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(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 (C)Agatha A. Nitecka

WEB SNIPER Cinema Review!!
2015年ベルリン国際映画祭 コンペティション部門出品 銀熊賞(女優賞、男優賞)W受賞
土曜日に結婚45周年の記念パーティを控えるジェフ(トム・コートネイ)とケイト(シャーロット・ランプリング)。しかし月曜日に一通の手紙が届いたことで、彼らの関係は大きく揺らぎ始める。その手紙とは、山岳事故で命を落としたジェフの元恋人についての報せだった。この日以降、ジェフは過去の恋愛の記憶を反芻し、ケイトは心をさいなまれていく――

シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 (C)Agatha A. Nitecka

この映画が理解できるか、理解できないか。それは結婚相手を選ぶ上で、重要な試金石になるかもしれない。俺はあんまよくわかんなかった。いやいやいや理解できた!観終わってからだんだんきた、この夫はない!この夫はひどすぎる。最低です。それはそれとしてシャーロット・ランプリングの、ストレス限界ガマン眼元ピクピク演技は怖いよな~。いやいやいや、ない!そういう、自分で原因を作っておいて、「うわ!眼元がピクピクして怖い!」とかそういう反応こそが!パートナーを追い詰めていくんです!その無神経さをこそ、糾弾したい!

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 (C)Agatha A. Nitecka

舞台はイギリス。結婚45周年記念パーティを週末に控えたトム・コートネイ、シャーロット・ランプリング夫妻のもとに、一通の手紙が届くところから物語は始まる。それは雪解けしたスイスの氷河から、女性の死体が見つかったという知らせだった。
トム・コートネイは「話していなかったっけ」とか言って、しれっと昔の話を始める。警察には近親者だと思われていて、しかしそれは宿帳にそう書いただけで実際はそうじゃない。彼女と付き合っていたのはもちろんランプリングと結婚する前だし、不幸にもその女性は登山中の事故で亡くなってしまった。その死体が数十年を経て見つかったらしいのだが、もちろん結婚記念パーティもあるし、今更受け取りにも行かない、云々。しかし、この手紙が届いた時に、ランプリングがすでになにか予感を抱いているのがいい。

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 (C)45 Years Films Ltd

手紙の女性について語るうちコートネイは、「僕のカチャ」と口にする。その瞬間、最初のランプリング「ピックーン演技」が炸裂! たしかに「僕の」はないでしょう!それはない! けど「僕の」と「カチャ」は余りに何度も一緒に口にしてきたから、もう無意識にひとつながりの単語になってしまっているのかもしれない。たとえば「とりあえず」「ビール」みたいに。しかし、相手に悪気がないからこそ、ランプリングには容易に言い出しづらい違和感が溜まっていく。
恋人の気持ちが離れていくのを感じた時に、それを修復しようと努力する。そこには腹立ちがあり、質問して疑問を解消したい気持ちがあり、しかし言葉にするのがためらわれる不安がある。そんな葛藤が無表情で、プライドも高そうなランプリングに訪れるから、いじわるくともワクワクしてしまう。教師をしていた彼女は「死んでしまった、それも昔の恋人に嫉妬するなんて愚か」という思いに強力に縛られている。言葉は飲み込まれ、代わりに顔面の痙攣が噴き出す。うっ憤を抱え込み一人風呂桶につかるランプリング、その目元ピクピクの恐ろしさ! 本作で最も雄弁にセリフを語っているのは、ランプリングの血管なのである。
思えば彼女、『スイミング・プール』(フランソワ・オゾン監督)でも、愛人にそでにされ、はるか歳下で性に奔放な小娘には馬鹿にされ、それでもプライドが邪魔になって怒りを素直に吐き出せない女性を演じていた。同じくオゾン監督の『まぼろし』では夫に取り残され、孤独の中で自分の世界に取り込まれていく女性を演じている。そのたびに目が泳いだり、静かに震えたりしていたのだが、しかし今作の血管ピクピクは芸が細かい。加齢によって血管が浮き出たからこそ可能になったのか、それとも人知れず血管コントロール筋を鍛えてきた、その成果がついに身を結ぶ時が来たのか。彼女はこれから誰も追従できぬ血管女優としての地位を固めていくにちがいない。
余談だが、現在公開中の『フィフス・ウェイブ』(J・ブレイクソン監督)では、クロエ・グレース・モレッツが猛烈に鼻腔をヒクヒクさせている。これには鼻腔女優の誕生を感じたのだが、ピクピクからヒクヒクへ、部分演技の系譜についてはまた機会を改めて語りたい。

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 (C)45 Years Films Ltd

緊張が高まっていったある日、ランプリングが目をさますと、夜中にもかかわらず隣に夫がいない。そっと様子を伺うと、屋根裏部屋に上がってなにかを探していた。こうなるとホラーじみた不気味さを感じ始め、ナイト・シャマラン監督『ヴィジット』の不気味な行動を始めるおばあさんを思い出す。一つ屋根の下にいる、なんでも知っていると思っていた相手の理解できない行動......、そこにある秘密とはなんなのか。
終始、ランプリング不機嫌でこわいな~と思って夫目線でいたが、観終わってみれば、結婚して人生が終わりにさしかかった頃に、自分のロマンスの相手が影法師だったと判明するほうが、ずっと恐ろしい。この夫は、ボケてから「僕のカチャ、僕のカチャ」と言い続けるようになるに違いない。うーんそれでもやっぱり疑問が残るな、ランプリングはあのあとどうするのか、それを受けてコートネイはどうするのか。この映画の、そのあとを観てみたかった。それとも女性からしたら、そんなの分かりきったことなのだろうか......。

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 (C)45 Years Films Ltd

文=ターHELL穴トミヤ

シャーロット・ランプリングの新たな代表作ともいうべき傑作の誕生!


『さざなみ』
シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 (C)Agatha A. Nitecka
原題=『45 YEARS』
監督=アンドリュー・ヘイ
出演= シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ
配給=彩プロ

2015年│イギリス│英語│カラー│ビスタ│5.1Ch│93分

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映画『さざなみ』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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