WEB SNIPER Cinema Review!!
第70回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞
メキシコのリゾートエリア、バジャルタの海辺に建つ瀟洒な別荘。そこに2人きりで住む姉妹のもとに、長い間疎遠になっていた美しき母アブリルが戻ってくる。17歳の妹バレリアは同じ年の少年との間に子供を身ごもっており、突然舞い戻ったアブリルは献身的に娘の面倒をみるのだが、バレリアの出産をきっかけに、自身の陰のある深い欲望を忠実に遂行していく......。『母という名の女』公開中
映画はいきなり女性の喘ぎ声から始まる。ところがスクリーンに映っているのは、料理をしている小太りの女性(ホアナ・ラレキ)で、どうやらその声は別の場所から聞こえてくるらしい。やはりラテン国家では喘ぎ声も自然なもの、まるで炊飯器の炊ける音やイビキと同じ程度の存在なのか!? ところが、あえぎ声を無視して料理を続けていた彼女が、突然キッチンを離れ電話をかけ始める。その顔は悲しそうで、やっぱり彼女的にもこの状況はナシだったようだ......。やがて、そこに先ほどの喘ぎ声の主がやってくる。少女で、全裸で、しかも臨月かというほどに、お腹を膨らませているバレリア(アナ・バレリア・ベセリル)。これはアリなのかナシなのか!?だが、すでにアルそのお腹の膨らみを前にすれば、アリもナシもない。それを知ってか知らずか、不敵な表情を浮かべた妊娠少女バレリアは、スクリーンの中で仁王立ちになり、17歳で、目の前の姉と一緒に、母親の所有する海辺の別荘に住んでいる。
バレリアの相手は、マテオ(エンリケ・アリソン)と呼ばれるやはり同い年の少年だった。悪びれもせずセックスを終えて出てくる姿には、やはり日本とは違うセックスのあり方を感じる(それともこれはメキシコでも相当ナシなのか)。夜になると友達を集めてのどんちゃん騒ぎが始まり、この二人の将来が不安でしかないが、少年マテオの心から少女バレリアを愛している様子だけが、ホッとさせてくれる。
当初は内緒にしていたものの、妊娠は母親(エマ・スアレス)にもバレてしまった。母親を交えた3人暮らしが始まり、やがて赤ちゃんも誕生する。四六時中続く育児を前にして、追い詰められ始めるバレリア。赤子が泣き叫んでいても起き出さず、突然の発熱を前にしてはオロオロ泣くばかり。いっぽうで父親となったマテオも、両親から結婚を反対されており、実家のホテルに職を求めても、冷たいあしらいを受ける。
監督のミシェル・フランコ(『父の秘密』『或る終焉』)は、一見普通の人間関係を描きながら、そこに少しづつ亀裂を潜ませ、やがておそるべき破局へと至るストーリーを描いてきた。本作も当初は、母親としての資格が疑問視されるバレリアを前にして、その母アブリルが、大人としての責務を果たそうと奮闘し、その結果衝突しあってしまう、そんな物語に見える。ところがこのアブリルの赤子のあやし方がどうもおかしい、なんかあまりに執着っていうか、お前その赤ちゃん自分のものにしたくなってねえ!?みたいな。どころか、赤ちゃんっていうかそれを利用してもう一度、自分の若さをとりもどそうとしてる!?みたいな。バレリアがヤバいヤンキー娘かと思っていたら、母親のほうがずっとヤバかったみたいになり、赤ちゃんをめぐるバトルが勃発。その真っ只中に17歳の少年マテオが巻き込まれていくんですね。
とはいえマテオ、何も考えてない。妻の母親から贈り物をもらえば喜び、コスプレセックスを誘われればコロッといかれちゃう。男の股間目線でいうと、この母と娘の両方とヤってしまうというのは叶井俊太郎、倉田真由美・著『ダメになってもだいじょうぶ―600人とSEXして4回結婚して破産してわかること』にもそんな体験が出て来たが、俗にいう親子丼であり、ラッキースケベの範疇に入るかなという理解も、あくまで男の股間目線で言えば、これはぎりぎりアリなのではないか?という微妙な線上にあると思う。しかしここで同じ親子丼とは言え、本作は「彼女」とその母親ではなく、「妻」とその母親であるという点、さらにはその間に赤子がいるという点で大きく異なってくる。そこにはより濃厚な「家族」という関係性が立ち上がり、その近親相姦っぽさによって男の股間目線であっても、これは圧倒的ナシへと傾き、映画はサイコサスペンスの感を漂わせ始めるのだ。
母と娘の戦いはどこまで暴走して行くのか。赤ん坊はどうなるのか。マテオはなんも考えてない。それでもなんとかサスペンスが進んでいき、全てが終わったかと思ったあとの、突然のアル・ナシジャッジ。そのビンタをもし、弛緩しきった頬にまともに受けて、私と同じように驚いてしまったならば。あなたもまた、17歳のマテオと同じ程度に、何も考えていない人間だった、ということになる。
文=ターHELL穴トミヤ
メキシコの気鋭ミシェル・フランコ監督が母と娘の確執を描く衝撃作のミステリー
『母という名の女』公開中
関連リンク
映画『母という名の女』公式サイト
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