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(C)Phoenix Film Investments and Opus Film

WEB SNIPER Cinema Review!!
現代ポーランド映画界を代表する新世代の才能が描く戦後東ヨーロッパの光と影!
60年代初頭のポーランド。孤児として修道院で育てられた少女アンナ(アガタ・チュシェブホフスカ)は、ある日院長からおばの存在を知らされる。一度も面会に来ないおばのヴァンダ(アガタ・クレシャ)に興味をもったアンナは彼女を訪ねるが、そこで「あなたの名前はイーダ・レベンシュタイン、ユダヤ人よ」と衝撃の事実を告げられる。イーダは自身の出生の秘密を探るため、ヴァンダと2人で旅に出る......。

2014年8月2日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム他全国にて公開
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(C)Phoenix Film Investments and Opus Film

もうこの映画、画面が正方形っぽいですから。横長じゃないんだから。アートなんです。昔の映画のサイズな訳です、ライク・ア・ロベール・ブレッソンなんです。もちろん白黒です。
ポーランドで公開されたのは2012年、監督は本作がデビューとなるパヴェウ・パヴリコフスキ。ポーランドといえば、アンジェイ・ワイダをはじめ、ロマン・ポランスキー、イエジー・スコリモフスキ、クシシュトフ・キェシロフスキなどなど、芸術!傑作!そして暗い、と三拍子そろった映画が多いんですが、本作もバッチリその期待に答えてくれる。修道院で暮らす、女の子の物語です。

ついに修道女となることに決めた、孤児のアンナ。施設長はそんな彼女に、唯一の肉親である叔母がいることをつげて、最後に会ってくることをすすめます。アンナにとって初めての外出、向かった先に待っていたのは、酒浸りでやもめ暮らしのヴァンダでした。
この生活の崩れかかっているヴァンダがかっこいい。酒はもちろん、煙草も吸う。服装はオシャレだし、若い男も引っぱり込む。元検察官で、気が強くて、ついでに車の免許も持っている。肉親でありながら、親が教えてくれないことを教えてくれる存在。それこそが叔母の役割じゃないでしょうか。

(C)Phoenix Film Investments and Opus Film

ヴァンダはアンナに、本当の名前(イーダ)を告げ、彼女が実はユダヤ人だということを明かします。2人はいかにも旧共産圏っぽい車で、アンナの両親の故郷へと旅に出かける。ところが行く先々で邪険にされる。それはポーランド人が忘れたがっていた、第二次世界大戦の古傷をえぐる旅でもありました。それでも気の強い叔母を先鋒に、忘れ去られたユダヤ人夫婦の歴史を求めていく。ついにはその過去を土の底から掘り返します。

旅の途上で車が田舎の四つ辻に止まる。そこで十字架にお祈りをするシーンが美しい。エンジン音が止まると、代わりに鳥の声や、風の音が聞こえてくる。これこそ自動車旅行の感触でしょう。
元・スターリン主義者で、現・自由主義者の叔母は、アンナが恋もしないまま修道女になるのに反対します。そんなきれいな髪なのに、頭巾の中に隠してしまうなんてもったいない。遊びの相談、たのしみの計画、それこそが死に対抗する力だと叔母は考えている。お祈りなんかやめなさいよとちょっかいを出し、アンナが怒る。ロードムービーの就寝シーンは、いわば修学旅行の夜と一緒。そこには無邪気さや、妙な生真面目さがあります。

(C)Phoenix Film Investments and Opus Film

やがて2人はあるヒッチハイク青年に出会う。アルトサックスを持った彼は旅するバンドマンでした。到着した街の酒場で彼が演奏するのは、ロックンロールナンバー。そして、コルトレーン。映画はここから急に、生き生きとしはじめます。
叔母としては、ヒッチハイクで乗せた時点で、アンナとこの青年をくっ付けちゃおうくらいの魂胆でいたに違いない。アンナもまんざらでもない、ああこの映画やっとワクワクしてきたな! 生きる歓び、こいつはフランス映画だぜ!という感じになってきたところで、そりゃねーだろと。ヒドすぎるなと。やっぱり、ポーランド映画だったかみたいな、ひどい展開がやってくる。でも、そこから主人公がまた新たな行動に出る。これが若く、強く、すばらしいんですね。伝説の女性誌「コスモポリタン」の編集長、ヘレン・ガーリー・ブラウンはかつてこう言いました。「いい女の子は天国へ行けるが、悪い女の子はどこへでも行ける」。全ての叔父、叔母はこのセリフを姪、甥にに送るべきでしょう! そして本作のヴァンダが伝えた、最も素晴らしいメッセージもこれだった。この映画を一緒に観に行ったあと女子大生にこのセリフを言えば、アルトサックスならぬア○ル・セックスだってプレイできるにちがいないと私は妄想する!

映画で最も美しいのは、それは景色じゃなくて時間の美しさです。アンナが一瞬、口を開く。その歓び。光に照らされる彼女の身体には、時間の美しさがある。そして主人公はさっそうと歩いていく。一直線に、それをカメラが捉えて、一緒に移動する。この歩くシーンはまさにフランス映画なんだけど、彼女が向かうその先はポーランド映画なんだな。アンナとイーダ。2つの歴史、2人の女の子。イーダはフランス映画で、アンナはポーランド映画。この映画はどちらで終わっているのか。君はどっち?と一緒に観に行った女子大生に聞けば、ア○ル・セックスだって可能なのではないか、私はそんな気がして仕方ないのです(本編に出てくるのはアルトサックスでア○ル・セックスではまったくないです!念のため)。


(C)Phoenix Film Investments and Opus Film

文=ターHELL穴トミヤ

父と母を知らないユダヤ人少女の旅路が、
ポーランド国民の心に静かな感動を与えた傑作!


『イーダ』
2014年8月2日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム他全国にて公開

(C)Phoenix Film Investments and Opus Film
原題=『IDA』
監督・脚本=パヴェウ・パヴリコフスキ
出演=アガタ・クレシャ、アガタ・チュシェホフスカ

配給=マーメイドフィルム
配給協力=コピアポア・フィルム
後援=駐日ポーランド大使館、ポーランド広報文化センター
宣伝=VALERIA


2013年|ポーランド・デンマーク|80分|モノクロ|スタンダードデジタル

関連リンク

『イーダ』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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