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靖国に眠る246万の死者の声に耳を傾ける
「歴史認識」「A級戦犯合祀」「政教分離」「首相参拝」などの論点について、今も多くの意見が激しく対立している"靖国"。合祀撤廃、政教分離を訴えた「ノー!ハプサ(NO!合祀)訴訟」でも弁護人を務める大口昭彦氏と、右派陣営の代理人弁護士として歴史認識問題や靖国問題、政治思想をめぐる事件を数多く手がける徳永信一氏、この左派・右派を代表する弁護士2名がそれぞれの「靖国への想い」を熱く語る。その時、浮かび上がってくるものとは――2014年7月19日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
8月9日より大坂 第七藝術劇場、名古屋 シネマスコーレにて公開
靖国問題に対して、交互に右派側の弁護士と左派側の弁護士が出てきて、意見を述べる。靖国神社についての態度は、過去の日本人の死をどう位置づけるかという態度で、それは未来に日本人がどう死ぬかも決定づける。だから重要なのだ!と思いつつこの映画観たけど、よくわかんないねこりゃ。もう聞いていて、毎回最後に聞いた意見について「なるほど」と思っちゃう。そして最終的に「もうわかんねえよ」みたいな。そして「もうかかわりたくないよ」みたいな。「結局のところ死んだらお終いってことじゃねーか」みたいな。しかし、日本国籍であるかぎり、靖国のほうからこちらに関わってくるのである! 誰かが決めた靖国の解釈に、俺の将来の死も規定されてしまうかもしれない。だからやっぱり無視できない、どうするどうする、さあさあ、わー! どうしたらいいんだー!という堂々巡りにおちいってしまうのである。
本作の監督は天皇を素材にしたコラージュ作品が事件化したことでも有名な、芸術家の大浦信行。映画ではいわゆる右派側にたつ徳永信一弁護士(小泉元首相の『靖国神社参拝違憲訴訟』で神社側補助参加人をつとめたり、最近では在特会に所属する活動家の弁護人をつとめたりしている)と、いわゆる左派側にたつ大口昭彦弁護士(『在韓元軍人軍族裁判』や『ノー!ハプサ<NO!合祀>訴訟』で原告側弁護人をつとめている)が、双方の「靖国問題」への見解を述べあう。そして合間に昭和アングラ感あふれる、在日韓国人2世で身体障害者の舞踏家によるダンスが挿入されてくる。
右派側の人はホテルの一室で撮影されていて、画面は赤っぽく、また彼自身も身振り手振りまじえて情熱的に、表情もゆたかに語っている。対する左派側の人のインタビューは、取調室のような部屋で撮影されていて、服もスーツ。画面は青白い色で統一され、そしておもしろいほどまったく動かない。この変化のない人物を前にして、映画に動きをもたらすにはどうすればいいのか?そこでカメラが顔にだんだんズームしていく!という工夫がまずややウケ~だった。
韓国・台湾人の合祀問題について、双方の意見がのべられる。というかそういう論点があったことすら知らなかった。もちろん本作は両論併記、結論を出す映画ではないのだが、例えば俺は観ていてもう「遺族が奉らないでっていってんだから、返せばいいじゃん」としか思えない。するとそこに新事実「彼らは20倍の競争率をくぐりぬけて日本兵として採用された、エリートだったのだ」という話が出てくる。そうまでして日本兵になりたかった、そして死んだ彼らを合祀してあげないでどうする! これはまたこれで筋が通っている。
そしてA級戦犯分祀問題。死んだら皆、平等。神道がそういう宗教なら、A級戦犯もまた一緒に奉ればいいという意見がある。しかしそもそも、靖国神社とはどんな来歴の神社なのか? ここには戊辰戦争、西南戦争の戦死者なんかも奉られていて、だけど、白虎隊、新撰組や、西郷隆盛(天皇に敵対した側)なんかは奉られていないという。やっぱ恣意的に選んでるじゃん、整合性が取れないよ!とつながっていく、そんな話も知りませんでしたよ。こと歴史問題になんか意見を言おうとすると、「そもそも......」的事実が、右派からも左派からも無尽蔵に噴出してくる。一日中、一年中、一生そういうのを調べてる人はいいけど、こちとら歴史を調べて一生終わってたら元も子もないんだよ! ワークライフバランスならぬ、ポリティクスライフバランスってもんを俺は主張したい!ってうんざりしてシャッター下ろしたくなるんだけど、それって床屋政談くらいがちょうどいいって話なのか......、というトホホ感もある。そこでまたこの映画にもどってくるのだが......。
途中シンガポールにおいて28歳で刑死した木村という男の日記が挿入されてくる。彼に命令した上官は懲役刑になり、命令された彼はBC級戦犯として死刑になる。そんな彼は、「軍人がもっとも天皇の名を悪用し濫用した」と言う。インド、インパールにおいて19歳で病死した従軍看護婦の手紙も読まれる。やっぱり観てると、もうなにはなくとも死んだらお終いだ!の念が強くわき上がる。まあそんなこと木村さんだって百も承知で、命令を断わったら死刑、従ったらやっぱり死刑になって、なんでだよ状態になっていたのだろうけど。
ところがこんどは、当時のニュース映像が流される。真珠湾攻撃において潜水艦で参加して死んだ9人がいた。彼らは最初の軍神となるわけだが、その追悼映画の「ついに5隻の艦船は帰らなかった......」というナレーションに、浪々と唱歌がかぶさってくる演出には感動する。この当時の朗読や、放送が聴けたのはよかった。死んだらお終いとか言ってるけど、当時のマスメディア、やっぱりその空気の中にいれば、喜んで死んでますよこれは! 「命をかけて守りたいものがある」ってなりますよ! そこでセックスにふけっちゃう『愛のコリーダ』(大島渚監督)はやっぱりすごかった。『愛のコリーダ2』があるならそれは、原発が爆発して出動を命じられても無視して、女子高生と援交セックスにふける消防士の話になるのではないか。死んだらお終いだと言うからには、そのくらいの突き抜け感が必要になるのではないか!
それでも俺は本作を観て、一応「靖国問題」について結論を出してみた。でもそういうことじゃない気もするんだよ!? 小論文テストじゃあるまいし、答えだしたからナンな訳?! 死んだらお終いだよ!が大前提にありながら徴兵されて死んだ人が何百万もいるってどういうことよ!? 地霊。そしてこの映画は恒例のドラム缶爆破に続き、アングラな祈りでしめられる。やっぱり結論を出すより、そのなんだかよくわからない芸術しめがしっくりくる。それならこのレビューも祈りでしめなきゃ意味がない! だからまず俺はこう言いたい。戦争で亡くなった方を鎮魂する唯一の手段は、それぞれの生活を美しくして、それに執着することである。そしてそれは、音楽で踊ることなのだ! まず盆踊り! ちゃんちゃんちゃん、すちゃちゃかちゃん!ハイ! ちゃんちゃんちゃん、すちゃちゃかちゃん、ハイ! 次はテクノ! ズンズン、ドドンパドン! ズンズン、ドドンパドン! ゴーゴー!ひゅーひゅー!イエーイ!うおー!
文=ターHELL穴トミヤ
イデオロギーを超えた「靖国」の新たな姿を目撃するドキュメンタリー
『靖国・地霊・天皇』
2014年7月19日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
8月9日より大坂 第七藝術劇場、名古屋 シネマスコーレにて公開
関連リンク
映画『靖国・地霊・天皇』公式サイト
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