これがニッポンの選挙運動だ!
話題の秀作ドキュメンタリーが登場!
鉄道と旅と猫が好きな山さんは切手コイン商を営みながら気ままに暮らしていたところ、ひょんなことから自民党の公認候補に。市議会議員選挙に出馬することとなる。
政治家の秘書といった政治に関わる経験がない山さんは、いわば政治の素人そのもの。しかも選挙区となるのは地縁・血縁のない川崎市宮前区という、いわゆる落下傘候補。自民党の大物議員や小泉純一郎なども応援に駆けつけるなかで「どぶ板選挙」の行方は如何に!?
選挙運動といえば、駅前の街頭演説や街中で名前を連呼する選挙カーといったイメージが真っ先に思い浮かぶのではないだろうか。そうした光景に代表されてしまうほど、私たちが選挙運動について知っていることは案外少ない。
この良質なドキュメンタリーは選挙運動の裏側を描いている作品ではあるが、そこに主眼を置いてはいない。もちろん選挙運動に伴う知られざる事実のいくつかを作中で発見することは可能だし、自民党が永きにわたって築き上げた“民主主義”システムの根幹を見ることもできるだろう。しかしこの作品の魅力はそういった政治的モチーフとは違うところにこそ多数見受けられる。そのひとつはドキュメンタリーだからこその説得力を持った人間味溢れる登場人物たちだ。
傍から見ると思わず和んでしまうようなマイペースぶりの山さんだが、その反面、周囲の人たちの心配ぶりが非常によく伝わってくる。実際、選挙運動の常識を知らない山さんはことあるごとに怒られてばかりいるのだが、わずかな休憩時間に「鉄道ジャーナル」を開いたりしながら決して腐ることなく選挙運動をやりとげる。また仕事を休んで応援に駆けつけた妻がこぼす赤裸々な愚痴の数々や、事務所ボランティアたちのあけすけな世間話など、そこにはバラエティ番組や劇映画では決して見ることの出来ない人間たちが映し出されている。
また選挙運動を通して、我々が普段意識することのない“ニッポン”の姿が奇妙なものとして立ち現れていることにも注目だ。児童たちが立ち並ぶ運動会から老人たちの運動会にまで顔を出してはラジオ体操に興じる山さん。地元のお祭りでは掛け声を上げながら神輿を担がされる。朝の通勤時間に一列に並んで、まるで儀式のように声を張り上げるさまや、殺人的な朝のラッシュ、野菜の無人販売所などなど。生々しくユーモラスな“ニッポン”を映し出すのはNY在住の想田和弘監督。確かな実力を感じさせる。
監督はこの作品を「観察映画」と名づけているが、まさに言い得て妙だ。音楽やナレーション、テロップなどが一切排除されたこの作品は、映像を注視することで鑑賞者それぞれ異なる受け止め方が可能だろう。選挙や選挙運動に対する詳細な予備知識は不要であるし、政治に対する興味の有無さえ問われない。このドキュメンタリー作品『選挙』は様々な要因を含みながらもおそろしく巧みに演出された、非常に良質な映像作品である。
関連リンク
『選挙』公式ウェブサイト
『選挙』
6月9日より、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー!
監督・撮影・編集:想田和弘
製作:Laboratory X, Inc. 協力:IFP
登場人物:山内和彦、山内さゆり、小泉純一郎、川口順子、石原伸晃、萩原健司、橋本聖子 ほか
ドキュメンタリー|120分|カラー|日本/アメリカ|デジタル上映(16:9/ステレオ)
話題の秀作ドキュメンタリーが登場!
(c) Laboratory X, Inc |
第57回ベルリン国際映画祭 フォーラム部門正式出品作品 『選挙』 監督・撮影・編集=想田和弘 |
鉄道と旅と猫が好きな山さんは切手コイン商を営みながら気ままに暮らしていたところ、ひょんなことから自民党の公認候補に。市議会議員選挙に出馬することとなる。
政治家の秘書といった政治に関わる経験がない山さんは、いわば政治の素人そのもの。しかも選挙区となるのは地縁・血縁のない川崎市宮前区という、いわゆる落下傘候補。自民党の大物議員や小泉純一郎なども応援に駆けつけるなかで「どぶ板選挙」の行方は如何に!?
選挙運動といえば、駅前の街頭演説や街中で名前を連呼する選挙カーといったイメージが真っ先に思い浮かぶのではないだろうか。そうした光景に代表されてしまうほど、私たちが選挙運動について知っていることは案外少ない。
この良質なドキュメンタリーは選挙運動の裏側を描いている作品ではあるが、そこに主眼を置いてはいない。もちろん選挙運動に伴う知られざる事実のいくつかを作中で発見することは可能だし、自民党が永きにわたって築き上げた“民主主義”システムの根幹を見ることもできるだろう。しかしこの作品の魅力はそういった政治的モチーフとは違うところにこそ多数見受けられる。そのひとつはドキュメンタリーだからこその説得力を持った人間味溢れる登場人物たちだ。
傍から見ると思わず和んでしまうようなマイペースぶりの山さんだが、その反面、周囲の人たちの心配ぶりが非常によく伝わってくる。実際、選挙運動の常識を知らない山さんはことあるごとに怒られてばかりいるのだが、わずかな休憩時間に「鉄道ジャーナル」を開いたりしながら決して腐ることなく選挙運動をやりとげる。また仕事を休んで応援に駆けつけた妻がこぼす赤裸々な愚痴の数々や、事務所ボランティアたちのあけすけな世間話など、そこにはバラエティ番組や劇映画では決して見ることの出来ない人間たちが映し出されている。
また選挙運動を通して、我々が普段意識することのない“ニッポン”の姿が奇妙なものとして立ち現れていることにも注目だ。児童たちが立ち並ぶ運動会から老人たちの運動会にまで顔を出してはラジオ体操に興じる山さん。地元のお祭りでは掛け声を上げながら神輿を担がされる。朝の通勤時間に一列に並んで、まるで儀式のように声を張り上げるさまや、殺人的な朝のラッシュ、野菜の無人販売所などなど。生々しくユーモラスな“ニッポン”を映し出すのはNY在住の想田和弘監督。確かな実力を感じさせる。
監督はこの作品を「観察映画」と名づけているが、まさに言い得て妙だ。音楽やナレーション、テロップなどが一切排除されたこの作品は、映像を注視することで鑑賞者それぞれ異なる受け止め方が可能だろう。選挙や選挙運動に対する詳細な予備知識は不要であるし、政治に対する興味の有無さえ問われない。このドキュメンタリー作品『選挙』は様々な要因を含みながらもおそろしく巧みに演出された、非常に良質な映像作品である。
関連リンク
『選挙』公式ウェブサイト
『選挙』
6月9日より、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー!
監督・撮影・編集:想田和弘
製作:Laboratory X, Inc. 協力:IFP
登場人物:山内和彦、山内さゆり、小泉純一郎、川口順子、石原伸晃、萩原健司、橋本聖子 ほか
ドキュメンタリー|120分|カラー|日本/アメリカ|デジタル上映(16:9/ステレオ)