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(C)Lucia Films S. de R.L de C.V. 2017

WEB SNIPER Cinema Review!!
第70回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞
メキシコのリゾートエリア、バジャルタの海辺に建つ瀟洒な別荘。そこに2人きりで住む姉妹のもとに、長い間疎遠になっていた美しき母アブリルが戻ってくる。17歳の妹バレリアは同じ年の少年との間に子供を身ごもっており、突然舞い戻ったアブリルは献身的に娘の面倒をみるのだが、バレリアの出産をきっかけに、自身の陰のある深い欲望を忠実に遂行していく......。

『母という名の女』公開中
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常識というのは相対的なもので、国や時代によって変わってくる。欧米で音をたててスープを飲めばヤバい人扱いされるが、日本で蕎麦を音もたてず食っている人がいたら自分の耳がおかしくなったのかと不安になる。婚前交渉もせずにいきなり結婚なんてありえない......という社会もあれば、婚前交渉したら村八分みたいな社会もあるだろう。常識というほど大袈裟でなくとも、暮らしの中での「アリ・ナシ」は家庭ごとにも異なってくるだろうし、性別によっても分かれてくる。本作の舞台はメキシコで、これは中々アリ・ナシの基準がわからない!今この映画で、こんなことが起きてるけど、これってアリ的文脈......?いや、ナシ的......?と揺れていると、圧倒的なヤバさが漂って来てこれはもう人類規模のナシ展開!?がやってきたのち、細かいアル・ナシに翻弄されつつ、それがアル・ナシどんでん返しとなって終わる。本作はそんなアル・ナシサスペンスとなっているのだ。

(C)Lucia Films S. de R.L de C.V. 2017

映画はいきなり女性の喘ぎ声から始まる。ところがスクリーンに映っているのは、料理をしている小太りの女性(ホアナ・ラレキ)で、どうやらその声は別の場所から聞こえてくるらしい。やはりラテン国家では喘ぎ声も自然なもの、まるで炊飯器の炊ける音やイビキと同じ程度の存在なのか!? ところが、あえぎ声を無視して料理を続けていた彼女が、突然キッチンを離れ電話をかけ始める。その顔は悲しそうで、やっぱり彼女的にもこの状況はナシだったようだ......。やがて、そこに先ほどの喘ぎ声の主がやってくる。少女で、全裸で、しかも臨月かというほどに、お腹を膨らませているバレリア(アナ・バレリア・ベセリル)。これはアリなのかナシなのか!?だが、すでにアルそのお腹の膨らみを前にすれば、アリもナシもない。それを知ってか知らずか、不敵な表情を浮かべた妊娠少女バレリアは、スクリーンの中で仁王立ちになり、17歳で、目の前の姉と一緒に、母親の所有する海辺の別荘に住んでいる。

バレリアの相手は、マテオ(エンリケ・アリソン)と呼ばれるやはり同い年の少年だった。悪びれもせずセックスを終えて出てくる姿には、やはり日本とは違うセックスのあり方を感じる(それともこれはメキシコでも相当ナシなのか)。夜になると友達を集めてのどんちゃん騒ぎが始まり、この二人の将来が不安でしかないが、少年マテオの心から少女バレリアを愛している様子だけが、ホッとさせてくれる。
当初は内緒にしていたものの、妊娠は母親(エマ・スアレス)にもバレてしまった。母親を交えた3人暮らしが始まり、やがて赤ちゃんも誕生する。四六時中続く育児を前にして、追い詰められ始めるバレリア。赤子が泣き叫んでいても起き出さず、突然の発熱を前にしてはオロオロ泣くばかり。いっぽうで父親となったマテオも、両親から結婚を反対されており、実家のホテルに職を求めても、冷たいあしらいを受ける。

(C)Lucia Films S. de R.L de C.V. 2017

監督のミシェル・フランコ(『父の秘密』『或る終焉』)は、一見普通の人間関係を描きながら、そこに少しづつ亀裂を潜ませ、やがておそるべき破局へと至るストーリーを描いてきた。本作も当初は、母親としての資格が疑問視されるバレリアを前にして、その母アブリルが、大人としての責務を果たそうと奮闘し、その結果衝突しあってしまう、そんな物語に見える。ところがこのアブリルの赤子のあやし方がどうもおかしい、なんかあまりに執着っていうか、お前その赤ちゃん自分のものにしたくなってねえ!?みたいな。どころか、赤ちゃんっていうかそれを利用してもう一度、自分の若さをとりもどそうとしてる!?みたいな。バレリアがヤバいヤンキー娘かと思っていたら、母親のほうがずっとヤバかったみたいになり、赤ちゃんをめぐるバトルが勃発。その真っ只中に17歳の少年マテオが巻き込まれていくんですね。

とはいえマテオ、何も考えてない。妻の母親から贈り物をもらえば喜び、コスプレセックスを誘われればコロッといかれちゃう。男の股間目線でいうと、この母と娘の両方とヤってしまうというのは叶井俊太郎、倉田真由美・著『ダメになってもだいじょうぶ―600人とSEXして4回結婚して破産してわかること』にもそんな体験が出て来たが、俗にいう親子丼であり、ラッキースケベの範疇に入るかなという理解も、あくまで男の股間目線で言えば、これはぎりぎりアリなのではないか?という微妙な線上にあると思う。しかしここで同じ親子丼とは言え、本作は「彼女」とその母親ではなく、「妻」とその母親であるという点、さらにはその間に赤子がいるという点で大きく異なってくる。そこにはより濃厚な「家族」という関係性が立ち上がり、その近親相姦っぽさによって男の股間目線であっても、これは圧倒的ナシへと傾き、映画はサイコサスペンスの感を漂わせ始めるのだ。

母と娘の戦いはどこまで暴走して行くのか。赤ん坊はどうなるのか。マテオはなんも考えてない。それでもなんとかサスペンスが進んでいき、全てが終わったかと思ったあとの、突然のアル・ナシジャッジ。そのビンタをもし、弛緩しきった頬にまともに受けて、私と同じように驚いてしまったならば。あなたもまた、17歳のマテオと同じ程度に、何も考えていない人間だった、ということになる。

文=ターHELL穴トミヤ

メキシコの気鋭ミシェル・フランコ監督が母と娘の確執を描く衝撃作のミステリー


『母という名の女』公開中
(C)Lucia Films S. de R.L de C.V. 2017
原題=『Las Hijas de Abril』
監督・脚本・製作・編集=ミシェル・フランコ
撮影=イヴ・カープ
製作総指揮=ティム・ロス
出演=ジェイク・ギレンホール、タチアナ・マスラニー、ミランダ・リチャードソン、クランシー・ブラウンほか

配給=彩プロ

2017年│メキシコ│スペイン語│カラー│ビスタサイズ│103分│PG12

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映画『母という名の女』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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