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「レディ・チャタレー」のパスカル・フェラン監督作品
パリ、シャルル・ド・ゴール空港に隣接するホテル。過密なスケジュールで動いている出張中のアメリカ人ゲイリー(ジョシュ・チャールズ)は、不意に何もかもを捨てて自由になることを決意する。一方、ホテルの清掃係をしている女子大生のオドレー(アナイス・ドゥムースティエ)は、ホテルの屋上に出たところでスズメに変身してしまう――。9月26日(土)より ユーロスペース、シネマカリテほか全国順次公開
監督は『a.b.cの可能性』『レディ・チャタレー』のパスカル・フェラン。途中で登場人物がスズメになっちゃう。奇妙な映画だ......。しかもスズメが演技しちゃう。スズメちゃんかわいすぎるんだよ!という。映画がはじまると列車に乗った乗客たちの心の声、会話、聴いている音楽などが次々と流れてくる。舞台はフランスだが、そこには見覚えのある気だるさが満ちている。登場人物は2人、大学を休学しホテルで清掃バイトをしている女の子(アナイス・ドゥムースティエ)と、アメリカからやってきたビジネスマン(ジョシュ・チャールズ)。
ビジネスマンは女の子が働いている、空港横のヒルトンホテルにチェックインする。彼は会議に出席し、プラント建設のためのスケジュールをつめ直し、次の日にはもう、ドバイに向かう予定が待っている。そのあいだに彼が見る風景は空港、タクシーの車内、会議室、ホテルの個室に戻っても窓の外にはまた空港。パリなのにカフェも、エッフェル塔も出てこない、こんなにつまらない旅行映画もないだろ!という感じなのだが、それはビジネスマンにも同じだった。彼は夜半に限界を迎え、突然のパニック発作に襲われた挙句、ひとつの決断をくだしてしまう。家族も、仕事も、すべてを捨て去るのだ。
そして『LIFE!/ライフ』とか『フェリスはある朝突然に』みたいな感じで「俺は自由だー!」という展開が始まるのかなーと思っていたら、この映画はなにごとも省くことなく、しっかりとつめていく。翌日の飛行機に乗らなかったことで、まずドバイの当事者からシリコンバレーに連絡が入り、次に彼自身の携帯や、部屋電話に次々と連絡が入ってくる。上司は激怒したり、なだめすかしたり、弁護士は「上司に訴えられたら100%負けるぞ」とアドバイスし、続いて妻とのキツすぎるskype越し夫婦喧嘩(それも一晩中続くやつ)。そこに解放感は全くなく、リアルすぎる修羅場に観客の目はどんどん死んでいく......。とはいえ舞台はヒルトンホテル。部屋は定期的にクリーニングされ、モノはあるべき場所に整えられ、食べ終わった食器は下げられる。そのわずかな旅行感で、映画はなんとか生活感一色に染まる不快さを避けている。
それを支えているのがフランス人の女の子で、彼女はパリに下宿する女子大生だ。実際は休学しており、かといって清掃バイトに本腰を入れてるわけでもない。黙々と清掃し、一人アパートに帰り、向かいの建物で暮らす人々の影絵を眺める。その表情から彼女が人生に迷い、自らの立脚点を見失っているのが伝わってくる。あるとき彼女は残業を頼まれる。そのあとにふと屋上に向かうと、スズメになってしまう。
スズメになってからの彼女は「ボン(よし)」というセリフをよくいう。よし飛ぼう、よし羽ばたこう。そしてここから、スズメが主人公のスズメが演技する映画になっちゃうんだよ!わけわからない!けどカワイイ。彼女はスズメのまま、宿泊客の様子をうかがったり、同僚の生活を覗き見たり、やがてはふつうにスズメ・コミュニティに参加してみたりする。スズメは自由で最高!かと思いきや、フクロウに見つめられたりして、結構ヤバい。スズメ生活が長くなると、今度はスズメ的生活感が出てきたりして、果たして彼女は元に戻れるのか?そして、あの何もかも捨てたアメリカ人はどこに行ったのか?不思議な映画は続いていく。
本作でもっともすばらしいシーンは、空港の動く歩道で、スズメとアメリカ人がすれ違うシーン。手すり部分に立つスズメと、反対方向の歩道に立つアメリカ人が、見つめ合いながらすれ違っていく。なぜだかわらないが、このシーンはめちゃくちゃに最高だ。なぜだかわからないけど、映画史に残るシーンになるのではないか? 『第三の男』『スーパーバッド 童貞ウォーズ』そして『バードピープル』とか(映画史に残る三大すれ違いシーン映画)。
そういえばこの映画には日本人も出てきて、彼はスズメになった女の子にエサをあげる。メガネに無精ひげ、長髪を後ろに束ねた、かなりナードないでたちで、その職業は現代美術家、または漫画家、アニメーター、それともゲーム・デザイナーだろうか。彼はエサを食べるスズメを、3本の筆ペンを駆使してスケッチしていく。映画は彼の観察眼と同期して、まるで初期の運動分解映画のごとく、スズメの羽ばたきを高速撮影でとらえる。完成した水墨画のような絵はめちゃうまく、このキャラ間違いなくイケメン枠でしょう!つまり、これこそ最新系の「フランスでモテる日本人」像にちがいない。我々はついにこたえを得ることができたのだ!
仕事への気持ちが折れ、人生のやる気がついえた時、アメリカ人はすべてを捨て去る「新大陸を求めて冒険」モードになる。フランス人はスズメになり、日本人はどうするんだろう。ちなみに私の場合はエゴサーチをします(ターHELLさん 長髪 かっこいい でなんか出てくるかなア~!)。
文=ターHELL穴トミヤ
パリ、シャルル・ド・ゴール空港。
鳥になって世界を見る。思いもよらない明日が来る。
『バードピーブル』
9月26日(土)より ユーロスペース、シネマカリテほか全国順次公開
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