WEB SNIPER Cinema Review!!
東京国際映画祭「ジェムストーン賞」受賞
トロント国際映画祭「最優秀カナダ長編映画賞」受賞
いつもイライラして、どこかフワフワしてた。まぶしくてじれったい何もない毎日。17歳の夏が過ぎていく――。自分がやりたいことも自分の居場所もみつからない、カナダの小さな街に住む17歳の少女レオニーの物語。トロント国際映画祭「最優秀カナダ長編映画賞」受賞
6月15日(土) 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
またもや登場! 革ジャンを着込み、ハードロックを好む、小太りの男(いいね~!)。職業はミュージシャンと言いつつ、その実、ギターの個人レッスン教師(いいね~!)。仕事場兼住居にしているのは、実家の地下室(いいね、いいね~!)。けど、こいつは主人公じゃない。主人公は家庭にも、学校にも居場所がない女子高生のレオニー(カレル・トレンブレイ)で、彼女の両親は離婚していて、同居する母親の再婚相手は、いけ好かないクソ野郎。そんなある日、彼女が退屈な食事会を抜け出してバスに飛び乗った先で出会うのが......、このボンクラ男なんですね。
そして話は進み、二人がだんだん仲良くなっていって、もうこの流れ完全キスするでしょ!っていうところで、キスしない。本作、ここでターHELL 穴トミヤ賞受賞です! それもレオニーが、軽く首をふるだけという。この「ふふっ、ナイナイ」みたいなあっけなさがイイっ!
少女とボンクラ中年男の映画といえば、たとえば最近だと『やさしい人』(ギヨーム・ブラック監督)がありました。ヴァンサン・マケーニュ演じる、こちらも革ジャンの負け犬丸出しミュージシャンが、ソレーヌ・リゴ演じる少女といい仲になっていく。けどこの恋は成就しない。ジョシュ・ラドナーが本好きの独身を演じ、エリザベス・オルセン演じる女子大生と恋仲になるのは『恋するふたりの文学講座』(ジョシュ・ラドナー監督)。この二人の恋も、やっぱり成就しない。そして忘れちゃいけない『ゴーストワールド』(テリー・ツワイゴフ監督)では、19歳の主人公(ソーラ・パーチ)と中年レコード・コレクター(スティーヴ・ブシェミ)がまさか、もしかして!?と思わせておいて、この恋も成就しない。
居場所のない思春期ガールが、おなじく居場所のなさそうなおっさんに、興味を示し、心惹かれていく。けれど、その恋はいつだって成就しないんです!当然です!それでいい!思春期ガールズは、父親と恋人は違うんだということを確かめて、そして次の人生へと向かって行く。
その点、本作は潔い。「二人がくっつくのか、くっつかないのか......」、そこは引っ張らず、レオニーの首ふり一つでさっさと否定して先に進んでいく。この映画が描いているのは恋愛じゃない!じゃあ何なんだというと、そこには一緒にいる時間があるんですね。
舞台は、カナダのフランス語圏ケベック州にある、入江の田舎町。レオニーは、野球場でバイトをしていて、照明のスイッチを入れたり、白線を引いたりしている。たまに会える血の繋がった父親とは、一緒に映画を観たり、学校の悩みを相談したり。そんな毎日のなかで、ボンクラ男と出会い、なんとなくデートを重ねるようになる。
このボンクラ男を演じるピエール=リュック・ブリラントが、ジャック・ブラックのようなビジュアルでありつつ、表情に寂しさがある。時々、大きな諦めみたいな目をふっと見せて、それがいい。レオニーが地下室に訪ねて行くと、こいつが少年に早弾きとかを教えている。これがむちゃくちゃ上手い。ああこのボンクラ音楽がマジで好きなんだなっていうのが、伝わってくる。
対するレオニーはといえば、普段使っているヘッドフォンがGRADOというメーカーのモデルは多分SR60eで、これは安くて、無骨で、いまどき有線接続で、しかもオープン型だから音漏れがひどくて、でも音がいい。こんなヘッドフォンを使ってるレオニーも、もちろん音楽が大好きにちがいない!
二人が一緒にレコードを聴くシーン。ボンクラ男が、RUSHという80'sハードロックバンドの曲をかけながら、イントロに合わせてエアードラムを叩きはじめる。やがてはじまるベース。打楽器と弦楽器が、ひとつの旋律へと混ざりあっていくその高まりが、会話もなくそこには映っている。同時に、レオニーとボンクラ男がその瞬間において、今までボンクラ男の過ごしてきた時間や情熱を共有することになった、その出会いの素晴らしさみたいなものもそこにある。二人はこのとき、確かに一緒にいたのだ。
男があまり自分に興味を示さないことに不満げなレオニーが、それでも男のダブダブの革ジャンを羽織って、ビリヤードのあるバーにいる。ジュークボックスで曲をかけ、ハングオンみたいなバイク型ゲームにまたがったボンクラ男に、くっついて座る。ここで、交互に映る顔。無言の二人の顔が液晶画面からの青白い光と、店内の温かい灯りの色に染まっている。『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス監督)以来久々の、ジュークボックスの曲だけが語りかけてくる、素晴らしいシーン。この時も二人は、たしかに一緒にいた!
レオニーの実の父親が労働組合の委員長で、対する継父はトランプ大統領みたいな論調のラジオDJという対比はちょっとベタすぎて、どうなのという思いもあったが、いいんです!アイデンティティに迷っているレオニーと、なんだか時々諦めの目を見せるボンクラ男。その二人の関係を、恋じゃないけど、誰かが横にいてくれた時間、として描けているこの映画は渋い!
やっぱり女子には、ボンクラおっさんを必要とするそんな時期が一度はくるものなのだろうか。そのとき、私が「レンタルなんもしない人」ならぬ、「レンタルベッドでなんもしない人」を名乗っていれば、思春期女子からの依頼殺到なのではないか? 結果として女子のいい匂いをたくさん嗅ぐことができ、恋ではなかったが、あとから匂いを思い出して「さよなら、退屈なオナニー」状態へと突入できるのではないか!?そんな妄想も膨らむ本作でした。
文=ターHELL穴トミヤ
あの頃の「きらめき」と「痛み」がよみがえる、ひと夏の泡沫青春ダイアリー
『さよなら、退屈なレオニー』
6月15日(土) 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
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