WEB SNIPER Cinema Review!!
石垣島の「食べるラー油」を全国に知らしめた夫婦の心温まるドラマ!!
フリーライターの歩美(小池栄子)は中国人のカメラマン・ギョウコウ(ワン・チュアンイー)と遠距離恋愛を経て結婚するが、その後、ギョウコウの勤めていた会社が倒産、彼は失職してしまう。気晴らしに石垣島を訪れた2人は島への移住を決意。地元の食材を用いた新しいラー油を作ろうと奔走し、さらにギョウコウの帰化申請をするのだが......。10月20日(土)全国ユナイテッド・シネマ 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
昔は、ヒットした歌謡曲を元に映画を一本作っちゃうなんてことがありました(『二人の銀座』とか)。ハリウッド映画では、ヒットした自己啓発本を元に映画を作っちゃうなんてこともあるみたいで(『百万長者と結婚する方法』とか)、まあ原作=小説や事件とは限らない、映画っていうのは何からでも作れるんだなー、と思ってたんですが本作。なんと食べるラー油が原作の映画だっていうんだから驚きじゃないですか! 原作:食べるラー油 ってこれどういうことですか! 興奮する!
と思ってかけつけたら、『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』(マガジンハウス刊)という本が原案としてやっぱりあったんですね。「ラー油を言語として解釈する」みたいな映画かと思ってたんでちょっとがっかりしましたが、小池栄子のおっぱいが大きかったから全然もんだいない。いや、演技もよかったです。
ちなみに原作になったのは「石垣島ラー油」。これは石垣島に移住した辺銀愛理さん夫婦が開発したラー油で、食べるラー油ブームもそもそもここから始まったと言われている、いわばラー油界のi-Macみたいな感じでしょうか(ちがいますね)。
原案となった本は、辺銀さんが書いた結婚から石垣島移住を経てラー油誕生へと至るまでのエッセイ。レシピや石垣島の人たちへのインタビューも載っていて、映画はそれを、中国籍の夫が日本国籍を取得できるどうかの、一種のサスペンス仕立てにして再構築している。新たに法務局職員(深水元基)というキャラクターが登場することで、いわば彼が主人公夫婦と観客の仮想敵として立ちはだかり、観てる方は「果たして夫の帰化申請は通るのか?」と最後までハラハラしながら、面接にあわせて石垣島生活を追っていく...という、なるほど、こうすれば映画になるのか!という、うまい作りになっていました。
主人公夫婦を演じるのは小池栄子と、ワン・チュアンイー。2人の石垣島移住は、東京でカメラマンをしていた夫の失業をきっかけに始まります。じゃあひまだし遊びにいこうと石垣島に訪れて、郷土料理屋の味に感動した小池栄子が、なんとその場で「ここで働くわ!」と決断しちゃう。そして次のカットではもう家を探しているんですが、石垣島の家は島人の保証人がいなければ借りられないということが判明します。へーと思っていると、その帰りにバス停でナンパして来たおじいに保証人になってもらって一件落着、というすごい展開なんですが、このへん、本を読むと仕事をゲットするにも巻物みたいな手紙を書いたり、辺銀愛理さん実際はかなりの行動力で石垣島生活を切り開いていった、やり手の女性なんですね。
そして、海、ごはん、鳥の声...と、2人のゆったりした暮らしが始まり、やっぱりご飯映画ですよ。夫も妻も料理が得意で、食事シーンもうまそうに進んでいって、そんなある日、小池栄子がフリーマーケットのお知らせを見つけてくる。そこで「行こう行こう」と答える中国人夫に「行こうじゃないでしょ? 出そうでしょ!」と小池栄子の厳しい突っ込みが入るあたり、やっぱり彼女は意識が違いますね。人生の傍観者ではない訳です! そして2人が思いついたのが、いつも自宅で使っていた自家製ラー油でした。
そこから、ラー油を「石垣島」ブランドにするべく、おばあに島唐辛子を分けてもらったり、島の調味料ピパーチのため頑固なおじいの元に通ったりの試行錯誤が始まる、とはならず、「ウソを、つくなー!」(机バーン)というね。面接官が激怒してる。もう 原作:食べるラー油 で観に来てるこっちは、エー!?!っていう、そこはウソじゃないでしょー!?って思うんですが、そのまま、「全部分かってるんだよ!」と有無を言わさず、ラー油工場に警官隊が突入! この無理矢理すぎる展開には「なにがなんでもラー油を、映画にするんだ」という、製作陣の固い決意を感じましたね。『かもめ食堂』とは違う、『ペンギン夫婦の作りかた』は、なんか人がもみくちゃになったりして、いいじゃないか! と感動しました。
さらに映画化にあたっては、夫が癒し系なのはいいとして、その反動なのか小池栄子演じる妻がしきり屋として相当ブーストされている。ワン・チュアンイーの日本語がたどたどしいところにもってきて、小池栄子から「帰化面接」突破への駄目だしがバンバン入るんですが、発音を直されるのはもちろん、本当は小池栄子が石垣島に旅行にきたがったのに「私の夢のために、妻が仕事をあきらめ石垣島移住を決意してくれました」とか都合良く改変されちゃう。
観ていて、夫婦生活天秤がウワっ、キッツイな?と、おっぱい大きいからいいか、の間をつねに行ったり来たりしていたんですが、そこにきて最後のオチ。「ペンギンに秘められたもうひとつの意味」で、さすがの大きいおっぱいも石垣島沖に向かって飛び出していきました。
夫が外国籍から日本国籍に変わる時、名字を自分で自由に決めることができる。そのとき2人は「ペンギン」好きだから「辺銀」という名字にしたというのは本に載っています。ところが、そこにはもう一つの秘められた意味があった! というのが(多分、女性客の方が圧倒的に多いであろう)映画版のミソになっている。その理由を「改名してから」明かしたあのシーンで、本作の小池栄子奥さまをバッチリ受け止めることができるのは、大陸的なおおらかさを持ったあの夫しかないという気づきを得ることができました。
「石垣島の"食べるラー油"に隠された、ちょっぴりカラい、とっておきのお話」という本作のキャッチコピー、それはおっぱいが好きなだけじゃだめなんだ!という結婚生活の真理のことだと分かり、少しだけ大人になることができました。
文=ターHELL穴トミヤ
石垣島の"食べるラー油"に隠された、
ちょっぴりカラい、とっておきのお話――
『ペンギン夫婦の作りかた』
10月20日(土)全国ユナイテッド・シネマ 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
関連リンク
映画『ペンギン夫婦の作りかた』公式サイト
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