WEB SNIPER Cinema Review!!
韓国バイオレンスの頂点にして傑作と呼び声も高い、想像を絶する衝撃作!!
わずか9人の住人だけが暮らす絶海の孤島で日常的に虐げられてきた女性。そして都会の生活に疲れて子供の頃に暮らしたその島を訪れた女性銀行員。二人は幼なじみだったが……。人間の持つ残酷さと醜さをえぐり出し、カンヌ国際映画祭批評家週間に出品されると同時に注目を集めた衝撃の問題作!!大絶賛公開中!
途中、余りに女性に対する扱いがヒドいので「こんな腐った島はナパーム弾で焼き払え!」とか「儒教が悪い! 全ての孔子像をマリアナ海溝に沈めろ!」などと叫びたくなるのだが、これを心の嫌ツボマッサージと名付けよう。
本作の主人公へウォンはソウルに住むキャリウーマン。ストレスに追いつめられた彼女は、生まれ故郷の島へと帰省する。ところが、そこは一組の兄弟とその母親が島全体を牛耳る、恐怖の嫌ツボ島になっていた!という訳で主人公はそこで、島の歪みを一手に引き受ける、幼なじみのボンナムの姿を発見する。
ここからの怒濤の嫌ツボは映画で確認してもらうとして(家庭内暴力とか、ほんとに嫌なだけのシーンが続くんだけど)観ているうちに「おや?」と思うのは、この主人公の存在感のなさだ。
舞台がこの島に移ってから痛めつけられ、追いつめられ、行動するのは全て幼なじみのボンナムだけで、主人公はと言えば何もしない。映画の後半、大スプラッターが始まり嫌ツボは一挙解消!するのだが、そこでも主人公の存在感はほとんどないのだ。ところが、観ているとやがて「何もしない」ということ自体がこの映画の主題なのだと気づいてくる。
冒頭、銀行の窓口に勤める主人公が『スペル』(サム・ライミ監督)ばりに老婆を追い返すシーンがある。『スペル』ではその後、主人公は老婆の呪いを受けてしまうのだが、本作の呪いは最初から彼女の中にある「無関心」だったのだ。これが何とも新しい。
嫌ツボを観ていると、もう島の人間は最悪だし、対するボンナムも良く言えば純朴だが、はっきり言って愚鈍で、もう全てがめんどくさくなり、この島は駄目すぎる! 全部消えてくれ!と思わずにはいられない。ところがそれこそが主人公と同じ、「他人と関わりたくない」という呪いだと気づかされる。
この歩く「無関心」、スォンを演じるチ・ソンウォンの顔がまた、河井克夫が描きそうな(辛酸なめ子のマンガに出て来るセレブな場所に集まる人たちのような)、美人ではあるけど、無表情な、自己本位な感じが出ていてよかった。「無関心」を演出するための、彼女の怒濤のスルーっぷりはもはやギャグの領域で、これはこれでおもしろい。
田舎は嫌だなあと思ってスプラッター映画を観ているうちに、当の都会の人間が陥っている「無関心」の罠に気づかされる。今だったら、原発誘致の地元説明会に足を踏み入れてしまい、「絶対安全です」という説明を聞いた後に、見なかったことにしてこっそり裏口から帰る感じだろうか。またはYoutubeで「隠された被曝労働!」みたいなドキュメントを観て「やべー」と思いつつノートパソコンをそっと閉じる感じだろうか。
めちゃくちゃな理論で抑え続けられ、スルーされ続けていたボンナムはその後ついに爆発してしまう。全てがおわった後にやって来た彼女を目の前に、都会のスウォンは「無関心」の落とし前をどうつけるのか。
エンドロールの2人の姿にはやるせないにしろ、スプラッターの果ての救いがある。プログラムピクチャーの形を借りて、現代人をきってくる本作。ただの娯楽で終わらない、予想外の良作骨太ムービーだった。
文=ターHELL穴トミヤ
『ビー・デビル』
大絶賛公開中!
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映画『ビー・デビル』公式サイト
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