WEB SNIPER Cinema Review!!
第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作品を映画化
自分と同一の容姿を持ちながら、全く異なる性質を持つ存在"バイロケーション"。ある日、身に覚えのない偽札の使用容疑を掛けられた高村忍(水川あさみ)は、担当の刑事からその衝撃の実態を知らされる。通称"バイロケ"と呼ばれるその"もう一人の自分"は、オリジナルの自分を必ず殺しに来るのだと――。角川ホラー文庫20周年記念作品!2014年1月18日(土)角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
観客に向け複雑に張り巡らされたワナ! すぐには意味をはかり得ない役者たちの演技! 伝説のサスペンス『シックス・センス』を超える、最も衝撃的な結末(公式宣伝資料より引用)! 私は甘いものが大好きです。この4つがスパークし、いったいこの映画についてどう書いたら良いのか、ただジャムパンをむさぼるばかりなのである。映画を観る前に、糖分を補給しておくべきだったのである。あれよあれよという間に何を観ているのか分からなくなり、そのまま衝撃的な結末へと流れ込んでしまったのである。
マンションの一室にこもり、一心不乱にキャンパスに木炭をこすりつけている主人公(水川あさみ)。どうやら画家を目指しているらしき彼女は、しかしその作品を描きあぐねて苦しんでいる。そこに階下に引っ越してきたという男(浅利陽介)が、挨拶の品を持ってやってきた。彼女はこの男と結婚し、幸せな家庭生活を送り始める。ところがある日、ニセ札事件の犯人として捕まってしまう。まったく身に覚えのない事態、このときすでに彼女は衝撃のバイロケーションの世界へと引きづり込まれていた。
このバイロケーションというのは、ドッペルゲンガーのような自分そっくりの形をしたバケモノのこと。こいつは明確な悪意を持っていて、自分がいない場所で自分のふりをして悪事を働きまくる。さらには直接襲いかかってきて、やっつけたと思えば煙のように消え、またよみがえる。もう最悪の代物なのだが、しかしそこは主人公、バイロケ被害者の会に招待されてみんなで対策を考えることになった。そのメンバーは刑事(滝藤賢一)、一児の母(酒井若菜)、イケメン青年(千賀健永)、そして会を主催する男(豊原功補)。主人公は果たして、この悪夢から逃れることができるのか......と映画は進んでいく。
本人と瓜二つのバイロケーションが現われると、他人からはどちらが「本物」なのか分からない。唯一の判断基準は「鏡に映らない」というものなのだが、そのわりに登場人物たちがあまりに決定的な場面で、鏡を利用しない。ここで「お前ら、さんざん鏡って言ってたじゃん......」と若干心が離れてしまったのもいつわらざる事実なのだが、しかしそんな細かなことを気にしているようでは、この映画のでっかいトリックに気づけないのだ。
バイロケーションはどこから発生するのか。どうやらそこには、なりたい自分と現在の自分との間で引き裂かれる、葛藤の深さが影響しているらしい。ここに至って、本作はユング的、影の心理学とでもいうべき背景を持ち始める。全ての人間は影を持っていて、その最も暗い部分を直視しなければ、真の自分自身にはなれない。しかしそこは同時に、自分で気づくことが最も難しい「盲点」でもある。ましてや朝飯抜きのうえ、ジャムパンもなしでたどりつける境地ではない......。しかも遅刻しそうになって、私は地下鉄の駅から試写室までずっと走っていったのだ! もはや気絶すらしそうな案配、映画の後半がよく分からなかったとして、一体誰が責められるというのだろう(責めたい人のメール募集しています)。
ジャムパンの話が出たのでついでに述べておくが、最近のコンビニはジャムパン軽視が過ぎはしないか。安いし、おいしいし、糖分たっぷりで、脳みそもシャキッと覚醒するジャムパン。ところが悲しいかな、都心のコンビニではジャムパンを見かけるほうがむしろまれだ。特に六本木や原宿など、コジャレた街ほどジャムパンを置かない傾向が強い! おたかくとまってんじゃねえよと、パンの棚に体当たりしたくなるのである。そんななか、246沿い渋谷駅南口交差点のファミリーマートはいつもジャムパンを置いていて微笑ましい。これからもがんばっていってほしい。
さて映画の話に戻ると、そんな低血糖な脳でも本作で見逃せない強烈なインパクト。それが豊原功補演じる主催者の、今時珍しいほどの昭和顔だった。鼻の下から唇へと向かう筋をながめるうち、これはもう亀頭そのもの、顔面がそのまま亀頭なんだなと確信した。この男になんども至近距離から「私を信じろ」と言われる主人公、その葛藤はいかばかりのものか。バイロケーションの不気味さに1人で立ち向かうのか、アップになるたびお尻の穴がむずむずしてしまう主催者を受け入れるのか。観客は主人公と一緒に、究極の選択を迫られることになる。
安里麻里監督は学生時代、黒沢清の指導を受けていたことがあるという。なるほど本作には、都市部で日常生活が侵食されていく黒沢的ホラーが横溢している。まだ手探りだった学生時代の彼女が、何度も黒沢清から「俺を信用しろ!」と説得される。思わずひいてしまうが、かといって映画以外の場所で生きている「もう一つの人生」も受け入れられない。本作にそんな見立てをしてしまう私は、やはりまだ糖分が足りていないのだろうか(糖分が足りていないというメールお待ちしています)。
文=ターHELL穴トミヤ
怪異現象 "バイロケーション"を題材に描く新感覚ホラーワールド!
『バイロケーション 表』
2014年1月18日(土)角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
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