WEB SNIPER Cinema Review!!
諜報機関が使う乱数放送(英名:NumbersStation)を題材にしたサスペンス・アクション
任務中のあるミスが原因で現場を外され、イングランド東部にあるCIA乱数放送局に左遷されたエージェントのエマーソン(ジョン・キューザック)。乱数の送信係を務める暗号作成のプロ、キャサリン(マリン・アッカーマン)を護衛する任務に就くが、謎の武装集団に基地を攻撃されたことから、巨大な陰謀に巻き込まれていく――。2作品連続上映「ジョン・キューザック スペシャル」Part.2!公開中!
元CIAのスノーデン氏が暴露しまくり、実はアメリカには全国民、全世界の通話・通信を盗聴しまくる機関が存在した!とか、イギリス政府もG20で盗聴!などのニュースがちまたを騒がせている昨今。やっぱり今でもいるんですね、やってるんですね、スパイ活動! ロマンですね~!と興奮しますが、本作が題材とするスパイ活動は相当地味かつオールドスクールで、思い切り時代の波に乗りそこねているのが良いですね。なにしろ、数字をひたすら読み上げるだけの暗号短波ラジオ局を舞台とした、スパイアクション! もう設定聞くだけで「なんて地味そうなんだ......」と思いますが、ここですごいアイディアが! テロリストたちがそこに攻め込んでくれば、アクション映画になるわけです!って、せっかく変わった題材を選んだ割には、結局それかって感じもしましたけど。
ちなみに本作はすでに公開された『コレクター』に続く、ジョン・キューザック・スペシャルの第2弾。この二作は奇しくもどちらも地下が舞台なんで、キューザックファンのみならず、最近目が疲れてる人なんかにも光量少ない感じでピッタリじゃないでしょうか。
今回ジョン・キューザックが演じているのは、主人公となるCIAエージェント。暗殺業務に従事している冒頭こそ「これぞスパイ!」なキューザックなんですが、良心に従って仕事をし損ねた彼は、僻地へと飛ばされてしまう。これがもう大企業の追い出し部屋もかくや!?というほどの閑職で、基地に出勤しては地下の短波放送局で、数字が読み上げられるのを横から見てるだけ。あとは出勤する彼女の送り迎えで毎日が終わっていく。
しかしこの短波放送、実はもっとも原始的かつ重要なもので、たとえば暗殺指令なんかをこの放送で世界中のエージェントに発信したりもしている。さらには、手元の1回限りしか使用しない乱数表と組み合わせて放送されるから、傍受されても(っていうか誰でも聞けるんですが)解読はほぼ不可能という、まあネットの時代になって何でもメール一本ですむようになったけど、心のこもったメッセージを相手に届けるときはやっぱり手書きの手紙だよね、みたいな立ち位置をスパイメソッド界の中で占めているわけです。
こういう目的不明の不気味な短波放送って都市伝説になってて、ぼくも昔聞いたことありました。日本だと北朝鮮から「数字だけを読み上げるなぞの放送が、金曜の深夜1時から2時間だけある」みたいな話とか、ロシアに30年間ずっと等間隔でブザーが鳴ってるだけの短波放送(UVB-76、通称『ザ・ブザー』!)があるとか、ワクワクしますよね! それを題材にした本作、その数字を読み上げていたのはこんな美女なのかよ!(マリン・アッカーマン)という設定がまず驚きでしたが、暗号の専門家である彼女は性格もいい。
怪しい人間が近づいてくるのをみれば、即臨戦態勢になってしまうジョン・キューザックに「会う人全員を殺す必要ないのよ」と突っ込む優しさ。取り扱ってる業務の重さの割には、「私が突然いなくなったらどうするー!」とか言って、次の日ほんとに電車が到着しても出てこないと思ったら柱に隠れてた、みたいなバブル期のJR東海のクリスマスのCMみたいな茶目っ気。「あれ? 飛ばされてよかったかも?」と、冷酷なキューザックの心も雪解けを迎えていく。
しかしそんな、働地味なわりに重要なんだけど時代遅れだからゆるい感じになってるCIA拠点をテロリストは見逃さなかった! ある日ジョン・キューザックとその彼女が出勤すると、そこはすでに制圧された後。短波放送からは世界に散らばるCIAエージェントに向けて、世界情勢を一変させてしまうような、致命的な指令がばらまかれていたのだ。
ということになるんですが、ここでテロリストの残党に襲われた女の子が「私たち何にも悪いことしてないのに、なんでこんな目に!」って叫ぶのには、お前暗殺指令放送しといてなに言ってんだと、たじろぎましたね。これが今どきのIT世代の若者かと。ジョン・キューザックもそんな微妙な彼女に「俺も、この短波放送を受けて、暗殺をしていた男なんだぜ」と伝えるわけです。そうすると彼女は「そんな!? やっぱり、男はみんな狼......」みたいな、まあそこまでアホじゃなかったですけど、やっと事態の重要さに気づく。そして、「2人で世界を救おう! 僕は残党をやっつける、君は暗号を解読して、ニセの指令を解除してくれ!」と、こういう話になるわけですよ!
女の子は地下のメインコンピューターに接続してカチャカチャやり出すんですが、一昔前ならこれはメガネをかけたいじめられっこキャラの男の役だった。いまやセクシーな才女がIT担当なんだなーと感慨に耽りつつ、このスタジオのシステムがMacばかりなのも感慨深い。こういうのって「撮影終わった後、小道具もらえるらしいよ?」「まじで、じゃあ俺Macがいい」とか言って「監督! やっぱ最近の軍事施設はMacじゃないすか? DELL? ないない」みたいに決まってる気がしますね。
キューザックはCIAという全ての人間をゲームの駒として扱う組織のメンバーとして、組織の論理と、良心との間に挟まれてここに飛ばされてきた。その葛藤にここで再び襲われます。どうするべきか、なにができるか、そしてついに導きだした彼の結論やいかに!?という全力のキューザックに対する、最後の上司(リーアム・カニンガム)の「あ、っそうなんだ」みたいな軽さが印象的な本作でした。やっぱ重い職に就いてる人は軽いノリで判断しないとやっていけない! 本作をつくったプロデューサーも「テロリストに突入させればアクションになってデーハーじゃん!」「それいいね! 」みたいな軽いノリだったのにちがいないと思いました。
文=ターHELL穴トミヤ
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