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『愛の予感』『春との旅』など、国際的な評価高い小林政広監督の最新作!
東日本大震災の傷跡を残す宮城県気仙沼市の一軒屋へ、ニューヨークでダンサーをしている長女・高子と東京で暮らす主婦の次女・伸子が帰ってくる。独りで家の番をしてきた三女・里美は溜め込んでいた怒りを爆発させ、3人は互いに傷つけ合うが......。小林政広監督自身も居を構える土地で撮影が行なわれた、抜き差しならない人間ドラマ。2012年7月28日(土)よりユーロスペース、シネ・リーヴル梅田他、全国順次公開
まず、チラシに書いてあるキャッチコピーはこうだ。
――ギリギリの三姉妹が、愛を叫ぶ。自分をもっと愛して!
うわー、こりゃちょっと重くないですか。
しかも映画の撮影地は、小林政弘監督が居宅をもち昨年3月の東日本大震災で被災した宮城県気仙沼市。でもって映画のタイトルは『ギリギリの女たち』。うわー、やっぱり重いわー!!
いきなり私事で恐縮なのだが、筆者は今年41歳。梅雨の低気圧にヤラれて気持ちは澱むわ偏頭痛はするわで、まさに心身ともにギリギリな状態。「あれ、もしかしたらこれって噂の更年期ってヤツなんじゃないの?」と怯える毎日なんである。
正直、「ああ、こんなときにこんな映画観て死にたくなったらどうしよう......」と、ビクビクしながら観始めたのだけれど、意外にも映画館から出たときには妙にスッキリして、そこらへんにいるおっさんに昼酒でもおごりたくなってしまった。
というわけで、いいトシだしお金もないし男もいないしそろそろ更年期くるしもうギリギリだわ~、って女性にこそ観てほしいのがこの作品だ。
2011年、夏。震災の傷跡が残る気仙沼市。3.11をきっかけに、ニューヨークでダンサーをしていた長女の高子(渡辺真起子)が実家である一軒家に帰ってきた。水道も電気も止まった我が家で、高子は同じく故郷を離れて今は東京で主婦をしている次女・信子(中村優子)と再会する。しかし、家を捨てて15年後に会った2人の会話はなかなか噛み合わない。
そこに、姉たちに取り残され、以来一人で家を守り続けてきた三女・里美(藤真美穂)が現われ、身勝手な姉たちに対する怒りをあらわにする――。
さっき「観終えた後は妙にスッキリ」と書いたけれど、それはたぶん物語の構造がそうなっているからで、実際には上映時間の101分中60分くらいは三姉妹の言い合いだ(ちなみに残りの30分は泣き、最後の10分がスッキリタイム)。
いきなり帰ってきた姉たちに「今さら何しに来たの。出ていけ!」と怒りをあらわにする真面目な里美。高校生の妹を一人にして家を出て行ったのに謝ることもなく、彼女の怒りを受け流すスカした信子。「あ~、頭痛がする~。頭の病気なのよ~」と四六時中寝てばかりいる自由な高子。
最初のうちは「うわ、高校生置き去りにするなんて、ひでえ姉ちゃんたちだな!」と思って観ていたのだけれど、実際には自由人に見える高子にも「病気の父親の面倒を10年もみた自分が夢を追って何が悪いの?」って言い分があることがわかってくる。次女の信子にしても「長女でもないのに家に残る必要はない」と思っていて、ついうっかり自分に置き換えてしまうと、一概に誰が悪いとは言い切れないような気がしてくる(女というのは自分勝手なものなのですよ!)。
しかし、そんな平行線の言い合いの中でも、里美が信子を「小ちゃいお姉ちゃん」と昔の呼び名で呼び出した頃から少しずつ姉妹の距離は縮まっていく。
何十分もかかって買い出しに行ってカレーをつくったり、夜は電気のない暗い部屋でこれまでのことを少しずつ話したり、昔よく遊んだ浜へ行ったり。
その中で浮き彫りになってくるのは、一見自由で華やかに見えた長女と次女もかなりキツい状態にあるということだ。
長女の高子はダンスの師匠兼情夫だった男に死なれ、もういい歳なうえにひどい頭痛(病気?)を抱えている。一方、次女の信子も実は精神を病み、夫に離婚されて自殺を考えていたという塩梅。もうほんと、全員笑っちゃうくらいにギリギリなんである。
舞台はほぼ家の近所で、登場人物は三姉妹だけ。そしてワンショットが長く(なんと冒頭のシーンは35分ノーカット!)全編を28カットで撮っているという本作。こんな感じで、いかにも女女した辛気臭い感じで物語は進んでいくのだが、暗い気持ちにならないのはなんといっても三姉妹のキャラが立っているせいだろう。
特に、長女役の渡辺真起子は半分くらい頭痛で寝ている役なのに、すごい存在感。引きの画面が多い中、カメラに向かってドアップで話しかけるシーンがあるのだけれど、不健康そうなすっぴん顔から繰り出されるセリフはまるでドキュメンタリー映画のようでグッとくる。
さっきのチラシを裏返してみたら、こう書いてあった。
「いつの時代、どんな状況でも女はたくましく、強く、愛を与え、愛を欲する!」
いやいや、ちょっと待て。
私がこの映画を観てスッキリした気持ちになったのは「女はたくましくて強い」なんて陳腐なメッセージを感じたせいじゃない。逆に、この映画に出てくるのが本当にギリギリで、勝手で、計画性のないダメな女たちだからだ。同じ中年女で将来設計はゼロ、なのにたいしたアクションも起こさず毎日をやりすごしている私にとって、三姉妹のダメさは他人事じゃない。でも、そんなダメな女たちもなんとか死なずに生きている。それを見て安心するからだ。
ラストシーン、姉妹らしさを取り戻しつつある3人は、特別に仲良くもなく、かといっていがみ合いもしないまま庭で白米のおにぎりを食べる。
「私、決めた。生きる! 働く! また男つくる! 子供産む!」
とハイテンションで叫ぶ次女。状況はまったく改善してないし、所持金ゼロだし、たくましいというよりどう見てもやけっぱちだ。でも人間て、こんな状態でも一人じゃなきゃポジティブになれる。
何もないけど天気だけはいい庭先で笑い転げる女たちを見ていたら、更年期予備軍のしがないライターである筆者もまだまだいけるぞ、って気になった。
文=遠藤遊佐
東日本大震災後の2011年夏、
被災地で生まれたギリギリの女たちのヒューマンドラマ――
FLV形式 3.92MB 1分25秒
『ギリギリの女たち』
2012年7月28日(土)よりユーロスペース、シネ・リーヴル梅田他、全国順次公開
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映画『ギリギリの女たち』公式サイト
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