のヒッピーあるあるギャグで、大惨事どんとこい状態なのか!?と思ったらそこまでじゃないんだよな~。でもいい!到着したビルじゃ、いきなりボディ・ペインティングとかしているし、当の監督は全裸の女たちと一緒に、アンディ・ウォーホルのアートフィルムみたいな、どこが面白いのか全く理解不能な自身の過去作品を観ている。こいつがCIAの陰謀映像だっていうのに、「月面にクラゲを飛ばそう!」みたいな激ヒッピーなことを言いだしてロン・パールマンがブチ切れたり、なかなかハチャメチャ60'sがんばっていたと思う!
そして絶対あるだろうな、と思っていたCIA諜報員によるドラッグ誤飲展開。果たしてPTSDを抱えたCIA諜報員はこのクール・クールLSD交感テストにパスできるのか!?月面着陸とかもはやどうでもいい、このまま精神世界の人類にとっては小さな一歩だが、自分にとっては大きな一歩をふみ出しちゃってくれ!60年代っぽい、クソでかいタンスみたいなシンセサイザーからぬるぬるとなにかが噴き出してくるサイケ描写が最高! と思っていたら、ストーリーはそこからアクションに向かって行っちゃう。なんかそのスプラッター展開が生真面目っていうか、もっとサイケシーンに突き抜けて欲しかったんだよな~。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(マーティン・スコセッシ監督)とか、『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』(リアム・リンチ監督)とか、『22ジャンプストリート』(フィル・ロード監督)みたいな、爆笑ぶっ飛びシーンがみたかったな~。と思ったのだった。
それでもアポロ11号月面着陸シーンが流れると、なんか感動してしまう。この、すべての雑事が昇華されちゃう感じってなんなんだろうか。ベトナム戦争とかあったけど、月面着陸シーンが流れると、まあアメリカの60年代も悪くなかったかもな......みたいになるし、たとえどんな映画でも、最後に月面着陸が流れると、なんか人類やったよなみたいな納得感に包まれる......。悠久なる時間へと全てが飲み込まれて、うやむやになっていくこの感じ......。そうだ!インドのガンジス川と一緒ではないか! アポロ月面着陸こそは、圧倒的な「細かいことはいいんだよ」感ですべてを昇華する、アメリカのガンジス川だったのだ。
文=ターHELL穴トミヤ
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