(c)2009「のんちゃんのり弁」製作委員会
WEBsniper Cinema Review!!
やみくもなヒロイン、下町、大人、愛ある間合い。
『モーニング』(講談社)で1994〜95年に連載されていた人気漫画の映画化。小西真奈美が熱演するヒロインと脚本の妙が描き出す、ハリウッド的でもTVドラマ的でもない日本映画ならではのテーマとは。倍賞美津子、岸部一徳、岡田義徳、村上淳、山口紗弥加など脇を固めるキャストにも注目。
有楽町スバル座ほか全国にて公開中
入江喜和の同名コミック(講談社)を『いつか読書する日』の緒方明監督が映画化。東京下町育ちの31歳主婦・永井小巻(小西真奈美)は働かないダメ夫に愛想を尽かして娘の「のんちゃん」と共に母のいる実家の京島に出戻った。しかし資格も職歴もない彼女の前途は多難。入社面接には落ちまくり、友人の紹介で始めた水商売もひと晩でリタイアしてしまう。無職のまま貯金も底をつくかと思われた頃、のんちゃんのために毎日作っていたのり弁が幼稚園中で大人気になったことから小巻は弁当屋の開店を夢見始める――。
離婚を拒否して小巻とのんちゃんにまとわりつくダメ夫(岡田義徳)、そんな娘夫婦を適当な距離を置いて冷静に見ている小巻の母(賠償美津子)、小巻に恋心を抱く高校生時代の同級生(村上淳)、小巻の料理の師匠となる居酒屋店主(岸部一徳)。物語は小巻を加えたこの5人の関係を描きながら進んでいく。思い立ったら即実行! そんな小巻の奮闘ぶりは小気味よく、「考えるより行動しよう」「思い切り人にぶつかってみよう」そんな刺激を得て元気になる人も多いはずだ。が、面白いのはこれがいわゆるサクセスストーリーや親子愛の話ではないところ。
何しろ小巻が(脚本的に)あぶなっかしすぎる。旦那との話し合いは十分でないし、弁当屋になろうと思ったのも辛い就職活動から逃げ出す形で閃きにすがりついたような印象だし(この時点でこの映画が弁当屋を開けるかどうかという話ではないことが分かる)、カッとすると状況を忘れて大立ち回りを演じてしまう問題だらけのヒロインなのだ。人によっては小巻を応援しようという気持ちでは観られないのではないだろうか。それどころかのんちゃんの描かれ方一つでは(たとえばちょっとでも暗い感じだったりしたら)誰もが小巻を「ダメ母」と非難する映画になってしまうだろう。ここは本当に紙一重。
一見、小巻の生き方が物語の中心にあるように見える。あるいはのりちゃんの健やかさや可愛らしさを作品の象徴として見る人もいるかも知れない。しかし肝になっているのは、小巻の行動力が胸を衝くとか親子を含めた人と人の繋がりが熱いというようなことではなく、各シーンで表現される登場人物同士の、繋がりではなく距離なのだ。賠償美津子や岸部一徳の小巻に対する過保護でない突き放した接し方、村上淳の自他を割りきった控えめなアプローチ、のんちゃんの放っておかれ方。だからジェットコースター的な展開やヒロインの美点に引き込まれながらも、最後に印象として残る心地よさはカタルシスとは別のものである。
『いつか読書する日』では30年越しの恋を描いた監督が改めて描く、下町の大人の愛ある間合いとは何か。ハリウッド的でもTVドラマ的でもない、日本映画ならではのテーマが扱われている点に監督の意欲がうかがえ、そのことが今を感じさせる。型にはまった人情話としては片付けてしまいたくない、独特のひねりを持った記憶に残る映画だ。
緒方明監督作品
『のんちゃんのり弁』
有楽町スバル座ほか全国にて公開中
監督=緒方明
原作=入江喜和
脚本= 鈴木卓爾、緒方明
キャスト=
小西真奈美|岡田義徳|村上淳|佐々木りお|山口紗弥加|岸部一徳|倍賞美津子|
製作総指揮=木下直哉
製作代表=唯敷和彦|小柳直人|小池武久|林尚樹
配給=キノ フィルムズ
2009年|カラー|35ミリ|アメリカンビスタ|DTSステレオ
関連リンク
映画「のんちゃんのり弁」公式サイト
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井上文1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。
離婚を拒否して小巻とのんちゃんにまとわりつくダメ夫(岡田義徳)、そんな娘夫婦を適当な距離を置いて冷静に見ている小巻の母(賠償美津子)、小巻に恋心を抱く高校生時代の同級生(村上淳)、小巻の料理の師匠となる居酒屋店主(岸部一徳)。物語は小巻を加えたこの5人の関係を描きながら進んでいく。思い立ったら即実行! そんな小巻の奮闘ぶりは小気味よく、「考えるより行動しよう」「思い切り人にぶつかってみよう」そんな刺激を得て元気になる人も多いはずだ。が、面白いのはこれがいわゆるサクセスストーリーや親子愛の話ではないところ。
何しろ小巻が(脚本的に)あぶなっかしすぎる。旦那との話し合いは十分でないし、弁当屋になろうと思ったのも辛い就職活動から逃げ出す形で閃きにすがりついたような印象だし(この時点でこの映画が弁当屋を開けるかどうかという話ではないことが分かる)、カッとすると状況を忘れて大立ち回りを演じてしまう問題だらけのヒロインなのだ。人によっては小巻を応援しようという気持ちでは観られないのではないだろうか。それどころかのんちゃんの描かれ方一つでは(たとえばちょっとでも暗い感じだったりしたら)誰もが小巻を「ダメ母」と非難する映画になってしまうだろう。ここは本当に紙一重。
一見、小巻の生き方が物語の中心にあるように見える。あるいはのりちゃんの健やかさや可愛らしさを作品の象徴として見る人もいるかも知れない。しかし肝になっているのは、小巻の行動力が胸を衝くとか親子を含めた人と人の繋がりが熱いというようなことではなく、各シーンで表現される登場人物同士の、繋がりではなく距離なのだ。賠償美津子や岸部一徳の小巻に対する過保護でない突き放した接し方、村上淳の自他を割りきった控えめなアプローチ、のんちゃんの放っておかれ方。だからジェットコースター的な展開やヒロインの美点に引き込まれながらも、最後に印象として残る心地よさはカタルシスとは別のものである。
『いつか読書する日』では30年越しの恋を描いた監督が改めて描く、下町の大人の愛ある間合いとは何か。ハリウッド的でもTVドラマ的でもない、日本映画ならではのテーマが扱われている点に監督の意欲がうかがえ、そのことが今を感じさせる。型にはまった人情話としては片付けてしまいたくない、独特のひねりを持った記憶に残る映画だ。
文=井上文
緒方明監督作品
『のんちゃんのり弁』
有楽町スバル座ほか全国にて公開中
監督=緒方明
原作=入江喜和
脚本= 鈴木卓爾、緒方明
キャスト=
小西真奈美|岡田義徳|村上淳|佐々木りお|山口紗弥加|岸部一徳|倍賞美津子|
製作総指揮=木下直哉
製作代表=唯敷和彦|小柳直人|小池武久|林尚樹
配給=キノ フィルムズ
2009年|カラー|35ミリ|アメリカンビスタ|DTSステレオ
関連リンク
映画「のんちゃんのり弁」公式サイト
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