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(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.

WEB SNIPER Cinema Review!!
第68回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞
"独身者"は身柄を確保され、ホテルに送られる。そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、自ら選んだ動物に変えられ、森に放たれる――。独身でいることが許されない、不条理な近未来の世界を描いたディストピアムービー。

新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次公開中
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日本は封建的で儒教的な古臭い恋愛体質が残っていてよくないっ!カジュアル・セックスに抵抗があったりとか、不倫がバッシングされたりとか......、欧米を見てみなさい! 付き合う前にセックスするのは当たり前!不倫?フランス語に不倫という言葉はありませんっ(本当かどうか知らないけど)! めざそう、恋愛先進国! 恋愛にもグローバルスタンダードを!あー、やっぱりええわっ!ええわっ!欧米ええわっ!と盛り上がっている我々(というか俺一人)に、だったら欧米の地獄見せてやるよ、とギリシャ人のヨルゴス・ランティモス監督から気色の悪いディストピア恋愛映画が届けられた。

舞台はイギリス。そこでは独身は悪とされ、伴侶のいない人間は特殊施設に送られてしまう。与えられた45日の猶予以内にあらたな伴侶を見つけられなければ「動物」にされてしまうのだ。観る前は「恋人を見つけられないと、動物になっちゃぅ~?」みたいなかわいい風の想像をしていたが、その内容は心臓や脳などを取り出されて動物に移植される(またはそんなのは嘘でただ殺される)という処刑感バツグンなもの。恋愛のチャンスが広く開かれている一方、プロムでは必ず相手を見つけなければいけない、パーティには必ずペアで招待されるなど、欧米社会に存在する(とまことしやかに囁かれている)また別の世間的押し付けを、さらに極限まで推し進めた、そんな架空の社会が本作の舞台となっているのだ。

(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.

妻に離婚された主人公(コリン・ファレル)が、収容所であるホテルに移送されていく。そこに着いて早速話しかけてくるのが、恋愛コメディでさんざん冴えないおっさん役を演じてる、ジョン・C・ライリーというのが早速おもしろい。彼と、もう一人これまたモテなそうな奴(ベン・ウィショー)が寄ってきて、「教室の隅のモテないトリオ完成!」(『桐島、部活やめるってよ』の映画部みたいな)というあちゃー展開がやってくる。もちろん必死なのは男だけではなく、女も生き残りをかけて苦労する。そこには歴然とした格差があり、必死に声をかけるが誰からも無視されるおばさんの悲惨さ、街コンの悲哀を煮詰めるとこうなるのだろうか。
彼らには伴侶を見つける以外にもう一つルールが課せられており、それが毎日森に出かけて行っておこなう、独身人間狩りだった。多く狩ることができれば、動物化の猶予も少しづつ伸びていく。そんな仕組みの中で、冷血なんだけど人を狩るのはめちゃくちゃうまい、というある意味「自立した女」(アンゲリキ・パプーリァ)が出てきて、主人公はこいつに狙いを定めてカップル化を試みていく。

ホテルでは滞在者向けに、カップリング講座みたいのも開かれていて、そこでどうやって異性と仲良くなるのかが伝えられる。これが異常に底の浅い内容で、それを見ている登場人物たちも皆、なんか未成熟な人間ばかり。この演出からはやはり「恋愛が衰退した社会=未成熟な大人たちの集まり」という、監督の恋愛至上主義の哲学がうかがえはしないだろうか。本作を観ながら思い出したのが泉鏡花の怪奇小説『高野聖』で、これは「山に住む美しい女に誘惑され、応じた男は妖術で動物にされてしまう」というお話。カップルになれないと動物にされてしまう本作とは、まさに真逆の設定になっているのだ。恋愛を自制できるのが成熟なのか、恋愛を自在にできるのが成熟なのか?まあどちらにしろ、動物にはされたくない(ちなみに本作の題名は、主人公が希望の動物を聞かれて答える『ロブスター』から来ている)。

主人公はやがて、レジスタンス組織のリーダー(レア・セドゥ)に出会い、こんどは森で暮らすようになる。そこは恋愛が罪とされ、許されるのはマスターベーションのみという、価値観のすべてが転倒している世界だった。ホテルでは生バンドをバックにしたチークダンスが催されていたが、森では電子音楽を聴きながらめいめい勝手にダンスしている。クラブに行って、テクノで踊って、帰って一人でオナニー、俺の普段の生活って、ここと変わらねーじゃねーか!と、観ていてビターな気持ちになった。

(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.

ヨルゴス・ランティモス監督は、前作『籠の中の乙女』でも色使いがおしゃれだったし、今回も冒頭、背景の枯れ草と女が着ているカーキ色の服の組み合わせなどすばらしい。ただ、物語としてはミヒャエル・ハネケほどの悪意もなく、ラース・フォン・トリアーほどん不快さもない気がした。本作のオチも谷崎潤一郎のあの話を読んだことがあれば、予想がつくはずだ。ただ、メイドが定期的に部屋にやってきて、収容者を欲情させるために黒パンストで、尻を押し付けてくる。あのシーンはエロくてよかったな~。あの変な体位はなんていう名前なのだろうか(ちなみに着衣のまま性器を擦り付けあうプレイは『ドライ・ハンプ』と呼ばれ、キャメロン・ディアスが1日1回行なっていると公言したことで有名になった)。
この映画は「オシャレっぽいから、観に行こうよ~!」と言って女の子を誘い、観たあとの喫茶店で「じつは、あの、あの黒パンスト。あれしたいんだ......」と、突然の告白を行いたくなってしまう、そんなデートムービーと言えるのではないだろうか。もしあの体位にまだ名前がないのなら、敬意を込めて「ロブスター・ドライ・ハンプ」と呼びたい。

文=ターHELL穴トミヤ

ここでは、45日以内にパートナーを見つけなければ、
あなたは動物に変えられます――。


『ロブスター』
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次公開中

(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.
原題=『THE LOBSTER』
監督=ヨルゴス・ランティモス
脚本=ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ
出演= コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、オリビア・コールマン、ジョン・C・ライリー、レア・セドゥ、ベン・ウィショー

配給=ファインフィルムズ

2015│アイルランド・イギリス他│カラー│英語・フランス語│118分

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映画『ロブスター』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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