WEB SNIPER Cinema Review!!
音楽を通じて誰かとのつながりを求める人々の、可笑しくてほろ苦い物語。
奇妙な張りぼてのマスクを被り、決して人前では素顔を見せない男フランク(マイケル・ファスベンダー)。彼の率いるアヴァンギャルドなバンドに加入することになった田舎青年のジョン(ドーナル・グリーソン)は、フランクのエキセントリック且つクリエイティブな才能に心酔していく。そんなある日、WEBにアップした動画が話題となり、アメリカの音楽フェスへ招待されることになった彼ら。しかし突然、フランクが様子がおかしくなって......。 風変りなバンドをめぐる、痛快で胸を打つコメディ。全国順次ロードショー
超おもしろい映画を観ると、誰に頼まれた訳でもなくレビューが書きたくなる。友だちにも話したくなるし、こんな映画を観たってツイートもしたくなる。それは自然な反応なんだけど、その心の奥底を覗くとその映画を自分のものにしたいっていう気分が隠れていることに気づく。代弁者になって、解説者になって、そしてその輝きを自分のものにしたい。映画だけじゃなく、音楽でも、マンガでもそれは同じ。でもどんなにその作品をほめて、作者とも近づきになって、その輝きに近づいたとしても、そこには絶対に超えられない溝がある。その素晴らしい作品を作ったのは自分じゃないのだ。この映画にはそんな溝を超えようとした音楽好きと、孤独な天才が出てくる。
その天才の名はフランク(マイケル・ファスベンダー)。彼はかぶりものをしていて、パッと見だと、かわいこぶってやがる!とムカつくかもしれない。ところが映画が始まると、このかぶりものがかなりマジな存在ということにビビってくる。なんかガタイもいいし、つねに顔が隠れていて何を考えてるのか分からない。それを平然と受け入れている周囲のバンドメンバーも含めて、画面には不気味さが充満してくる。ところが映画が進むと、ついには好きになっているのだ。フランクは才能に満ちあふれていて、歌い方はちょっとイアン・カーティスっぽい。やさしくて、自信に満ちあふれていて、そしてあからさまに弱点がある。なによりそれがいつもモロ出しになっているのが愛おしい。
そのバンドに巻き込まれる冴えない宅録青年、それが本作の主人公(ドーナル・グリーソン)。彼の巻きこまれかたには、NICOのドキュメンタリー『NICO ICON』(スザンネ・オフテリンガー監督)に出てくる、キーボーディストを思い出した。ある日、ちょっとしたきっかけでヴェルヴェット・アンダーグラウンドに加入する。その様子を「それでおれの学生生活も、普通の人生も終わった。まるでタイムトンネルに入ったみたいに、ツアーバンの中だけに存在する奇妙な宇宙に住み込むことになった...。」と彼は説明する。突然のチャンス、そして人生はまったく変わる。これぞバンドの真実なのだ! ただし本作の主人公が連れて行かれたのは、ツアーではなくレコーディング合宿だった。他のメンバーは、屈折した暗いやつらばかり。そこでは、仮面なので表情がまったく変わらないフランクだけが、明るく活力にあふれている。
技術ではなく、精神的な深みを重視する彼らの合宿は、カルト教団のコミューンじみていて気味悪い。主人公は女のメンバー(マギー・ギレンホール)からねちねちと攻撃され、フランス語を話す男(フランソワ・シヴィル)からもじっとりと敵意を向けられる。バカにされた主人公が、「俺も作曲してるんだ」と思わず口を滑らせるシーンがいい。するとすぐにその曲を聴かせてくれと迫られてしまうのだ。「いやちょっと心の準備が......」「指をウォーミングアップしないと......」言い訳する主人公を、見透かすような見つめてくる女メンバー。なんともイヤミな感じだが、創造と社交はちがう。フランクは主人公を鼓舞し、カーペットから逆立つ一本の毛からだって曲は作れるんだと、即興をしてみせる。天才の無邪気さと、この世には天才とワナビーがいるということを知っているメンバーたちの冷めた視線。普通の奴にすぎない主人公が、どうやって居場所を見つけていくのか。
その後、彼らのバンドはSXSWフェスからお誘いがきたり、(ピッチフォークではなく)VICE系の音楽メディアNOISEYに取り上げられたりという、細かいところで今っぽい展開をかましていく。が、基本は「いつのまにかユーチューブでバイラル化していて......」という、最近の夢をつかめ系映画あるあるの枠を出ない。そしてバンドは大成功......!でハッピーエンドになればよくあるボンクラムービーなのだが、本作はちがった。そこから創造と孤独、ワナビーとそこに隠されたエゴをめぐって、大きくストーリーを転換させていくのだ。
自分を隠すと楽になるっていうのは、フランクほど極端じゃなくても、よくわかる。例えばサングラスをかけると守られている気分になる。それにマスク。風邪じゃないのに、表情を隠すためにマスクをしている人がいる。もうちょっと凝るなら、性格を作るのもいい。竹中直人なんかはフランクばりにキャラクターで防御していて、彼は本心を隠しているにちがいない。一番奥には本心をみられることへの恐怖があって、それは孤独を生み、でもそれこそが創造の秘密になっている。
SXSWに出演が決まるころからフランクはどんどんかわいくなっていく。彼の中に「みんなに好かれたい」という気持ちが芽生え、動きがオーバーリアクションに、着ぐるみ的になっていくのだ。しかしそれは他人の前に自分をさらけ出す恐怖と、表裏一体でもあった。一方の主人公も、ますますエゴを肥大化させる。フランクとそのバンドの輝きを自分のものにしたい、それと一体になりたい。この映画、主人公とフランク、どちらに感情移入していても、後半はすごく苦しい展開だ。だからこそ最後のシーンは感動的だった。何かを素晴らしいと思う時、ある音楽や映画が光り輝いて見える時。それを選ぶと同時に、あなたも選ばれている。その時、その思いを共有する人たちはひとつの宗教に入っているんじゃないだろうか。それに対して裏切ったり、またはエゴを爆発させてワナに落ちようが、少なくともはじめに音楽が好きだったことにはちがいない。それって、一度もなにかに心を奪われて、夢中になったことのない人間よりはずっとマシじゃないか! だから主人公の背中に俺はお前も仲間だと最後、話しかけたくなった。
文=ターHELL穴トミヤ
決して被り物を脱がない奇妙な男、フランク。
彼の"心"を覗き見たとき、あなたはその素顔に出くわす――
『FRANK -フランク-』
全国順次ロードショー
※12月6日より、渋谷の映画館UPLINKにて、復活上映が決定!
16:30〜の1日1回上映となります。
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映画『FRANK -フランク-』公式サイト
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