WEB SNIPER Cinema Review!!
日本統治下の台湾で起きた壮絶な事件を渾身の映画化
1930年、日本統治時代の台湾で起きた、先住民による大規模な抗日運動「霧社事件」を描いた2部構成の歴史大作。日清戦争で清が破れ、台湾の山岳地帯で生きていた狩猟民族・セデック族は、これまでの伝統的な生活を無理やり奪われていく。そんな折、ある出来事をきっかけにセデック族の蜂起が起こり......。公開中 全国順次ロードショー!
総時間4時間36分!(えー!) 「日本人を殺せ!」「日本人を皆殺しにしろ」(ええー!) 主人公は台湾の首狩り族!(えええー!) 大日本帝国による台湾統治時代に、先住民族たちが一斉蜂起した史実(通称・霧社事件 むしゃじけん)を元にした本作は、その奥にすべての非西洋文明が抱いている二律背反の苦しみ、伝統か、西洋文明かの分裂を抱えているのではないか~!?(DAYONE~!)
4時間36分ということで2部構成になっているんですが、前半は日本軍侵攻と、セデック族蜂起までを描いた「太陽旗」篇。後半は蜂起したセデック族が日本軍を前にして敗れ去っていく「虹の橋」篇。
主人公となるのは台湾の先住民族、セデック族のおとこたちで、彼らは山の中を裸で移動し、顔には入れ墨があり、弓矢や、ヤリ、そして(かなり原始的な)鉄砲を使いつつ狩りをして暮らしています。狩りの途中でほかの部族に出会えば即、殺し合いが始まり、殺した敵は、首を狩る! 顔の入れ墨は実写版『もののけ姫』なんですが、興奮したら「アイアイアイ~!」とか叫んでいて、「やだ~! 一瞬オシャレかと思ったけど実物はやっぱり野蛮~!」みたいな、原始のメンズが迫力たっぷりに登場する。
一方その頃、外の世界では清が日本に敗北。下関条約が結ばれ、台湾は日本の統治下になります。乗り込んで来た日本軍の指揮官が「台湾の中央部には、膨大な資源が眠っておーる!」とか言いながら地図の真ん中ら辺を差して、これはもう双方にとって未知との遭遇は避けがたい運命となって盛り上がっていくわけです。
で、さっそく日本軍の先発隊が襲われて全滅するんですが、セデック族は完全ゲリラ戦ですね。「桜がきれいじゃー」とかいって日本軍が寝てると、木の上からガンガン攻撃されちゃう。近代軍vs原住民の戦いを観たらこれはもう『アバター』であれ『ズールー戦争』であれ、原住民に肩入れせざるを得ない! アフリカ・バンバータは少年の頃『ズールー戦争』を観ていて、ズールー族がイギリス植民地軍に反撃を開始したその瞬間、インスピレーションに打たれたといいます。そのとき世界初のヒップ・ホップ・クルー「ズールー・ネイション」がこの世に生まれ落ちた! つまりヒップ・ホップは映画『ズールー戦争』なしには生まれ得なかったわけで、『セデック・バレ』にも世界的な新しい音楽の火種となることを期待したい!(セデック・ベースとか)
結局セデック族は最初の戦いに負けちゃうんですが、彼らは「藩人」と呼ばれつつ、現地の村で日本軍に取り込まれていきます。こっからこの映画、「日本語」「セデック語」「片言のセデック語と日本語」が入り交じっていくのがおもしろい。いやな男を演じさせたらピカイチ、木村祐一が現地警官として登場、彼もセデック語を喋るし、逆にセデック族も片言の日本語を喋る。コスモポリタンな雰囲気が漂うわけです。この和・漢・セデック折衷の村を日本美術界の巨匠、種田陽平(『スワロウテイル』『キル・ビル』)がデザインしています。
セデック族は木を切り出したり、労働力として使われていて、山の中でときどき元・敵対部族に会う。そうすると、アイコンタクトで「ファック、日本軍」みたいな連帯を見せるのかなと思いきや、あいかわらず「なんとかかんとか!(ライバルの名前)覚えておけ、俺はいつかお前を必ず殺す」とか言っている。お前ら、今それどころじゃないだろ!って突っ込みたくなるんですが、日本軍もそれを利用して地域を統治していき、それから35年......。って時間の経ちかたに驚きましたが、そこでちょっとした事件をきっかけに、セデックの蜂起が起こる。
そして怒濤の首狩りシーン! その間、足踏みオルガンで君が代を演奏という、タイタニックな演出もすごかったですけど、第一部はこんな感じで終わっていく。やっぱりアクション主体で盛り上がりました。
続く第二部はセデック族の負け戦なんですが、やっぱ第一部の勢いはない。しかし興味深いのはここでセデック族たちがとる行動、そもそも彼らは負けると分かっていて戦いを始めてるんですね。そのモチベーションは誇りと神話、戦士たちは「戦って死に、先祖の待つ虹の橋へ行こう」を合い言葉に突撃します。そして残された妻たちは「足手まといにならないように」とかいって山の奥で次々と集団自決で散っていく。この行動様式をみてると、負けると分かっていてアメリカと戦争を始めて、沖縄では市民が集団自決して、「死んだら、靖国で会おう」が合い言葉だった日本軍とどうしたって、ダブってくる。
するとここにキーマンが出て来て、花岡一郎、別名ダッキス・ノービンという、彼はセデック族でありながら日本名を与えられ、警官もやっているというネオ・セデック族とでもういうべき男です。その彼が板挟みになって、煩悶する。「死んでセデックの先祖の待つ虹の橋へ向かうか、天皇の赤子となって靖国へ行くか!」、彼の中には2つの神話が入っているわけです。その結論はどうなるのか! って悲劇的な最期なんですが、この映画に出てきた現代人は、この花岡一郎=ダッキス・ノービンだけだったんじゃないでしょうか。そして彼を反射板として、逆にそれぞれの神話に殉じて死んでいくセデック族と日本軍の兵士たちの類似点が浮かび上がってくる。
本作、製作にあたってビビアン・スーが一部資金提供をしていて、実は彼女も台湾少数民族出身(タイヤル族)です。映画に出てくるセデック族は、実際の台湾先住民族が演じている。そのせいなのかみんな顔がスーパー濃い、対する日本勢の顔の薄さもこれまたすごかった! とくに下っ端警官の人たち! もう木村祐一のいやらしさだけが、メガ堤防のように日本陣営の濃さの防波堤になってました。日本政府は「女性手帳」とか配ってる場合じゃない、今すぐ濃い顔体操などが載った「濃い顔手帳」を配るべきではないのか!
そんな本作ですが、作中もっとも印象的なのは濃い顔ではなく、蜂起の際のリーダー「モーナ・ルダオ」が先祖の霊と、輪唱をするシーン。歳をとったモーナ・ルダオを演じているのはプロの役者じゃない、普段は牧師をしている人です。しかし、歌がうまい。実はこの台湾先住民族というのは歌で有名で、「小泉文夫の遺産」という世界の民族音楽シリーズに『台湾先住民族』編というのがある。聴いてると非常にプリミティブな響きで、旋律がどこか日本のわらべ歌に近くて懐かしい。やっぱこのCDを聴くにつけても、日本もセデック族も同じ文化圏だと改めて思う。そしてこちらは戦争の起こし方をみても、太平洋戦争と霧社事件はスケール違いで同じものだった、というのが本作が暴いている真実なのではないか!? そんなとき、未来への萌芽を感じたのは花岡一郎。次の一手を感じたのは花岡一郎! ということで、ここでセデック・バレを反芻しながら、映画とは直接関係ない群馬のブラジル人アイドル・ユニット(日本文化で育ったブラジル人、ネオ・日本人ってことで)、リンダIII世を唐突にプッシュして筆を置きたいと思います。
文=ターHELL穴トミヤ
1930年10月27日。台湾の山深き村で起きた事件――
その真実を、いま世界が知る。
『セデック・バレ 第一部 太陽旗/第二部 虹の橋』
公開中 全国順次ロードショー!
関連リンク
映画『セデック・バレ 第一部 太陽旗/第二部 虹の橋』公式サイト
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