WEB SNIPER Cinema Review!!
若松孝二監督が公開を熱望した、
最後の遺言とも言えるドキュメンタリーがついに公開!
資本主義勢力の打倒を目指し女性革命家として名を馳せた日本赤軍の最高指揮者・重信房子と、後にドイツ赤軍を結成する極左地下組織バーダー・マインホフ・グループのウルリケ・マインホフ。本作はそれぞれの娘である重信メイとベティーナ・ロールの目を通し、最も悪名高きテロリストと呼ばれた彼女たちの生き様を独自の視点から探ってゆくドキュメンタリー。 彼女たちは、何のために戦ったのか――最後の遺言とも言えるドキュメンタリーがついに公開!
7月5日よりテアトル新宿ほか全国順次公開!
60年代、70年代に世界を震撼させた2つの共産主義テロリスト。テルアビブリッダ空港での無差別乱射事件と前後して結成され、以後世界中でハイジャックや大使館占拠を繰り返した日本の「日本赤軍」と、在独米軍基地爆破、検事総長殺害事件などをおこしたドイツの「バーダー・マインホフ」。この2つのグループのリーダーはどちらも女性だった! そしてどちらにも娘がいた!というところからはじまる、アイルランド人監督によるドキュメンタリーだ。
映画はドイツと日本を行き来しつつ、'70sクラウトロックと演歌歌謡をバックにすすんでいく。アイルランド人監督が編集すると「外国人がYouTubeにあげた日本旅行ビデオって何かちがーう! おしゃれー!」効果も出て、全学連のヘルメット行進もパンクドキュメンタリーの一部に見えてくるから不思議だ。
映画が始まると、リーダーのウルリケ・マインホフにしろ、証言している元メンバーの女性にしろ、当時の白黒写真がやたらカッコいいことにおどろく。まるでロックミュージシャンのようなのだが、彼女らが始めるのはバンドではなく武装闘争だ。それは、世の中の不正を正そう!>ところが警察や軍隊に鎮圧されちゃう>じゃあ自分たちの警察や軍隊をもとう!>武装闘争という流れで、スタイリッシュだなー、「バーダー・マインホフ」って音の響きカッコいいなー、という思いは、やがて色鮮やかな鮮血にまみれたカラーフィルムを経て、監獄での首つり自殺の映像へとつながっていく。
日本から3人が参加した、PFLPパレスチナ解放人民戦線によるテルアビブ空港無差別乱射事件にしても、その血やその他をブラシやバケツで洗い流すニュースフィルには、どんなBGMも似合わない。文化風俗の入り口から60,70年代の革命運動へと向かっていったら、死の映像とともにそれは政治なのだと明かされる、これはそんな重苦しいドキュメンタリーでもある。
2つとも同じ時代の共産主義グループだったけれども、本作を観るかぎり「バーダー・マインホフ」は主にドイツ国内で活動していた。いっぽうの「日本赤軍」は日本国外を拠点にしていて、その舞台はパレスチナへと広がっていく。そこで、パレスチナ解放運動のドキュメンタリーなんかも入ってきて、はるか遠くの民族の歴史に日本人が参加している映像は、やはり違和感ばりばりでおもしろい。
> 今でも続いているパレスチナ問題で、日本人がここまで当事者だった時代もあったんだなーみたいな。それを足立正生や塩見孝也など関係者が語っていて、ただみんな老人なのと、日本赤軍は政治として失敗したから彼らが作ろうとした仕組みは今残っていないのとで、それは過ぎ去った歴史、終わった話として響いてくる。しかしそこに、リーダー重信房子に娘がいた!つって重信メイがでてくると、重信メイは「老人じゃない」。と同時に、血がつながっているということである程度「当事者」でもある。これがおもしろい。すると日本の70年代が、また別ラインで現代につながって新しい話が始まるのだ。この「こども」という歴史の発見が、本作のユニークなところだろう。
重信メイは日本赤軍リーダー・重信房子の娘。暗殺をさけるため、生まれてからずっと国籍もなく、父親の名も隠し、自分の名も隠して、アラブ各地を転々と移動しながら暮らしていた。2001年に28歳ではじめて国籍(日本国籍)を取るのだが、その結果、日本人の幅が広がり、日本の現在も刷新される。人から生み出されるというところでは「こども」も、政治や思想と同じだが、そこにはまったく別の説得力が受けつがれている。それはなんだろう、それは過去が実在したという説得力なのだ。
「バーダー・マインホフ」のリーダー、ウルリケ・マインホフは成功したジャーナリストで、自身も起稿する雑誌の編集長と結婚し順風満帆の生活を送っていた。しかし、やがて執筆よりも直接行動、というふうに人生をシフトさせていく。襲撃事件をきっかけとしてついに指名手配され、著名なジャーナリストがテロリストに!とドイツ中に衝撃がはしった。その後、彼女らのグループは銀行強盗などで資金をかせぎつつ、爆破、要人の誘拐・殺害などとつぎつぎと事件を起こしていく。彼女はなぜ裕福な生活をなげうったのか。なぜどんどん先鋭化していったのか。
ウルリケの娘は、かなり母親に対して距離を持った理解をしているようにみえる。母親としての役割を負いたくなさそうに見えたと述べているし、今でも届く母親へのファンレターに苦言を呈している。「日本赤軍」にしろ「バーダー・マインホフ」にしろ、そもそもは「抑圧されている人たちを助けたい」という善意から始まっていた、それがなぜ誤ってしまったのか。「母は正しい事をしようとして、間違った手段をとった」というのが、彼女の結論だ。しかし映画がすすむつれ、ウルリケの先鋭化は、頭痛を治すための脳手術で鉄板を埋め込まれたことも一因という、すごい話が挿入されてくる。その手術を機に、ウルリケは感情を表に現わさないようになったとか言っていて、それほとんどロボトミー手術じゃないの! 思想、運動? いや脳外科手術がウルリケ・マインホフの転機だったのだ!というのは、ドイツ中を震撼させたテロ運動がそれでいいのかというか、もう一因というかそれが主因じゃねーのというか、そこからなにか汲み取れる教訓があるのかよという感じでもある。新婚早々始まった夫の浮気にもウルリケは悩んでいて、もう夫さえ浮気しなければ頭痛もひどくならず、テロリストウルリケは誕生せず、ドイツの70年代も大きく変わっていたんじゃねーの、そんな「クレオパトラの鼻が低ければ、歴史は変わっていた」みたいな話でいいのか!と思うのだが、いいのである。革命家にも娘がいる。乱射されて殺された人の中にもこどもがいるだろう。もっともたしかなことは、今世界中にこどもがいるということなのだ。そして子どもがいると、別の話が続いていくから、すげえなあと思ったのである。
文=ターHELL穴トミヤ
国籍も名前も変えて生きなければならなかった娘は、
母に何を想うのか――
『革命の子どもたち』
7月5日よりテアトル新宿ほか全国順次公開!
舞台挨拶情報
■7月6日(日)16:15の回上映前@シネマジャック&ベディ
登壇者:重信メイ、足立正生
トークイベント情報
■7月6日(日)津田大介(ジャーナリスト)×重信メイ
■7月7日(月)井上淳一(脚本家、映画監督)×重信メイ
■7月8日(火)上杉隆(ジャーナリスト)×重信メイ
■7月9日(水)ヤン・ヨンヒ(映画監督)×重信メイ
関連リンク
『革命の子どもたち』公式サイト
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