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ロマンチックだが、代償は大きい――ギョーム・ブラック監督の人生参加!
以前はちょっと有名だったが、すでに人気の盛りを過ぎたミュージシャンのマクシム(ヴァンサン・マケーニュ)は、殺伐としたパリの生活から逃れ、ブルゴーニュ地方の長閑な町・トネールにある実家へ戻ってくる。そこには一人暮らしながらも人生を謳歌する父親(ベルナール・メネズ)がいて、二人の関係はぎくしゃくしていた。そんなある日、マクシムは地元の情報紙のレポーターとして取材に訪れたメロディ(ソレーヌ・リゴ)と出会い、強く心を動かされる――。
10月25日(土)、ユーロスペースほかにて公開 全国順次ロードショー
監督はフランスの新進気鋭ギヨーム・ブラック。同じくヴァンサン・マケーニュが主人公を演じた前作『女っ気なし』は、冴えない仕事、冴えないポスター、冴えない夜はWiiのテニスゲームでやりすごす。そんな主人公の元に、バカンスの母娘がやってきて~!というなんとも愛らしい夏のボンクラ映画だった。しかし今回は冬の田舎町を舞台とした、負のボンクラ映画だ。
革ジャンにジーンズ、ギターをつまびいて宅録にいそしむ主人公は、親父の家に居候している真っ最中。出したアルバムもあまり売れず、特に他の仕事をするでもなく暮らしている。そこに地元のタウン誌で働く姪が取材にやってきた。2人は急速に距離を縮めていくが......、とここまでは前作と同じ構図。iPhoneショートメールでやり取りする恋の模様は、フランス映画にもジョブスのビッグウェーブが到達したという感じでおもしろい。
ところが、主人公が電話をしても留守電ばかりになったころから雲行きがおかしくなっていく。なんども留守電に吹き込み、返信をまつ主人公。寝返りを打ち、5分と経たないうちにまた電話してしまう主人公。どうやら歳下の彼女は、同世代の男とヨリを戻しているようだ......。そこで男の職場に行き、どんな奴なのか外から眺めてしまう主人公! さらに男の家の前に行き、彼女がこないかと張り込んでしまう主人公! そう彼は徐々にストーカー化していってしまうのだ。元カノが新カレシを含む仲良しグループで食事をとっている、それを店の外から眺める、その音のない恋人の顔。分かる! 明るい店内と、暗い裏通りの中にひとりたっている自分の対比。分かりすぎる! この寂寞感、むなしさ。片思いの女性を外から眺める前半のヴァンサン・マケーニュは「純粋」で「かわいい」が、もう会いたくないと言っている相手を外から眺めるヴァンサン・マケーニュは「傲慢」で「きもい」。監督はボンクラ=歳をとった純粋さが「かわいい」から「きもい」へと転落していくさまを、16mmフィルム撮影による詩情と、iPhoneの現代性を組み合わせて描き出す。
主人公がこのとき一番求めていたことは何なのか。それは「なぜ?」にたいする彼女からの答え。人は「なぜ?」を与えられないままに全てのコミニュケーションを遮断されると、ストーカー化するのだ(ターHELLしらべ)。だけどその答えは得られないんだな。レストランのガラスに隔てられて、自分が傷ついた理由は与えられない。それでも前に向かっていかなきゃいけない、ああ今回は、こうやってボンクラが成長していく物語なのか......、と思ったらなんですか! 主人公、まんまと女の子から答えをもらってるじゃないの! しかもそれがずいぶん、男に都合のいい答え、一番うれしい答えじゃないか。ふざけるな! そんな都合のいい展開は観たくない!! 監督はあまりに主人公を甘やかしすぎている、ギヨーム・ブラック監督は自己愛にまみれ堕落しきったブタだ! これは俺の個人的な怒りとかではなく、トラウマを刺激されたとかでもない! だいたいにおいて、主人公はロッカーなんじゃないのか、だったら次に出るべき行動は、作曲じゃないのか! それが、ストーキングの果てにあんな行動に出るなんて......、こんな奴の音楽など、もう聴いたってしょうがない! こいつの創造なんて意味がない! と思っていると、監督はちゃんとその都合の良さに、帳尻を合わせてみせる。それがあまりに唐突におとずれるのが、映画(という情緒を楽しむ物語の器)に対してすら甘くないという感じがあって、好感がもてたのだった。しかし本作にはそのさらに先があり......。前作『女っ気なし』の最後にあったのは、同情だったのか、やさしさだったのか。では本作の女が最後に示すのは何だろう。ぜひみなさんも自分の目で確かめて、発言小町などで活発な議論をしてみてほしい。
ところで男は誰でも若い女が好き、というラインを微妙に超えた歳の差恋愛が今作で二度続いているギヨーム・ブラック監督。彼はロリコンなのだろうか? この疑惑も、映画の中でちゃんと意識化されている。内面の都合の良さを気づかず押し通すようにみせて、ぎりぎりで表面化させてみせる。彼は、じつはかなり容赦のない監督にちがいない。ロリコンなのか、それはありなのか。それともロリコンかどうかは問題ではないのか......。ギヨーム監督には、その仮借なさで「フランスにおけるロリコン」というスリリングなテーマを、今度さらに推し進めていくこと期待せずにいられない。
文=ターHELL穴トミヤ
『女っ気なし』(2011年)で組んだギョーム・ブラック監督と
主演のヴァンサン・マケーニュが再び集結!
『やさしい人』
10月25日(土)、ユーロスペースほかにて公開 全国順次ロードショー
関連リンク
映画『やさしい人』公式サイト
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