WEB SNIPER Cinema Review!!
通勤時間105分。始点から終点までのリアルタイム・サスペンス!
10年間勤めてきた保険会社を、60歳で突如リストラされた会社員のマイケル。いつもの通勤電車で帰路についた彼は、前に座った見知らぬ女から奇妙な頼みごとをされる。「乗客の中から、ある重要な荷物を持った人物を捜して欲しい」と――。『トレイン・ミッション』公開中
リーアム・ニーソンは、妻と子供と一緒に住む勤続10年の営業マン。いつもと変わらぬ出勤風景があり、ところが出社した彼は突然クビになる。バーに行き、呆然とウィスキーを飲んだのち、家へと向かうべく、彼は再び列車に乗る。ここまで結構長いんですが、ショックとはいえありふれた生活風景が続いている。やがてリーアム・ニーソンの前に一人の女(ヴェラ・ファーミガ)が座り、話しかけてくる。楽しそうな彼女は、「通勤列車って興味深い」という。たしかにアメリカでは車通勤が圧倒的で、通勤列車を知らない人のほうが多いのかもしれない。彼女は社会学者で、今日もこの電車を「観察」している。そして「人間の性格は16の種類に分けられる」という。彼女の馴れ馴れしさ、けれどその内容の興味深さに、リーアム・ニーソンはだんだん引き込まれていく。やがて彼女は「もし、すごく小さな頼みをあなたにしたら、あなたは聞いてくれるかしら」という。そこからなんか不穏になってきて、「その願いを聞いてくれれば10万ドルあげる」ときたところで、いつのまにか日常が揺らいでいる。幻のような話をした彼女が降りて行ったあと、リーアム・ニーソンは列車のトイレに1万ドルを見つけ、映画は非日常に突入していく。
そのあとはもちろん後悔の連続!ニーソンの眉間には、シワが寄りっぱなし!謎の少年は話しかけて来るわ、家族は人質にとられるわ、死体も発見!殺す勢いで襲って来るやつも出現!電車もやばい!電車から落ちるのもやばいけど、電車ごとクラッシュするのもやばい!と、会社をクビになった悲劇など完全に忘れ去ってしまう、怒涛の展開がやってくる。
監督は、『フライト・ゲーム』『アンノウン』のジャウマ・コレット=セラ。『フライト・ゲーム』でもリーアム・ニーソン、飛行機のなかで揉めていた。まさか電車に乗ってまで、三次元的にぶん回されるとは思わなかったけれど、この監督とニーソンが組み合わされば、たとえ免震構造ビルディングの中であろうが、茶室の中であろうが、上へ下への大アクションとなってしまうのは避けられない。
謎の女から出されたお願いとは「ある乗客を見つけて欲しい」というものだった。手がかりは・通勤客でなく、・カバンを持っていて、・終着駅までの切符を持っているという、3つだけ。ニーソンは限界状況で推理をし続けるが、もちろん怪しいと思って車内を見わたせば、誰もが怪しい。「イマドキの若いヤツは怪しい......」いや、「黒人は怪しい......」いやそれよりも、「首にタトゥー入って、笑顔がないやつこそ怪しい!?」、いやいや「外国の言葉を話してる奴こそ怪しいのでは......」など、考えれば考えるほど、パラノイアにひきずり込まれていく。
かくいう私も、むかし旅行先で「いやー、タイっていろいろな人間がいて最高!みんな違って、みんないい!」とスーパー・ハッピー状態だったのが、有り金ぜんぶ盗まれていることに気づいた瞬間から、「あの刺青していたヤツが盗んだに違いない......」、いや「あの中華系の宿のホテル従業員かも!?」、いや「あのとき、カメラのシャッターを頼んできたポーランド人の旅行者が......」、まさか「あの笑顔が眩しかった、漢字で名前を書いてほしいと頼んできた子供だったというのか!?」と、パラノイアに陥ったことがある。もちろんお金は出てこず、その後はショックのあまり安宿に寝たきりになって、偶然手元にあった瀬戸内寂聴をひたすら読んでいた。
ところが、さすが長年、保険会社で勤めていただけある主人公は、こういうときにも寝込んだりしない。「不審な人を見かけましたら、乗務員にお知らせ下さい」という、誰もが暗黙の了解で無視してしまう車内ステッカーを見つけるや、車掌に「不審者リポート」をして、代わりに荷物チェックをすすめさせるのだ。ニーソンは影から怪しい反応をするやつを見張るだけで、仕事を進めることができる、さすが勤続10年!人の使い方がうまい!きっと保険会社でもいい仕事をしていたにちがいない。
失業のショックが、より大きなショックで吹き飛ばされる本作のリーアム・ニーソン。思えば、それは瀬戸内寂聴の堕胎小説のすさまじさで、盗難のショックを忘れようとしていたあの日の私にも通じるのではないか。また本作を観終わったあとの、日常から出発して、なんだかんだでまた戻って来たけれど、その間とんでもないことになっていたね?という感覚。これは、家に帰る前に日常への倦怠感を忘れるために飲む、1本のストロングゼロに近いのではないか。人生には、悲劇もあり、また倦怠もある。そんなとき、人は本作のような「ミッション」に救われるのだ。私はそれを「悩みが取れるん・飲みッション」と名付けて、このレビューを終えたいと思う。
文=ターHELL穴トミヤ
<100人の乗客>から<ある人物>を探し出せ!
突然リストラされた男が通勤電車の中で引き受けた依頼
成功の報酬は10万ドル、失敗の代償は家族の命
『トレイン・ミッション』公開中
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映画『トレイン・ミッション』公式サイト
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