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(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

WEB SNIPER Cinema Review!!
森見登美彦原作の同名ベストセラー小説がアニメーション映画化
クラブの後輩である"黒髪の乙女"に思いを寄せる"先輩"は、今日も「なるべく彼女の目にとまる」よう「ナカメ作戦」を実行する。春の先斗町、夏の古本市、秋の学園祭、そして冬が訪れて......。京都を舞台に描かれるベストセラー青春恋愛小説のアニメーション映画化作品!

公開中!!
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(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

この映画の主人公みたいに酒が無限に飲めたら、楽しいだろうな~。酒をまるで魔法の水のようにクイクイ飲んで、ゲロは吐かずに、酩酊感だけがいつまでも続いていく。原作は森見登美彦による同名のベストセラー小説。監督は『マインド・ゲーム』『四畳半神話大系』の湯浅政明。本作は京都を舞台とした、SFアニメーションだ。
(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

物語は結婚式に参加している主人公(声:花澤香菜)が、「酒を飲みたいなあ」と思っているところから始まる。彼女は二次会に参加せず、一人フラフラと夜の酒場へとさまよい出す。ふらっと訪れたバーで二人の酒呑みのプロと出会い、そこから京都酒処の魔界ツアーが始まっていく。一方で、主人公のことを虎視眈々と狙っている男がいた。彼は大学の先輩で、主人公に一方的に想いを寄せてはいるが、いつも偶然を装って彼女のいそうな場所に姿を現わして、ただ挨拶をするばかり。もちろんこの日も、結婚式会場の離れたテーブルから主人公を眺めながら、女装癖のあるイケメン生徒会長(声:神谷浩史)にからかわれたり、バンカラ学生のパンツ総番長(声:ロバート秋山)から檄を飛ばされたりしていた。この童貞キャラの声を星野源がやってるんだよね!! もう大学生はみんなこれ、「星野源が出てる映画なんだけど」「あ、知ってる!」「見に行こうよ~」「うんっミ☆」~終わってから~「なんだかお酒飲みたくなっちゃたね......」~夜は短し喘げよ乙女~というパターンで、ARIGATOU湯浅政明!ってなるのでしょう。監督は本作を撮るにあたって、星野源に直筆の手紙を送って依頼したというんだから、この映画の命運はそこで決まったと言ってイイ。

(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

アニメのタッチは『四畳半神話大系』と同じで、キャラクターの造形もかなりの部分をそのまま引きついでいる。主人公はおかっぱの黒髪ですごく可愛い女の子なんだけど、ときどき顔が化け物みたいに崩れるシーンがある。たとえば飲み歩く途中に彼女が「詭弁踊り」の輪に入るところで、その異形の顔は、ひょっとこか、化け物か。いや素直で、気取らず、楽しんでいる顔とも言えるんだけど、そこには『マインド・ゲーム』で突然表情が単純化されたときのような不気味さがある。彼女が昔読んだ本を思い出して探しに行くときは、しゅっぽしゅっぽと『どですかでん』の汽車少年になり、ここでもその姿は普遍から逸脱する。でもそれは本作の主人公が世間の「黒髪の乙女は可愛くあってほしい」という期待から自由だということなのだ。それは、彼女の確立された自己の現われで、その奥には強烈な自己肯定感がある。でもそれが刺々しくなく、天然・ゆるふわの形をとって現われている、これこそが、原作でも森見登美彦が表現しようとしていた、京都のはんなりゴーイングマイウェイ感なのである。アニメ版である本作では後半、棒読みでひどすぎる歌や、ダサすぎる着ぐるみ、などを通してそれがさらに演出されていくことになる(そしてそれはちょっと、うっとうしくもあり、それこそが大学生!という感じもする)。

(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

原作は4話仕立てになっていて、第1話は京都の飲み屋街を彷徨するうち、李白と呼ばれる魔王のようなじいさんと偽電気ブランと呼ばれる幻の酒の飲み比べをするというもの。本作では、李白が『千と千尋の神隠し』のようなゴテゴテした3階建ての舟で移動していて、誰もが恐れる権力者として不気味な存在感を発揮する。第2話で主人公は、神社の古本市に向かい、古本の神様に出会う。一方の童貞男は、彼女の気をひくため怪しいテントの奥深くに潜入し、巨大ガマガエルなどが飛び出す幻魔対戦に参加する。第3話では、学園祭でゲリラ演劇を行なうなぞの団体と、女装癖のある学級委員長の追跡劇が繰り広げられ、第4話では風邪が蔓延した京の街でのお見舞い大作戦がまきおこる。本作はこれら全てのエピソードを、切れ目なく長い一夜の物語として描いていて、主人公は酔っ払って、うろうろして、探検して、行く先々で変な人に会って、変なことが起きる。連想ゲームみたいにポンポン場面が飛ぶそのツアーを眺めていると、思い出すんだよこの感触、フェスだなと!
(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

フジロックとか、グラストンベリーとか、巨大フェスの会場もやはり、歩くだけでどんどん景色が変わっていく。それで変な奴に出会って、後から考えたら「あいつ神だったのでは」みたいなこともあるし、突然謎のテントが現われて、奥に入って行くと喧騒から離れてなにやら怪しい出し物が繰り広げられていたりする。映画版の主人公は「私は縁に導かれていて、会う人、起こることには全て意味があるし、繋がっていると思う」ということを主張する。これはエピソード同士を一つの夜へと繋げる魔法のセリフなんだけど、つまりはバイブスってことでしょう!フェスに行くと導かれるんだよな~、バイブスに!!!よく考えたら星野源も出てるし、もう本作はこの夏もっともフェスな映画と言っていい。あーまた、やってくるなフェスの季節が......、などと思っているとスクリーンの中ではなにやら大学生同士の恋がはじまっていてFUZAKENNAYOとなりそうなところ、アジカンのエンディングテーマが俺にもあったはずの青春の残り火をかき立ててきてARIGATOUとなってしまう。長い夜なうえ3日間も続くフェスはいつもあっという間に終わってしまうし、青春もあっという間に過ぎていってしまうし、だから皆さん!それ以外の時間は映画を観たりWEBスナイパーを読んだりとかして過ごしましょう。

(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

文=ターHELL穴トミヤ

京都の街で、個性豊かな仲間達が次々に巻き起こす珍事件。
"先輩"の思いはどこへ向かうのか!?



『夜は短し歩けよ乙女』
公開中!!

(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会
イラスト:中村佑介
監督=湯浅政明
出演= 星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次、中井和哉
配給=東宝映像事業部

2017年│日本│93分
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映画『夜は短し歩けよ乙女 』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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